6 陽編 刺繍のハンカチの効果
ソフィアがいる生活にも少し慣れてきたころ、
いつもの通り、二人での食事を終えて、
ソフィアが選んでくれた紅茶を飲む。
今日も満足度の高い一日だった。
心地よい疲れと、胃が満たされた満足感に浸る。
その時、
向かいに座るソフィアが
美しいリボンのついた小箱を
フレデリックにそっと差し出した。
テーブルにそっと置かれた小箱
そして、遠慮がちに話し始めた。
「・・旦那様、
先日はたくさんの贈り物。ありがとうございました。
それで・・私からお返しできるものを考えたのですが・・手持ちもなく、
せめてハンカチに得意の刺繍をと思いまして・・」
差し出された箱を開けると中には
美しい刺繍が施されたハンカチが・・
手に取ってみる。
「これは・・手の込んだ刺繡だ」
刺繍のことは詳しくないが、色遣いやデザインだけで
手のかかるものだということくらいはわかる。
「器用なのだな」
ハンカチをよく眺め、少し恥ずかしそうにしているソフィアに
「ありがとう。」
といった。
ソフィアは喜んでもらえてうれしいですと
先ほどと違い少し元気に答えた。
翌日はさっそく
ソフィアのハンカチを持って職場に行った。
懐が妙に気になり、
仕事の合間にそっと取り出して、ハンカチを眺めてしまう。
細やかな色使いがとても美しい。
庭のセンスがあるソフィアだから、
色使いもいい。
ハンカチを見ながら仕事中にもかかわらず
笑みがこぼれた。
__そんなフレデリックを
上司であるボルソワーレ侯爵は
見逃さなかった。
フレデリックは優秀な外交官だ。
しかし数年前、何かの事情で、
数日の休暇を取って以来
まるで機械仕掛けのように仕事をするようになった。
笑顔が好印象の青年だったのに、
表情がまるでなくなってしまった。
人付き合いも苦手でなく、
優しいところがあったのに…
あまりの変わりようが気になり、何度か屋敷に招待して部下たちとの交流を図ってみたり、
年頃の令嬢が集まる夜会に招待したり・・・
上司として、なにか手助けができればと
思っていたのだが。
「…お気遣いはありがたいのですが…」
そういって、なるべく仕事に時間を使いたい。
という理由を述べて、あまり社交の場には顔を出さなくなってしまった。
どんどん進む彼の仕事。
まわりの同僚たちは
“フレデリックと比べられては迷惑だ”といった感じだ。
そんな彼がまとう空気が変わってきたのは
結婚してからだ。
「フレデリック、やはり結婚してよかったな」
安心したぞ。
そんな思いが込められた言葉。
仕事中にいきなり、上司であるボルソワーレ侯爵に
そんな言葉を投げかけられ、
なんのことだかさっぱり分らなかったが
とりあえず
「はい」と答えておく。
フレデリックの返事にボルソワーレ侯爵は
とても満足そうだ。
やはり、もっと長い休暇を無理にでも
取らせるべきだったな。
と思いながらも、うんうんと頷く。
フレデリックは懐のハンカチに触れながら、
静かに仕事に戻る
その表情は、無機質なものではなく、
柔らかだ。




