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ミルディアの涙-燃ゆる想ひ-  作者: つき夜好き


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episode1.樹ノ国での生活

「ミルティはどうしている?」

ルーティは心配そうに、静咲に問うと、静咲は首を横に振ると、ミルディアと共に寝起きをしている寝室の扉を見つめる。

「やはり、魂は無く、身体だけが金ノ国にあるって・・・そう言う事だよね。」

そう言う事、ルーティの言いたい事は、つまり、〝死〟を指していた。

「伝えるのは早かったのだろうか。そもそも人に近いラッドとやらの身体が、金ノ国でどんな扱いを受けているかも解らない。もしかすると、身体の痕跡だけ残って居ただけで、実験の検体として保存されて居るのかもしれない。」

静咲はため息を付きながらルーティに言うと

ルーティは目を丸くする。

「滅多な事言わないでよ!」

「いや。ありえない話ではないよ。」

声を荒げる、ルーティの言葉に割って入る、ギルラス。ギルラスは、豪華絢爛な木造りの廊下に敷かれた鮮やかな緑の絨毯の上をゆっくりと歩いてくると、その顔は険しい顔をしていた。

「何の用だ。お前を招いた覚えはない。」

静咲は、つんとした表情でギルラスを見るが

ギルラスのその手には沢山の果物や干し肉があった。

「彼女。食べて無いんだろう。お前の事だ。気が回って無いだろうし。彼女が好きな物を、持って来たんだ。」

「要らぬ!ミルディアにはちゃんといつもすりおろした、穀物や、すりおろした果実を、やって「少ししか食べて居ないのでは?」

その言葉に、静咲は、黙り込む。

「はぁ。大体お前。そのすりおろしだらけの食事は何だ。ミルディアは、雛ではないと言うのに。」

ギルラスは、ため息を一つ付くと、呆れた表情を浮かべつつ、無理やり静咲とミルディアの部屋へと足を踏み入れる。

「あっおい!勝手に!」

静咲は、怒鳴るが、ギルラスは、気にしなかった。其処には意気消沈しているミルディアがベッドの奥の壁にもたれ掛かって俯いて居た。ギルラスは、その姿が何とも痛々しく思い、一瞬眉間に皺を寄せるが、その顔はほんの一瞬で、一端、目を閉じ再び開けた頃には、あの口が裂けんばかりの笑顔をミルディアに向けていた。

「人に近い者は近ければ近い程、物を食べないと、死ぬと、君はよく言っていたけれど・・・実際の所、どの位持つんだい?」

少し意地悪気に質問をするが、ミルディアは、まったく反応を示さなかった。その、あまりの無反応さに、ギルラスの笑顔は消え、真剣な眼差しになり、そのまま、近づき、ゆっくりとミルディアの顔を覗き込む。

「静咲。彼女は何日眠って居ない?正確に言いなさい。」

ミルディアの顔色と目の下の隈の濃さを見て

ギルラスは真剣に静咲に尋ねる。

「・・・・ずっと。」

静咲は拗ねる様にそう答える。

「なんだって!」

「ずっとって。静咲。あれから5日経って居る。つまり彼女は5日眠って居ないのか⁈」

ルーティに次いでギルラスまでもが、静咲に声を荒げる。二人に対し、耳を塞ぐ静咲。

5日眠って居ないのは、別に、変な意味ではなく、本当の意味で、眠って居なかったのだ。

静咲はその間、ちゃんと世話を甲斐甲斐しく焼いて居たし、横で愛も囁いて居た。だが、確かに、想像して居た程。いや、正確にはギルラスが言って居た程、甘い生活では無かった事は事実だった。それは、全て、ミルディアが無反応だったからだ。だが、静咲はそれが、人に近い者の普通なのだと思って居た為、つまり、まったくの知識不足だった為に今まで、この異常事態に気付かないで居たのだ。

事実、樹天仙は、確かに夜眠り朝起きる習慣はあるが、別段眠らなくても良い種族であり、

眠ると言うよりその間樹ノ国の神聖なる気を補給するか、迷動の中で、愛する者と過ごすか、している為、人間の本当の休息概念とは全く違う。樹天仙は睡眠は必要だが一か月睡眠をとらなくても死にはしない。だから尚の事ミルディアのこの異常事態に気付く事が出来なかったのだ。ミルディアは、トラッドネスの魂は死に身体の身が金ノ国にあると知らされて以来、トラッドネスの事が気がかりで、食事も喉を通らず一睡もできない状態だった。

「はぁ仕方がない。今は緊急事態だ。」

そう言うと、ギルラスは自らの舌を噛むと樹血をわざと出し、ミルディアに口移しでそれを流し込む。

【この森が二つ朝を迎え、三つ夜を迎えるまで眠れ。】

それを聞いたと同時にミルディアの瞳はゆっくりと閉じ、その場に力なく横たわり、ギルラスは彼女を受け止めると、ちゃんと体制を整える。

「っ!ギルラス貴様!」

「静咲。落ち着いてよ!あのままだったら

ミルディアも死んで静咲も死んじゃう所だったんだよ!」

「何の事だ。」

怒り狂う静咲の長身を必死で抑えるルーティは、ギルラスの、行為を説明しようと静咲を羽交い絞めにして止めるが

「放せ!この腐天仙め!その腐った口で!ミルディアの唇に触れる等!」

「だから、お前は無知だと言うんだ。」

ギルラスの瞳は紅く光り、静かな怒りを纏って居た。

「お前・・・。この何日かの彼女の変化を、少しでも知ろうとしたか?」

ギルラスは、少しずつ、静咲に近づきながら、更に続ける。

「彼女の、あの廃人にも等しい表情に対し、関心を持たなかったのか?愛して居るなら少しは解った筈だ。契約を交わしたならば・・・。神サンザーラに認められたと言うならば、

その証が!」

そう言いながら、ギルラスは、静咲に近づくなり服の胸元を力一杯掴み上げ、

はだけさせると、首から肩にかけてのミルディアと一緒の模様をその鋭い爪で指し示し

強調しながら言う。

「何かしら、教えてくれた筈だ。だが、それが、無かった。それは・・・・。」

ギルラスはその掴んでいた胸元を投げる様に放すと、その場を後にしながら静咲に投げかける。

「果たして、どうしてだろうな?」

静咲は、不機嫌そうな顔から、落ち込み気味な表情へと変わると、静かに眠るミルディアに近づき、後ろから抱きしめると、片腕で鳥籠を作り、その中に二人で籠る。その光景をルーティは見守ると、その場を後にした。


ミルディアは、思考の奥深くの暗い部屋の中に居た。花も何もない。上も下もないそんな場所だった。そこにあったのは、ミルディアの思考の文字だけだった。

『私が速く、樹ノ国を抜けなかったから。』

違う。どちらにしろ、樹ノ国についた頃には

一年待たなければならなかった。

『けれど、少しでも、前に進みフェミナーガを渡る川に近づけるまで近づき、さえすれば、何らかの他の方法があったかもしれない。』

ううん。ルーティが調べてくれた。渡る方法は一つだけだって。

『約束を果たしたい。と、言う願いは変わらないのに。』

トラッドネス・・・。

貴方は何時も私に与えてくれるのに、私はあなたに何も返せてない。

辺り一面漆黒の中でミルディアは目を瞑りながら自問自答して居た。

『私は今。何をして居るの?』

前に進んでる?

『眠って居る?』

起きている?

『ここは何処?』

夢の中?

『現実?』

非現実?

【大丈夫。君は眠って居るだけ。】

また。あの白い手だ。

この手を見る度に私は安心する気がするんだ。

ミルディアは、そう思いながら、その手を掴み、自らの頬に近づけると、摺り寄せる。

放さないで欲しい。放れないで欲しい。

【大丈夫。今は離れないから。大丈夫。今だけは、・・は・・・。・・・の・・・・。】

途中で声が聞こえなくなると、腕の痛さが強調される。

ゆっくりと目を開けると、

誰かに後ろから抱きしめられている様だった。

それだけでは無く、左腕を誰かの口元に、持って行かれ噛まれて居る。

何故私は、左腕を噛まれて居るのだろうか。

普通の疑問だった。そして・・・。かなり・・・痛い。

「静咲・・・腕が、痛い。」

噛んでいる犯人は、静咲だとは容易に分かった。静咲は、左腕を噛み続けて居る。

ミルディアは、仕方がないと思い、

「噛んでも良いけど、喰い千切らないでね。

何より、食べないでね。」

食べないで。何故そう言うかと言うと、樹天仙の主食は人肉だからで、ミルディアも、いわゆる人に近い存在。

夫婦でなければ、ただの餌と言う事になる。

何となく、今は紙一重な気がするのは気のせいだろうか。

そう思いながら、苦笑するミルディア。

「これは、樹天仙の、妻への愛情表現の一つだ。」

存分に噛み続け終えたのか、刺さって居た歯が抜かれ、少しだけ血が滲む。

「それは、樹天仙なら、出血多量で、死にはしないからそれで良いだろうけど、下手をすれば、私は出血多量で死んでしまうから。」

「妻への愛情表現は大事だ!」

再び、噛みながら、真剣に言われても、何だかどう反応して良いやら解らない。

「・・・それに。少しは私の気持ちも解って欲しい。」

再び鋭い歯を抜くと、いじけた様に、言う静咲。

「ごめんなさい。」

折角トラッドネスの居場所を調べてくれたのに、身動き一つとれない、自分や、樹ノ国の敵とされている金ノ国だと言う事で、いろんな不安や歯がゆさや、自分の無力さで思わず道を見失ってしまって、後は記憶がほぼなくて、気が付いたら、ここで静咲に腕を噛まれていた。その為に、静咲は意気消沈した自分を心配していたのだと思い、謝るミルディア。

「君が、意気消沈するのは、仕方がない事だ。

ラッドとやらは、君に大きな影響を与えた友なのだろう?そのラッドが我が敵国である金ノ国に居る。どんな扱いを受けているのか、生命の痕跡と言っても、どういう状況下に置かれているかは目視した訳ではない。ただ、金ノ国に居ると言う事が解っただけだ。不安を抱くのも当然だろう。だから、それに対しては、今は良い。それよりも・・・。」

静咲は更に不機嫌そうに、ミルディアの顔をじっと見つめる。

「静咲?」

「あの腐天仙がそなたに触れたのが許せない!あの、腐天仙。そなたの事を。私よりも!よく!知って居る。そなたの種族の食べる物、いや、それだけでは無い。そなたが何を好んで食べるか、そなたが眠らないと生きて行けない事、あんなに私より詳しい。ミルディア。約束してくれないか。ギルラスを愛しても構わない。だが、私よりも深く愛さないで。」

「静咲。貴方の不安は解るけれど、ギルラスと私は、夢の中で、しかも、私ははっきりとギルラスに断ったわ。」

静咲は、今迄に無い位に、不安そうな表情を浮かべミルディアを抱き締め、その耳元で泣きそうな声で囁く。

「それは、〝現実で〟だ!迷動の中での君は、きっとまだ・・・。そう思うと、腹が立つ。私は、ギルラスがそなたを愛するより、他の者がそなたを愛するよりも。そなたを一番愛する者でいたい。それだけでは無い。誰よりも一番に、そなたに、愛されたい。」

いっいやぁ・・・・。あの、なんと言いましょうか。そんなまっすぐに言われると、凄く恥ずかしいのですが。しかも、何でしょうか。

とても、とても、純粋な眼差しで見つめられると、なんと返して良いやら戸惑ってしまう。

「わっわたし。えっと。っ。」

ミルディアは、思わず、静咲の手を掴むと、その人差し指に軽く噛みつく。

噛み心地は、至って柔らかいけれど、やはり、樹血事態に温度が無い為、ひんやりとして居る。

「ミルディア?」

静咲は、その仕草を不思議に思い、見つめる。

「もっもし、樹天仙の男性が妻に噛みつくのが愛情表現なら。その・・・妻も・・・そうなのかと・・・。」

「っ・・・フフ。」

急に、静咲は、笑い始め、ミルディアは、更に顔を真っ赤にすると、今度は、静咲に背を向ける。

「もう、静咲の意地悪。知らない。」

「あっごめん。ミルディア。怒らないで。

ごめん。私に背を向けないで。」

静咲は、ミルディアのその仕草に、一気に顔色を変え、笑うのも止めるなり、不安そうな表情に変わる。


「知らないってばもう。」

ミルディアは、そう言うと、静咲は掴んでいたミルディアの左腕を引き、向き直らせると、ミルディアのその、への、字に曲がった唇に、自らの唇を重ね、それはすぐに離れる。


「樹天仙の妻の、夫に対する愛情表現はこれで良いんだよ。勿論そなたもね。噛むのは、夫側だけ。」

その微笑は、やはり妖しく、まるで妖艶な女性の様だった。


だっ、駄目だ。この樹天仙は、天然だけど、見た目が天然じゃない。手慣れている雰囲気に見えてしょうがない。


けれど、この樹天仙は、正真正銘、女性を愛した事はただの一度も無く、私が、初恋なのだと言う、それも、この何千年と言う年月を生きて居てだ。


ミルディアは、そう思うと、やはり、恥ずかしくなり、右手で顔を隠す。


「ミルディア。どうしたの?何で顔を隠すの?もしかして、友の事をまた心配して、意気消沈しかけて居るの?」

静咲は一生懸命その手をどけようとして居たが、ミルディアは、必死でそれを阻止する。


「もう、良いでしょう。もう許してよ。」


「ミルディア。どうして謝るの?何か悪い事をしたのか?」

更に顔を近づけ、今度は心配そうな顔をする。


「やっ。やめて。それ以上近づかないでってば。」


「っ。クス。もしかして。また、あの、恥ずかしいって奴なの。」

静咲がそう言うと、ミルディアは、細かく頷くと、静咲は、満足そうに微笑み、顔を隠すミルディアをそのまま包むように抱きしめると。


「ごめん。ミルディア。もう、いじめないから。その代わり、ちゃんと、食べる物は、食べて。」

そう言うと、抱き締める腕を放すと、近くに置いてあった、果物や、干し肉をミルディアに皿ごと差し出す。


「果物は、解るけど・・・この、干した肉って・・・。」


「人肉。「謹んで、食べる事を拒否いたします。」


あれ?この会話・・・。どこかでした事がある気がする。


「嘘に決まってるでしょ。ラギアの肉だよ。」


「・・・・・。それ、人肉と一緒なのでは?」


気の・・・せい。だよね。


「ミルディア、何故ラギアの主食が私達と一緒だと知って居る?」


「えっと・・・。それは、長い話で。」


そう言えば、あの時に出会った、あの男の人・・・。結局、金ノ国の人だとしたら・・・。

あの時助けてくれたのに。樹ノ国にとっては敵なんだ。複雑だな。

金ノ国の人だとしたら、樹ノ国誰か・・・。

もしかしたら、静咲の命を狙ってる可能性だってある訳で・・・。

話した方が良いような気もするし。

でも、私が作り出した迷動の中に、あの男性が居た時点で。

なんだか、あの男性自体、私が作り出した迷動なのではと、今ではそう思ってしまう。


もしかしたら、あの男性が・・・。

トラッドネスなのかもとか、都合の良い事考えたりもしたけれど、何だか雰囲気も違って居たし、顔は金ノ仮面で隠れていたにしろ、

相手は私をちゃんと見ていた。


ならば、もし、トラッドネスならば、私だって解るはず。


だけど・・・。


ふと、首筋に触れる。



あれ・・・。傷跡が、治ってる。

いつの間に治ったのだろうか。


皮膚が溶けて焼け切れた様な傷跡だったから、

きっと跡が残るだろうと思って居たのに・・・。


もし、静咲が直したのなら、静咲が今頃何か追及して来る筈。


だけど・・・。


「ミルディア。長い話でも私は、ちゃんと聞くぞ。」


「ううん。ねぇ。静咲。金ノ刺客って・・・どんな感じなのかな?」


「?どんな感じとは?」

ミルディアの、不思議な問いに首を傾げながら問いで答える静咲。


「例えば・・・。黒と銀の斑な鎧を着た刺客って居るのかなって。」

その一言に、静咲の表情が険しくなり、腕を力一杯鷲掴みされる。


「いま。何て言った?」


「金ノ刺客ってどんな感じって・・・。」


「その後だ。」


「えっと・・・。黒と銀の斑な鎧を着た。「有り得ない。」

静咲の眉間にどんどんと皺を寄せる。


どうしてこんなにも眉間に皺を寄せるのだろうか。何故ありえないのだろうか。

疑問に思って居たが、静咲は、その答えを話してはくれなかった。

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