16 陽編 涙の訳は
(え?・・・その反応は?)
真っ赤な顔をして、フレデリックを見るソフィア。
手で顔を覆っている。
「ソフィー。いつも私のために頑張ってくれる
君に、心から感謝しているんだ」
足に氷をあてながら、
フレデリックは続ける。
それで・・・
すこし、間があく。
「お飾り妻を解消したいと思っているのだが・・」
__そこまで話した時。
水滴が、フレデリックの手に落ちてきた。
驚いて見上げると___
ソフィアの目から
涙があふれていた。
「やっぱり・・私では・・旦那様の奥様役は
務まりませんでしたか・・?」
そういって、少し腫れが引いた足を、
庇うことなく、ソフィアは部屋から出て行ってしまった。
(え。・・どうしてこうなった?)
新しい氷を持ってきた侍女長が、
部屋から走り去るソフィアを見て、
驚いてフレデリックの元に来る。
「どうかされましたか?」
「あ・・いや。
なんでか、わからないのだが・・。」
(私は・・間違えたのか?)
※※
すこし、時間をおいてソフィアの部屋を訪ねる。
コンコン。
「ソフィア。どうしたんだ?」
部屋からは、何も聞こえない。
侍女長に、彼女が心配だから様子を見るように頼んで、部屋に戻ることにする。
__彼女の足を冷やした時、
彼女に感謝を述べた。
彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめたから__
___きっと__
__きっと、お飾り妻でなく、
本当の妻になる事を受け入れてもらえると
・・・信じて。・・
しかし、結果は
(違ったのか?)
先ほどまでの、
高ぶった熱は、重くて暗い気持ちに
変わりつつあった。
この気持ち・・も。
知っている。
この苦しさは、長く続く辛いものだ。
明けない夜のように、
永遠にも感じる、暗くて重い・・
__気持ち。
・・だから、お飾り妻を選んだのに。
お飾り妻に恋をしてしまった。
ははは。
すこし、きついな。
フレデリックはベッドに横たわった。
※※
コンコン。
「奥様。・・よろしいですか?」
「は・・い」
侍女長は、足を冷やすための氷を持ってきた。
「そちらに掛けたままでどうぞ。」
そう言って、ソフィアの足を少し持ち上げ、
足首を冷やす。
「ずいぶん・・無理されましたね・・」
侍女長は、まだ熱を持ったままのソフィアの足を
そっとなでて
「きっと、屋敷を出るときから、
もう痛かったのではないですか?」
・・・。
「旦那様のために。頑張っているのですね・・」
__そういって、侍女長はソフィアを抱きしめる。
「うっ・・」
また、ソフィアの涙が止まらない。
「__だめなの。上手にできなくて・・・。
旦那様に迷惑ばかりかけてしまって・・
契約は・・解消しようって・・」
そういって、強く侍女長に抱きついた。
「わたし、ここの皆が好きだし。旦那様も好き。」
ぐすん。と喉がつまる。
「だけど、・・私では、奥様役を果たせないの・・」
侍女長は優しくソフィアの背中をなでる。
「奥様・・。本当に、そういわれましたか?」
侍女長はニコリと笑顔でソフィアを見る。
「__ええ・・。契約を解消したいって・・ううっ。」
真っ赤に腫れたソフィアの目。
あらあら。といって
侍女長は口元を緩めて、小さなため息をつく。
「奥様。旦那様は今。
__多分、ショックで。」
__部屋で倒れていますね。__
「しばらく、旦那様を懲らしめてやりましょう」
え?
真っ赤な目のソフィアは意味が分からないまま
侍女長を見る。
「今夜は、こちらに軽食を用意いたしますので、
ゆっくり過ごしてくださいませ。
湯あみもすぐに準備いたします」
それから・・
「足が痛むようでしたら、明日一番に医師を
手配いたしますので、
安心してお休みくださいませ・・奥様」
深々と頭を下げ、にっこりと笑い、侍女長は
待機している侍女たちに指示を出すために、
部屋を出た。
パタン。としまった扉をみて、
ソフィアは
何か自分が間違えたのか、
__よく考えることにした。
※※
__すこし、眠っただろうか・・
部屋は真っ暗だ。
誰もフレデリックに部屋には近づかない。
はぁ。・・
ソフィアの足は、少しは
__良くなっただろうか?
それが気になる。
コンコン。
「旦那様」
侍女長がやってきた。
「奥様の足は。明日の朝
医師に診ていただこうと思います。
今夜はゆっくりとお休みくださいませ」
・・それから
「何か…お持ちしますか?」
「いや・・いい」
では。そう答えると、侍女長は出ていった。
医師に見せるほど・・腫れているのか。
かわいそうに・・。
なぜすぐに医師を呼ばなかったのか・・。
足が痛い彼女に・・
嫌がっていた話をするなど・・
__ひどい夫だ__
どうしてもっと彼女を
思いやれなかったのだろう・・
優しい彼女は家族を助けるために契約した・・
そうか!
契約解消されたら、
彼女は大切な家族を
守れなくなるのか__。
そんなことも忘れて・・
私は。
__自分が嫌になる。
※※
「ベル、これからどうなるだろうか・・お二人は。」
トマスはベルの隣で、先ほどから何度も深いため息をついている。
__とても似合いの夫婦だと思っていた。
旦那様は冷たい人ではない。
優しすぎて、傷つきやすい方なのだ。
奥様はそんな旦那様をそっと包むように接してくれた。
(ふぅ。)
また、深いため息が漏れる。
「あら、大丈夫ですよ」
旦那様の部屋から戻ってきたばかりのベルは
手にしたカップを包み込んで、
「お二人とも、お互いが大切で、
近づけないだけですから」
と、ほほ笑んだ。
__その会話を
離れたところでこっそりと聞いていた侍女たちは、
「ええー!?そうだったのですか。
本当に、喧嘩してしまったかと・・・」
ほっとして、涙が出る。
侍女長は、若い侍女たちに
「明日はきっと、お祝いになりますよ。」
といった。




