12 陽編 奥様がすごい
その後三日間は、フレデリックの意思により
ソフィアはベッドの上で過ごすことになった。
「フレデリック様、私はもうとっくに元気です」
そういってベッドから出ようとするソフィアに
「だめだ。ソフィアはすぐに無理をするから」
そういって、今日も彼女の口にスプーンを運んでいる。
ソフィア、あーん。して?
可愛い口に食事を運べることが、
こんなに幸せな事だと知らなかったな。
フレデリックにとって、ソフィアはもう
“お飾り妻” ではない。
___何よりも最優先するべき人だった。__
“食事がすんだら少し眠るんだよ”
まるで子供にするように、
頭をなでて、布団をかけてやる。
昨日は世界が、まるで灰色に染まったかのように
絶望しかなかった。
もう二度と世界は色づかないと思ったくらい__
ソフィアが目覚めて、回復するにつれて
明るく、キラキラした世界が
戻ってきたように感じられた。
ソフィアが笑うだけで
世界が色づく。
気づけば、それ程大切な存在になっていたんだ。
ソフィア。
私は君を愛している。
※※※
体調もすっかり良くなり、
日常が戻りつつある伯爵家。
しかし__
フレデリックには急ぎ、解決するべき問題があった。
それは。
いつまでもソフィアをお飾り妻のままに
しておきたくない。
_という問題だった。
今回の騒動で、ソフィアがとても我慢強く、努力家であることは皆に浸透した。
フレデリックは、執事と侍女長を呼び、
「今後はソフィアが少しでも無理している様子が見られたら、早めに報告するように」
と指示をした。
そう。
早く解決しなければ、鈍いフレデリックは、
いずれ愛想をつかされ
ソフィアに出ていかれるかもしれないのだ。
契約なのだから、
ソフィアが、「終りにしたい」 といえば
引き止める資格はない。
苦悶の表情を浮かべ、
書類を見るフレデリックを
同僚のロイルが、隣でニヤニヤ見ていた。
「どうした? 最近、表情が豊かで見ていて飽きないな」
そう言いながら笑っている。
同期のロイルは、
なかなか優秀な男だ。
女性への気遣いもできるので、人気もある。
(そうだ、例えばこういう奴に・・)
思いついて、慌ててその思考を消す。
「最近、お前が休みを取るようになったから、
後輩たちが休みやすくなったと、喜んでいたぞ。
あの仕事の鬼を変えた奥様に、みんな興味津々だ。」
そういって、前のめりに話しかけてくる。
「公爵だって、かなり褒めていたし___」
すこし、間があいて。
「第一、どこで出会ったんだ?
仕事の鬼が___」
どこで。って・・・
求人募集に応募してきた。
__などとは、口が裂けても言えない。
「・・・以前から、好きだったんだ」
そういって、ごまかしておく。
あの茶会以降、伯爵家には
上流貴族からのお茶会の誘いが絶えない。
体調がすぐれない。といって
やり過ごしていたら、
おめでた疑惑が流れたほどだ。
(・・・とんでもない。)
看病で手を握ったことしかないのに!
フレデリックは、世間の噂と実情の隔たりに
苦しんでいた。
それに輪をかけて辛いのは、
二人をつなぐのは “愛” ではなく
“契約” だからだ。
「__そうだロイル!相談にのってくれ。
女性が一番喜ぶことはなんだ?」
ロイルは、あの仕事一辺倒のフレデリックから出た
衝撃の一言に
「ホント、奥様すごいな!」
それを繰り返すばかりで、
有益な情報を得ることはできなかった。
ソフィアが喜ぶこと___。
そうだ!
今度の休みは
ソフィアと植物園に行ってみよう。




