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7

 なんだかんだと話して、時間はあっという間に過ぎた。

 夕方になって家に帰る。

 その帰り道、ハチローくんはどこかぼんやりとしていた。

 話しかけても上の空というか。

 夕飯を食べているときもそうだった。


「トノがレイくんだったとは……ほんと、驚きだよ」


 帰り道でも何度か言ったことを、ついまた言ってしまう。

 でもハチローくんは「そうだな」とポツリと返すだけ。

 帰り道もずっとそうだった。

 トノの話なんだから、もうちょっと話に乗ってくれると思うんだけどなぁ……。


「うちにいたころのレイくんの写真、まだあると思うんだよね。あの頃のレイくんって、今のハチローくんと同じくらいの年齢だよ。見てみたくない? 今度、データ移してくるから……」

「いや、いい」

「なんで? 見たくない? あ、データが嫌だったら紙に印刷してくるよ」


 それならスマホを投げられる心配もないし。

 ハチローくんは視線を伏せたまま言う。


「トノの姿を勝手に見ることなどできない」

「……いや、まあ、プライバシーの問題とかはあるかもしれないけど、レイくんもハチローくんに見られるのは構わないと思うよ。気になるようなら、レイくんに聞いてみてもいいんじゃないかな? 昔の写真を見ていいかって」

「いや、いい」

「…………」


 なんか、やっぱりおかしいよね、これ。

 しかも、ずっと目も合わないし。


「ハチローくん、なにか気になることでもあった?」


 ハチローくんの箸が止まった。

 身に覚えはある、と。


「なんか城を出てからずっと元気ないよ?」

「……別に変わらない」


 お箸を置くと、ハチローくんは部屋から出て行ってしまった。

 おかず、ちょっと残ってるのに。全然「別に」じゃないんだけど。

 いつもだったら食後のデザートとしてお菓子を食べて、その後にハチローくんがお風呂に入って、その後にわたしが入る。

 最初の頃はお風呂に入っている隙に出て行かれたけど、「次やったら裸で追いかけるから」って言ったらやめてくれた。

 さすがに裸では追いかけないから、実行されなくて本当によかったと思う。

 そういうわけで、わたしがお風呂の入っている間にハチローくんが出て行くことはないから、わたしのお風呂時間はどうしても長くなってしまう。

 今日はお菓子の時間も無かった分、入浴の最長記録を出すしかないのか。

 ………………。

 ……ハチローくん、今、お風呂に行ったんだよね?


「ハチローくん!」


 思わず玄関へと向かえば、ハチローくんがいつも履いてる地下足袋みたいなものがない。

 あの子、ついに何も言わずに行っちゃったの?

 慌てて外に出る。庭にもいないし! 庭を突っ切って、塀の外に。

 今日は満月だったおかげか、月明かりでもまったく見えないことはないけど、木々の影が闇より濃く見えた。そんな中で、道の先に明かりが――


「ハチローくん!」


 心もとない月明かりで夜の山道を走るのは怖い。

 ぞわぞわと背中に恐怖が走る。


「ハチローくん!」


 悲鳴みたいな、情けない声が出た。


「ハチローくん、待って! ハチローくん! ぎゃ!」


 転んだ。大人なのに思いっきり転んだ。


「やだ、もー」


 顔を上げれば、明かりが止まっている。

 慌てて立ち上がって近付いた。

 ハチローくんの顔が見える位置まで近づく。

 ろうそくが入ったランタンみたいなものに照らされて見えた表情が硬い。


「ハチローくん、何も言わずに行かないでよ。びっくりしたよ」


 ヘラっと笑って言ってみるけど、ハチローくんの表情は変わらない。


「ハチローくん、今日もトノのところに行くの?」

「ああ」


 ハチローくんの眉間のしわが深くなる。

 あ、この感じ懐かしいな。

 初めて会った時の警戒されている感じ。

 そう思うと、最近はやっぱり仲良くなれていたんだろうな。


「……あのね、今日、レイくんに会ったときに言ってたんだけど」


 ハチローくんが視線を伏せる。


「あのね、レイくんは後悔してたよ。ハチローくんに酷いことを言ったって。ちゃんとハチローくんのことを信じているし、このままだとハチローくんが体を壊しそうで心配とも言ってた。もうあんなことが起こらないように対策だってしてるって言ってたし、だから、もう大丈夫なんだよ。レイくんにだってハチローくんの気持ちは伝わってる。だから、ね。もう帰ろう」


 ハチローくんの手を取ると、勢いよく振り払われた。


「あなたに何が分かる!」


 敵を見るような目で睨まれる。今までにないくらいに強くて……怖い。


「おれは! なにを言われても止めるつもりはない! もう放っておいてくれ!」

「……放っておけないから、わたしはここにいるんだよ。みんなが心配してるんだよ。叔父さんも、レイくんも」


 ハチローくん、と呼んで、もう一度腕を伸ばせば今度はつかむ前に払われた。


「あなたには関係ない!」


 それだけ言い捨てて、ハチローくんは走って行ってしまった。

 関係ないって……。

 ハチローくんがそんなんだから結婚なんて話が出て、わたしは今ここにいるはめになってるんだけど。

 それなのに関係ない?


 はああ?


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