第14話
「――ごめんなさい、大分楽しくなってしまったわ」
屋敷へと帰り道。茜色に染まった道を歩く彼女はため息をついていた。その隣を歩くイグナは思わず首を傾げる。
「なんで謝るんだ? 俺も楽しかったけど」
「そう言ってくれるのは嬉しいのだけど――結局、魔石関連の店が見られなかった」
「あ……」
ふと思い出す。最初、自分が行きたいと言った場所は魔石関連の場所だった。
だが、今日は一日中、あの通りで食べ歩いたり、都市の人々と話したりしていたのだ。何しろ、ラヴィリエのオススメは次から次へと出てきて、そこの店の人たちも気さくに話しかけてくる。それであっという間に時間が過ぎていったのだ。
今もイグナは腕の中に籠を抱えている。その中には店の人たちがサービスでくれた野菜や果物、パンなんかが詰まっていた。それを眺めながら小さく笑う。
「俺もすっかり忘れていたよ。楽しすぎて」
「本当に申し訳ないわ……」
「いや、気にしなくていいよ。休日としては久々に充実していた」
ふと思う――こんなに楽しい一時を過ごしたのはいつぶりだっただろうか。もしかしたら、学院の頃以来かもしれない。
久々に心から笑い、食事や街並みも楽しめた。
(――そして、ラヴィリエのことも知ることができた)
いろんな人と話す彼女はとても楽しそうで、新しい発見があるときらきらと目を輝かせていた。特に今日食べた新しい串焼きを食べているとき、彼女は信じられないくらい目を丸くしていた。
他にも吟遊詩人の語りを一緒に聞きながら、それについて感想を語り合ったり。
彼女の知り合いの子供たちと一緒に広場で遊んだり。
いろんなところで彼女のころころ変わる表情を見てきた。
横目でラヴィリエを見ると、彼女はまだ少し気にするように小さく吐息をつき、髪の毛の先っぽをくるくると指で弄っている。
(落ち込んでいるときは、そういう仕草をするんだな)
イグナは小さく笑いながら、それなら、とラヴィリエに声をかける。
「また、都市を案内してくれよ、ラヴィリエ」
「……また?」
「そう、また。俺は休むのが下手だからな。休もうと思っても際限なく仕事を続けちまうと思うから」
またラヴィリエに怒られる未来を想像しながら、イグナは言葉を続ける。
「だからその前に、休みに誘って欲しい」
「……いいの?」
「いいに決まっている。だって楽しかったから。お世辞抜きでさ」
「……っ」
ラヴィリエの言葉が止まる。視線を向ければ、彼女は咳払いする。その頬が若干、赤いのは夕日のせいだろうか。彼女はちら、とイグナを見て小さく告げる。
「そんなこと言うと、またすぐに誘うわよ?」
「ああ、望むところだ。気が向いたらぜひ誘ってくれ」
「ふふ、ありがと。なら、次の休みにでも誘うわ。ロゼに休みの日程を確かめないと」
ラヴィリアはぱっと笑顔を弾けさせ、嬉しそうに告げる。イグナは釣られて笑みを浮かべながら言葉を返す。
「次は売り切れていた甘味も楽しみたいな」
「あ、それいいわね。黒豆茶と一緒に楽しみたいわ。あ、ロゼも意外と甘味好きなのよ」
「そうなのか。じゃあ次はロゼリカさんも誘ってもいいかもな」
「ええ、ぜひそうしましょ」
二人で帰り道も会話に花を咲かせていると、屋敷までの道のりはあっという間だった。見えてきた屋敷を見て、そうだ、とラヴィリエは振り返りながら微笑む。
「ごはんも屋敷で食べていくわよね? イグナ」
「いいのか?」
「ええ、もちろん。というか多分だけど、用意のいいロゼだから、イグナの分も用意しているわよ」
確かにあり得そうだ。イグナは頷いて荷物を抱え直す。
「なら、お言葉に甘えるよ。ラヴィリエ」
「ふふ、良かった。じゃあゆっくりしていって、イグナ」
そう告げるラヴィリエは、まるで休暇が伸びたかのように嬉しそうだった。




