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「おれね、ちょっと前に襲われちゃって」
「ハチローくんが助けたっていう?」
「そう」
わたしとハチローくんが結婚することになった原因の出来事。
そういえば初めてそれを叔父さんから聞いたとき、ミコトがむちゃくちゃ驚いていたんだった。
トノがレイくんだって分かってたからあそこまで驚いたんだろうな。
「しかも城の中。絶対襲われるわけないってところで襲われて……ハチローが来るまで誰も助けてくれなくて」
「え、そんなことある?」
ホムラの力に依存することでしか生きられない世界で、そのホムラを守るはずのブシがそれを放棄するって……。
「おれを襲ったのもホムラだったんだよ」
「……っ!」
この世界にはレイくん以外に浄化の炎を持つ存在――ホムラ様が四人いる。
その内の一人がレイくんを襲ってきたってこと?
「そんなことってあるの?」
「普通はありえないよ。でも、そのホムラはもともと、そういう厄介事を引き起こすところがあって……。おれのブシが、おれじゃないホムラに逆らえないところを目の当たりにしたよ。むしろ、あのときはおれより向こうのホムラが絶対になっていたし」
「なんでそうなるの。ホムラにも優劣があるってこと?」
「まあ、あの人は別格なんだけど……。ホムラであるおれだって圧倒されたくらいだし……でもさ、まあ、ショックだったけど」
「それはそうでしょ」
自分を守るはずのブシが、相手によっては必ずしも自分を守るわけではない。それはレイくんにとってもかなり衝撃だろう。
「でもハチローは相手がホムラであることも気にせずにおれを守ってくれた。すっごくありがたいし嬉しいよ。今でも本気で思ってる。でも、あのときはね、おれも動揺してて。なんかもう周りの人間全員信じられなくなってさあ」
レイくんに背を向け、彼を守り切ったハチローくんが振り返る。
腰を抜かしてしまったレイくんに手を差し出すハチローくんの顔は青ざめていたそうだ。それを見たとき、レイくんはカッとなったらしい。
差し出された手を振り払って言ってしまった。
『やめろ! お前らのことなんかもう信じられるか!』
それは……
「ダメじゃん」
「はっきり言わないで。分かってるから」
両耳をふさいで、顔をそむけるレイくん。
「十三歳の男の子になに言ってんの。そもそもハチローくんが助けてくれたんでしょ」
「そうなんだけど。お、おれだってハチローだけに言ったつもりじゃないよ。その場には他のブシたちもいたから」
「そういう問題じゃなくて」
「だって! おれだって襲われるなんてまったく、これっぽっちも思ってなかったんだよ。色々いっぱいいっぱいにもなるって」
「分かるけど、だからって……」
「分かってる! 分かってるって。あのときの言葉に関してはちゃんと反省してるし、ブシの中にも反省してやめてく人もいたけど、残ってくれた彼らのためにも、もうこんなことが起こらないように色々対策だってしてるんだけど……ハチローはあのときのことが忘れられないみたいなんだよ。もうあんなことがないように対策してるっていっても納得しないし、おれのそばを離れようとしない。なにをどう言っても最後には『おれのことが信じられないからですか』って言われちゃって。あのときの言葉が、ここまでぐっさり刺さってたなんて……」
「それで昼夜関係なしにレイくんのところに通うようになった、と」
レイくんが顔を戻してこっちを見る。
眉尻が下がって、なんとも情けない顔だ。
「そんなことしなくていい、って。ハチローには感謝しかないし、忠誠心を疑ってないって何度も言ってるんだけど全然聞かない」
「それは……まあ、レイくんのせいじゃん」
レイくん一人責められることじゃないけどさ……ハチローくんからしたら、ねえ?
「そうだけどさぁ……。まあ、それでもう何言っても駄目だし、ここはもうタケルちゃんに任せようってなって」
「ちょ……っ、そこ! なんでそこでわたしが出てくるの!?」
「だってタケルちゃん、おれが日本にいたときも全力でぶつかってきてくれたでしょ。おれはそれで結構救われたところあったし。タケルちゃんなら多少強引でも任せてしまえば、なんとかしてくれるんじゃないかと思ったんだよ。それなのに全然だし……」
「効果がなくて悪かったわね!」
ため息なんかついて……ため息つきたいのはこっちだっていうのに!
頬っぺたでもつねってやろうか。でもそれをしたら、わたしがハチローくんに殺される……ことはないよね、さすがに。え、大丈夫だよね?
「本当は二人の仲がもうちょっと深まったら、おれもタケルちゃんに会うつもりだったんだけど……」
「どういうこと?」
「もっと早く会おうと思えば、タケルちゃんと会うことはできたんだよ。それこそ結婚してすぐとか。でも、そんな早い段階で、おれがタケルちゃんのこと昔お世話になった恩人とか、姉みたいな人だって言ったら、ハチローがタケルちゃんに対しても、おれに接するみたいになると思ったから、なかなか会えなかったの」
「レイくんに接するみたいっていうと、ずっと付きまとうみたいな?」
でもわたしは昼間は仕事でこっちにいないし、寝ずの番って言っても夜は一応一緒の部屋で寝てるし……。わたしにそこまで被害はない、ような。
「それでもよかったのに。それならレイくんの夫婦生活も守られたんじゃないの?」
「それはダメだ。おれからタケルちゃんに対象が変わっただけじゃ、ハチローの負担が変わるわけじゃない」
「それはそうか」
昼間はレイくんを守るために働いて、夜はわたしを守ろうとして寝ずの番までしたらハチローくんの休まるときがない。
それだといつか体を壊してしまう。
「それで、ハチローくんとの仲がそこまで深まってないわたしに、なんで今、会おうと思ったの?」
嫌味っぽい言い方になったけど仕方ない。
レイくんは慌てて言った。
「まったく仲が深まってないとは思ってないよ。ハチローもタケルちゃんと一緒になってちょっとは変わったと思うし……」
「そんなフォローは結構です」
「そーいうこと言うー。……タケルちゃんにはさ、そろそろちゃんと説明しないといけないと思ったんだよ。おれもいい加減会いたかったし。それで、今日呼んだわけです」
「……ケーキが我慢できなかっただけでしょ」
「それもある」
「素直だな、もう」
潔く頷くから、こっちはもう笑うしかなくなっちゃう。
レイくんもつられたように笑った。
「まあ、そういう理由だからさ。タケルちゃん、これからもハチローのことよろしくね」
「……できる限りのことはするけど、あまり期待しないでよ」




