26 陰編 はじめての独占欲
馬車にふたり。
ガタガタと揺れる馬車のおかげで、
張り詰めた空気を感じさせない。
ソフィアが先に口を開いた。
「先日、ボルソワーレ侯爵夫人のお茶会で・・
ブリジット様に初めてお会いしました・・・」
ソフィアの目はフレデリックと合わないままだった。
「・・・・とても淋しそうな笑顔でした」
その日のことを思い出し、また苦しくなる気持ちを抑える。
…そんなソフィアの気持ちが
今は同じようにわかる
フレデリック。
昔の話を始めた・・・。
「彼女とは・・・親が決めた婚約だった。」
ソフィアの方をまっすぐ見つめて。
「・・当時はそのまま普通に結婚するのだと思っていた。
___貴族の結婚はそういうものだと。
お互い誠実なだけで、花を贈ったり、ドレスを贈ったり。
それは慣習と同じで・・・・愛とは呼べなかった」
少し間があいた。
思い出すように、続きを話し始める。
「特に嫌いなところもなければ・・・
忘れられないほど好きな点も…ないんだ」
彼女の印象を思い出すように話す。
「ただ・・・貴族には珍しく。
婚約者を突然奪われたという傷が・・・
私を苦しめたのだと思う
…おそらく、愛を失う悲しみよりも、
信じていたものが、崩れた痛みだった」
フレデリックはソフィアにきちんと伝わるように
言葉を選びながらも丁寧に説明した。
「でも、ソフィアは違った。」
フレデリックはソフィアの手をそっと包む。
「君は、空っぽだった僕に。
いろんな愛を注いでくれた唯一の人だ。
ソフィアでなければ__
こんなに深い愛があるなんて…
知らないままだっただろう。」
フレデリックの瞳は、ずっとソフィアから離れない
「今…君を好きなった時よりも苦しいんだ。
…君が、愛する妻になってくれたのに。
__やっと君と結ばれたのに…」
馬車は揺れる。
「まるで、まだ君を追いかけているように
・・・苦しい」
フレディの瞳が潤む。
ようやく…ソフィアの瞳がフレディを見つめた。
ソフィアは恐る恐る、フレディの頬に
手を当てていた。
そして、くっついてしまいそうなほど
近くで見つめた。
か細い声がささやいた。
「私は・・あなただけを…愛してる。
だから・・・
他の誰も見ないで。誰のことも思わないで。
…ずっと私だけを愛してほしい」
悲しい涙とは違う涙が、一筋…流れた。
ソフィアが見せた
初めての独占欲だった。
ソフィアの言葉を聞いた瞬間
フレデリックの胸を締め付けていたものが
ほどけていく。
フレデリックはソフィアを抱き寄せた。
そして、
初めてのキスと同じ
優しい、優しいキスを何度もした。
連投で最終話まで投稿します




