21 陰編 忘れたい気持ち
それからしばらくして、
ボルソワーレ侯爵夫人の恒例のお茶会が開かれた。
今回は、夫人が普段とお付き合いのある女性たちが
集まり、交流するだけの軽いお茶会だ。
(皆さんにお会いして、気持ちがあかるくなったわ)
ソフィアは、契約妻の時代から夫人たちとは親しくなり、気安く話せるお友達もできた。
「ソフィア様は旦那様がドレス選びに熱心だとか?」
ギルフォード伯爵夫妻の仲睦まじさにあこがれる令嬢が話題にあげる
「え、ええ。旦那様は私よりもセンスが良くて、安心してアドバイスを受けています」
ソフィアは事実、自分の好みにフレデリックアドバイスが加わると、魔法がかかったように、しっくりくることに気づいていた。
「まぁ、それほどよく奥様を見ていらっしゃるのね」
そんな会話の輪にいた一人の女性が、
ソフィアをじっと見つめたあと、笑顔でほほ笑んだ。
(どなただったかしら?)
しかし、覚えのない夫人にほほえみを返し次の話題に移ろうとしていた時、
ふっと目に入る
彼女のデコルテに輝く、赤い宝石。
もしかして___。
女性の横にいたボルソワーレ侯爵夫人が、
「ブリジット様、お久しぶりにお会いできて・・・・」
『ブリジット嬢』__その人だった。
それからのソフィアは、離れるようにべつの輪に加わる。
しかしここは社交の場
離れた場所の話題がこちらで上がるのだ。
「そういえば、ブリジット様しばらくお見えにならなかったのは、また旦那様の愛人が増えて心を痛められたとか」
「おかわいそうね・・」
「あれほど望まれてご結婚されたのに・・お子様もまだ・・」
・・・夫人たちは次々に話題を上げた。
その時、一人の婦人の気遣いにより、ブリジット嬢の話題は止まる。
それは、ソフィアへの気遣いであった。
フレデリックとブリジットのことは
社交界でも知られたことなのだと知った。
楽しみにしていたお茶会が、少しだけ遠く感じられる。
また・・・
(また。この気持ち)
この息苦しい感情がなにか。まだはっきりとわからないソフィアだった。
ベラニア侯爵夫人ブリジット様。
ベラニア侯爵は、騎士団のトップを務める英雄だ。
しかし夫人たちの噂では
(あまりお幸せでない様子・・・)
そのことが、ソフィアをさらに暗くしたのだった。
(今の彼女のことを知ったら、フレディはどう思うのかしら)
途端に怖くなる。
屋敷に帰ったソフィア。
「おかえりなさいませ。奥様。楽しまれましたか?」
このところ元気がなかったソフィアが今朝は張り切って出かけた。
それに安心していたベルは、
満面の笑で帰宅を迎えた。
「た、ただいま帰りました。あの、今日はいつもより人が多くて
少し疲れてしまったので、湯あみをして休みます。」
ソフィアは何とか落ち着きを取り戻し、
ベルに伝える。
「・・そうですか、お付き合いはいつも大変ですものね。すぐに湯あみの準備をいたしますので、お部屋でお待ちくださいませ」
すぐに侍女に指示を出す。
部屋にもどり、ぼんやりする自分に喝を入れようと、
本を手にする。
それは、先日フレデリックから贈られた専門書だ。
「もっと知りたいと言ったのは私なのに、しっかりしなきゃ」
しばらく留守のフレデリックのことを考えないように、本に没頭し始めるソフィア。
湯あみの後、早く休むつもりがどんどん興味を惹かれ、読み進める。
そして、翌日も時間があれば本を手にする。
「本当に奥様は熱心ですね」
侍女たちは、ソフィアの集中力に驚く。
気が付けは、宝石のことも、ブリジット様のことも視界からほとんど消えていた。
(本だけでなく、実際の生育記録や世話をしなければ何も得られないわ)
一度農園をみてみたい!




