24 陰編 契約妻だったわたし
夜になり、昼間とはちがって少し風が冷たくなる。
セルノア夫妻とルイスたちは夜は自宅へと帰り、
管理屋敷はソフィアとフレデリックだけとなった。
フレデリックは昨夜泊まり込みの仕事をようやく終わらせ王都の屋敷に戻ってきたのだが、トマスから領地に行ったソフィアが2週間帰らないことを聞き、
始めは、パオがそんなに好きなのか。
と笑っていたが、
トマスとベルから聞いた話に驚き、
翌朝早馬でここまで来たのだ。
掃除で見つけた昔の宝石。
過去の宝石購入の記録と、ブリジットの名前。
お茶会から帰った時の様子。
またしても自分がそばにいなかったことが悔やまれ、
いてもたってもいられなかったのだ。
すこし落ち着きを取り戻し、フレデリックはソフィアの元に向かった。
コンコン。
「・・・はいるよ。ソフィア」
ベッドに座るソフィアの横に腰を掛ける。
「昨日、仕事が終わり屋敷に帰ったんだ。」
ソフィアは動かない。
「君が帰らないときいて心臓が止まるかとおもった」
フレデリックは悲しそうな顔をした。
「トマスが・・・宝石の購入記録を気にしたのではないかと・・・とても心配していた。」
「ベルもお茶会から帰った君の様子を気にしていた」
フレデリックは、ソフィアの曇った瞳を見つめた。
「誤解させるようなことがあっとことを謝りたい。
でも、僕の心は過去への思いは何もないんだ。ソフィア」
そして、
「ここでのパオの研究は・・・もう終わりにしよう。」
誰が悪いわけでもない。
過去の宝石購入の記録をたまたま目にしてしまった自分。
しかしこの暗く重い気持ちが自分を支配している。
それは__嫉妬だ。
ようやくわかった。
早く忘れたかった。
没頭するものが欲しかった。
時間が必要だったのだ____。
その言葉をまた、…口にできず。
「パオの研究は・・・やめたくないの」
___ショックを受けるフレデリック。
「そこまでして、…ここにいたいのか?」
フレデリックの声は、低く震えている。
・・・・。
ソフィアはその言葉がショックだった。
やっぱり、私は疑われたの?
すこし間をおいて、ソフィアは
苦しい言葉を吐き出した。
「・・・ベラニア侯爵夫人を・・知っていますか?」
空気が少し張り詰めた。
しかし
「もちろん知っているよ。
でもずいぶん前に終わったことだ」
淡々と答える。
「・・・でも、夫人の方の心は・・
まだ終わってなかったら?」
口にしてしまった。
___もう、ソフィアは自分の言葉を
止めることができなかった。
「__二度と誰も愛さないと、
そう思うほど愛した人が
今、幸せでなかったら。あなたは、
ほおっておけますか?」
・・きっと、優しいあなたは。
・・・気がかりなはず。
「私は、ただの・・契約妻。____だっただけ。」
言葉にしてしまって悲しくなる。
ソフィアから大粒の涙があふれる。
フレデリックは驚き、
すぐにソフィアを抱きしめる。
「そんな・・僕は・・
今、こんなに君を愛しているのに・・・?」
フレデリックの心臓に激痛が走る。
彼女のこんなにも不安な気持ちを癒せないまま。
責めてしまった自分。
こんなにも愛しているのに。
自分の気持ちはまだ、彼女に届いていなかった。
…その事実が、何よりも苦しかった




