10 陽編 真面目な彼女
伯爵邸の前に
二人を乗せた馬車が止まった。
従者が外から扉をあける。
フレデリックは先に降りて
中で待つソフィアに、そっと手を差し伸べた。
ゆっくりと腰を上げ、
馬車から降りようとするソフィアが・・
崩れ落ちるようにして倒れた。
それは、まさに
スローモーションだった。
とっさに受け止めることができたが、
ドレスの裾は地面にこすれ、
ペールピンクは濁った色になる。
さっきまで、花のように幸せそうに
ほほ笑んでいたソフィアの顔は
今は、真っ青で意識もない。
ソフィア!
早く!医者をよべ!
慌てて従者が、屋敷の使用人を呼びに走る。
すぐに駆け付けた執事たちの手を借りて、
馬車からソフィアを少しずつ離した。
ようやく馬車から離れたソフィアを抱き上げ、
フレデリックは屋敷の一番良い部屋へ
彼女を寝かせる。
それは、フレデリックの寝室だった。
ペールピンクは彼女を美しく見せる
色だったはずが、今は逆に切ない。
ようやく到着した医師により、
診察を受ける。
それは長い長い、時間のように感じられる。
診察を終えた医師はフレデリックの方に向き直り、
慎重に言葉を選びながら話し始める。
「・・過労かと。思われますが・・
こんなに長く意識がない状態は珍しいです。
・・注意して見るようにしてください」
そういって部屋を出た。
その後、放心状態のフレデリックは
侍女たちによって廊下に出された。
眠ったままの
ソフィアを着替えさせ、
体を丁寧に拭き終わるまで
フレデリックは廊下で待ち続けた。
着替えの間もソフィアの意識が
戻ることはなかったようだ。
ベルから着替えが済んだことを告げられ、
飛び込むように部屋に入る。
「ソフィア!」
彼女の名前を何度も呼んだ。
「嫌だ!どうか。目を覚ましてほしい」
ベッドに横たわる
細く頼りない彼女の手をそっと握る。
なんとなく、輿入れの時より、
すこし痩せたかもしれない。
そう感じた。
__どういうことだ?
気になり、後ろに控える侍女に問いかける。
侍女は、少し言いにくそうに
話し始めた。
「奥様は・・ここ数日、寝る間も惜しんで
侯爵夫妻のこと、旦那様の生い立ちから仕事の内容、
友人関係、仕事の評価まで、事細かく勉強されていました。
最近は、お食事もあまり召し上がっておらず、
仕立てたばかりのドレスが余ってしまい、
わたくし共で直前に手直ししたほどでございます・・・」
そういって、侍女はうつむき、少し涙ぐんでいた。
報告を聞きながら、
___気づけば、
眠るソフィアを抱きしめていた。
強く。
涙で視界が悪くなる。
「___すまなかった。ソフィア」
どれほど不安だっただろう。




