20 陰編 淋しそうな微笑み
翌朝__。
カリーナは、いつもより早く仕事につき
侍女長のベルに昨日のルビーについて相談するタイミングを待つことにした。
ソフィアとフレデリックがいない時間があれば・・。
そのタイミングは意外とすぐにやってきた
昨日に引き続いて荷物の仕分けが行われている間、
ベルが新人侍女を迎える準備のため、持ち場を離れる。
(今だわ!)
「侍女長、そちらの仕事も手伝います」
「あら、助かるわ。」
階段を降り、侍女たちの部屋に入ると、カリーナは扉をしっかり締める。
「侍女長っ!・・・ご相談があります!」
突然の話に、ベルは少し驚きながらも耳を傾ける。
「じ・・実は。昨日の仕分け中に・・。
旦那様の部屋から出てきた、ネックレスがありまして・・・」
カリーナは、昨日荷物に忍ばせたネックレスについて話す。
そして、執事のトマスも呼び、実物の確認をお願いした。
「こ・・れは。ふむ。」
トマスは、
「旦那様に限って、浮気などありえないが、
いつ購入されたものか宝石店へ問い合わせておこう」
「そうねぇ。もしかしたら大奥様へのプレゼントかもしれないし・・・」
ベルはそういってみたものの、そのネックレスのデザインから
“若い女性のためのもの”と分かっていた。
※※
ソフィアは数か月前から、伯爵家の仕事の一部を手伝っていた。
手紙の仕分け、来客の記録確認など、伯爵家の付き合いがわかるような仕事に関して。
今日も大量の手紙が届き、事務的なもの、個人的なもの、至急対応が必要なもの・・
箱に仕分けていく。
すると・・・
(宝石店からのお手紙?)
伯爵家の買い付けや請求書はソフィアも確認すべきものだ。
(・・・今度は何を買ったのかしら。)
クスリ。と笑い
その手紙を開く。
しかし、そこに書かれていいたのは・・・
(え?これは・・なにかしら)
過去にさかのぼり、伯爵家が購入してきた女性向けのアクセサリーの記録だった。
(なぜ?こんなものが突然・・・)
意味もわからず、その手紙を眺める。
そして、ソフィアと出会う前に、購入された宝石の数々を知る。
ガーネットのネックレス。
ルビーのネックレス。
アメジストのイヤリング
レッドベリルの髪飾り・・・・
濃い赤をイメージする宝石の文字がずらりと並ぶ。
最後に書かれた一文に、さらにショックを受ける。
“お問い合わせいただいたネックレスは3年前ブリジット嬢のために作られたネックレスだと思われます“
『ブリジット嬢』
おそらく・・
フレデリックが“人を愛することなど不毛だ”
とショックを受けたという
過去に大切にしていた女性
その赤い宝石の数々から、大人の女性像が浮かぶ。
フレデリックの横に女性が立つ姿を
思わず想像してしまった。
(正式に式を挙げたばかりなのに・・
おかしいわ。私)
手紙をそっと封に戻し、何事もなかったかのように、
仕分け箱にしまうことにした。
ふと、自分の指先にあるピンクダイヤモンドの指輪に
目が行く。
この指輪は正式なプロポーズをされた後、
「ソフィーのイメージにぴったりだ。いつも身に付けていてほしい」
とフレデリックから贈られたものだ。
その、かわいらしいデザインと、石の輝きがとても気に入り、毎日つけていた。
しかし、今は・・
この指輪を選んだ時のように、その女性を想ってネックレスを選んだのだろう…
という事実に目を背けたかったのだ。
※※
今日でフレデリックの荷物の仕分けは終わりそうだった。
「奥様、あとは掃除だけですから、わたくし共で」
そういって、お茶の用意をしてくれた。
ゆったりとした時間が、ソフィアに余計な思考を与える。
用意された菓子にも手を付けず、窓から見える景色を眺める。
庭の花は、次の季節へと移ろうとしていた。
ピンクダイヤモンドの指輪をそっと外す。
(誰にも聞けない話を頭で何度も繰り返すなんて・・・)
(しばらく、石の宝石を見ないようにしよう。)
※※
一方、執事のトマスは宝石店からの手紙がそろそろ着くころでは?
と、手紙の仕分け箱をみて気づく。
(宝石店からの手紙が開封されている…)
もちろん、ソフィアは伯爵家の奥様であり、手紙を見ることに何ら問題はない。
そして、宝石の記録もそれだけなら問題なかったのだが・・・・
“問い合わせいただいたルビーのネックレスは
3年前にブリジット嬢のためにつくられたものです“
この一文まで、読んでいたとしたら・・・。
トマスは、少し気がかりに感じたが、
ルビーのネックレスとともに、後日、旦那様に相談しようと考えたのだった。
「ただいま戻った。ソフィアは?」
旦那様はこの頃、大変帰宅が早い。
荷物を受け取っているとソフィアが迎えに出てきた
「遅くなってごめんなさい。
おかえりなさい。フレディ」
「ソフィーに早くあいたかったよ」
フレデリックはソフィアの腰に優しく手を回した。
(大丈夫でしょう。このお二人は。)
目の前の仲睦まじい夫婦の姿に、トマスの中で先ほどまでの気がかりは消えつつあった。
そんな日々が数日続き・・・
「ベル、最近ソフィアに何かあったか?」
ふいにフレデリックが話しかける。
「どういったことでしょうか?」
ベルは、思いがけない主人からの質問ではあったが、
少しだけ気がかりがあった。
「いや。あんなに気に入っていた。
ピンクダイヤの指輪をしていない。
なくしてしまったのなら、気にかけて
探してあげてほしい」
実はベルも気づいていた。トマスから手紙の相談があった日からソフィアの指に
…指輪がはめられていないことを。
「はい。探しておきます。」
ベルはそう答えた。
フレデリックは翌日から泊まり込みの仕事が始まる。
食後のお茶を飲みながら、
「ソフィー。とうとう明日から泊まり込みだ。
しばらく帰れないが、終わったら君と旅行に行きたいと思っているんだ」
そういって、フレデリックはソフィアに微笑む
「渓谷が美しい領地があってね、
君にぜひ見せてあげたい」
そういって頬にキスをする。
いつもと変わらない、フレデリックの愛情。
嬉しく思いながら、離れるさみしさを感じていた。
それと同時に・・
知りたいけれど・・知りたくない。
まだ割り切れに気持ちがソフィアのどこかにあった。




