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クビになった魔技士のおっさん、転職先で有能さを発揮する  作者: アレセイア
第四章

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第21話

 それからの日々は慌ただしく過ぎ去っていった。


 騎士団から魔獣の動向についての情報が入る中、ラヴィリエの指揮下で準備が進められた。イグナも彼女の傍で意見を述べつつ、魔導区画の整備を実施。ガストンと相談してシフトを調整。万が一、急な魔獣災害が発生したとしても対応できるような体制を整えた。そして、イグナは基本的に屋敷の仮眠室で寝起きするようにし、有事の際はラヴィリエの元にすぐに駆けつけられるようにした。


 一方で日を経るたびに騎士団の報告は緊迫さを帯びていく。斥候から魔術の群れの発見件数が増えていき、否が応でも魔獣災害を意識させられる。だが、彼女は焦ることなく落ち着いて対応。時折、病床の辺境伯――ラヴィリエの父から助言を得つつ、時間があれば、都市を見回って不安がる住民たちに声を掛ける。


 そんな日々が一週間続いた頃――その日は訪れた。


   ◇


 鐘の音。

 それを知覚した瞬間、イグナの頭は一瞬で覚醒した。弾かれたように身を起こし、部屋の時計を確かめる。魔導仕掛けの時計は日の出前の時間を示していた。

 鐘の音はまだ響いている。短い間隔で鳴り響き続け、危険を知らしている。


(初めて聞いたが、これが緊急事態を告げる警鐘か)


 これを聞いた騎士や魔技士は仮眠から飛び起き、慌ただしく配備についている頃だろう。そして外壁付近の住居に住む市民は地下シェルターに急ぐ手筈になっている。

 イグナが外套を持って仮眠室から出ると、廊下を駆け足で行き来する騎士たちとすれ違う。そのうちの一人がイグナに気づき、拝礼した。


「イグナさん、お疲れ様です。たった今、魔物の群れを監視が確認しました」

「分かった。会議室に急ぐ」

「お供します」


 イグナは騎士に頷くと、駆け足で廊下を移動する。会議室に入ると、そこにはすでにラヴィリエが他の騎士たちと言葉を交わしていた。

 彼女は素早く騎士たちに指示を出し終えると、イグナに気づいて手招きする。


「おはよう、イグナ。少しは眠れた?」

「おかげでな。状況は?」

「魔獣の接近を確認したところ。接近速度から見て、あと半刻で都市に到達する。魔獣災害の発生を発令し、すでにガストンたちには結界始動の指示を出したわ」


 ラヴィリエはそう言いながら机の上に手を載せる。そこに都市全体の地図が広げられ、要所には色がつけられた石が置かれている。

 そして、ラヴィリエに置かれているのは一際大きな魔導装置――魔力通信機だ。

 声を載せた魔力を送受信できる装置であり、五日前、イグナとガストンで点検してきっちり稼働するようにしてある。それが光を放ち、ノイズ交じりの音を出す。


『こちら一番結界、無事展開を確認した』

「こちら本部、了解。全部の結界が始動したわ。結界班は総員、結界を維持しなさい」


 ラヴィリエは装置に触れると、はきはきとした声で答える。それから一つ吐息をこぼすと、椅子に腰を下ろした。隣の椅子を引き、イグナを見やる。


「イグナも座って」

「ああ、了解」


 隣の席に腰を下ろすと、ラヴィリエは祈るように手を組んで目を閉じた。


「……いつもこうしているともどかしく感じるわ。前線がどうなっているか分からず、ここで通信越しにみんなの様子を知るしかないから」

「……ラヴィリエ」


 確かにイグナとしても落ち着かない。

 他のみんなが働いているのに、自分だけ待機するのは辛いところだ。少しでも作業をしていれば、気は紛れるのかもしれない。

 だけど今回の役割はラヴィリエの補佐だ。その傍で彼女を支えなければならない。


「大丈夫だ。ラヴィリエ。この一週間、できることは全てやった。だからあとはじっくり構えるだけ。肩の力を抜かないと、いざというとき対応できなくなるぞ」

「……そうね。また力が入っていたわ」


 ラヴィリエは苦笑して深呼吸する。イグナは冗談めかした口調で続ける。


「俺が紅茶でも用意しようか?」

「え、貴方、淹れられるの?」

「やったことはないから、見様見真似になるが」

「ふふっ、絶対に失敗するわよ、それ」


 小さく噴き出したラヴィリエは部屋で待機しているロゼリカを振り返る。


「ロゼ、紅茶をお願い。イグナにまずい紅茶を用意されても困るからね」

「それは一大事ですね。かしこまりました」


 真剣な口調で答えるロゼリカが面白かったのか、ラヴィリエは笑うと、会議室にいる全員が釣られて笑みをこぼした。場の雰囲気は、良い感じに和らいでいる。


(――このまま、和やかに進めばいいが)


 だが、懸念事項はある――特に北側に位置する第一結界だ。

 過去の傾向から言って、そこが一番負荷のかかる場所だ。なので、今回はガストンを始め、魔力炉心に扱いに長けた面子で固め、イグナも詳しく結界について確認した。

 結界塔の魔力炉心に使用されているのは、軍用魔石。瞬間的な出力はラプラス型を上回る。触れるのは初めてだったが、ガストンと相談しながら改良している。

 とはいえ、前回の結界が破られたのも第一結界だ。


(万が一には対応できるようにしておかないと)


 対策は考えてきている。ただ、役に立たなければいい。

 そう願いながらイグナはガストンから託されたファイルをしっかりと握った。

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