25 陰編 濁った瞳
遠くまで見渡せる広大な農園に、
ゆっくりと朝が、訪れる。
暗闇に包まれていた部屋にも、涼しい風とともに
柔らかい光が差し込んだ。
がたっ。
一階から聞こえる音。
夫妻が心配して来たのかもしれない。
まだ取り繕うこともできずにいる二人。
誰かがゆっくりと二階に向かってくるのがわかる。
コンコン。
「・・・早朝から失礼いたします。ルイスです。
旦那様、少しお時間よろしいでしょうか。
下でお待ちしております」
そういって、一階へと消えていった。
フレデリックはソフィアとの関係をどうすることもできず、ルイスに対応する余力を失いつつあった。
本当なら、今日からソフィアと渓谷がきれいな領地に出かけていたはずだった。
「・・ソフィア君は少し休むといい。」
そういってゆっくりと立ちあがり、
一階へと向かった。
階段を下りていくと、リビングのような広間がある
そこでルイスは姿勢を正し、フレデリックを待っていた。
「朝早くから、大変申し訳ございません。
どうしてもお伝えしたいことがあり…
昨夜考えてこちらに来ました」
フレデリックはソファーに掛けるよう
ルイスを促した。
腰を落ち着け、一息つくとルイスは
ゆっくりと口を開いた。
「・・・奥様は。とても旦那様を愛していらっしゃいます。それは、この領地で奥様に会った誰もが感じたことです。」
そう前置きをすると、
「ただ、時折とても寂しそうな顔をされる事がありました。何かお悩みを抱えておられるように見えましたが、…わたしには理由までは分かりません。
…それで研究に打ち込んでおられたのかもしれません」
そういって、ルイスは束になった資料を見せた。
「・・・これは奥様がここにきてからまとめた研究資料と今後の農園の目標などです」
差し出された資料の多さに少し驚く。
パラパラとぼんやりした頭で紙を見る。
一枚目。
二枚目。
三枚目………。
ページをめくるたびに、びっしりと書き込まれた
文字が目にはいる。
栽培記録。
温度の変化。
収穫の比較。
今後の活用案。
眺めただけでわかる。
ルイスと毎日楽しく過ごしていただけなら、こんな資料は2週間ではできなかっただろう。
ソフィア___。
自分の方がずっと大人なのに、
気持ちを思いやれず、責めてしまった。
3年前のこととはいえ、
宝石を放置していた自分が招いたことだ。
執事たちも留守の間の出来事を心配していた。
ソフィアを傷つけ、その愛も疑ってしまった自分が恥かしかった。
でもまだ____
笑顔で食事をしていた二人の顔が忘れられない
自分がいるのだ。
とても馬鹿げているかもしれないが、
この気持ちは嫉妬だ。
そして、何より辛いのは・・・・
ソフィアがフレデリックを見つめる瞳が
____濁ったままだ。ということだ。
…二階からソフィアが降りてきた。
「王都の屋敷に帰ります」
ここにいても、何も解決しない…。
疲れ果てた彼女の顔から、あきらめたような
悲しい声が聞こえた。
…駆け寄って抱きしめる。
「ソフィア。君が一番大切なのに。
悲しい思いをさせた・・・」
「迎えの馬車が付いたら、一緒に帰ろう。」
フレデリックは抱きしめたままいった。
ルイスは
「奥様、これからも記録は定期的に屋敷にお送りいたします。どうか参考にしてください」
といった。
ルイスは深く頭を下げた。
その姿をみて、フレデリックは胸の奥が痛んだ。
疑うべき相手ではなかったのた。




