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で、結局。
結局、結婚することになりましたよ。
なんでって?
そりゃ、叔父さんの土下座攻撃とお父さんの説得と。
夫婦になるわけじゃなくて家族になると思ってほしいとか。
とりあえずトノへの行き過ぎた行為をやめさせてほしいだけだから、恋愛、結婚は日本で好きにしていいとか(いや、でもそれ浮気……)
入籍もしなくていい事実婚みたいなものだし、子供を作れなんて言わないし(当たり前だ)
とにかくもう、ずっと、ずーーーーーーーーーっと言われ続けて折れるしかなかったんだよ。
ミコトは途中で飽きたのか我関せず状態だし、最後の頼みの綱のお母さんは「まあ、籍を入れるわけじゃないなら人助けだと思ってしてみたら?」なんて言ってくるし!
とりあえず従弟の面倒を見る感じでいいから、って叔父さんに泣きつかれ続けて、もういいやと思って了承しました。しちゃいました。
それからあっという間に結婚式当日なわけですが……。
そう。
結婚すればいいんでしょ!とやけくそで言った途端、式の日取りまで決めやがった。
それなのに、式当日までハチローくんと顔を合わせることもなかった。
結婚するんだから、両家の顔合わせなんてものがあると思っていたけど、それもなかった。
トノべったりのハチローくんが、顔合わせのために日本に来てくれるわけないから、うちの家族が異世界に行くしかない。
でもお父さんはヨビのお役目的に異世界に行くことができない。
ミコトは姉の偽装結婚に関わる気もない。
そうなるとお母さん一人だけ、異世界に顔合わせに行くだけだ。
ハチローくんの側にしても、そもそもハチローくんの両親はもう亡くなっている。
だからハチローくんのお父さんの友達だった叔父さんがハチローくんを引き取っているわけで、ハチローくんの家族は今では叔父さんだけ。
それなら顔合わせなんて意味がない。そもそも最短で式の日取りを決めたからタイミングも無いしやらなくていいだろう、と。
いや、文句は言った。文句は言ったよ。
せめてどんな子か見せてよってなるじゃん。
ハチローくんだって顔も知らない女と結婚とかさすがに嫌でしょ! って言ってたんだけど叶わなかった。
そもそもハチローくん、結婚が決まってもトノへのストーカー行為(もう、ぶっちゃけそう言ってしまう!)が止まらなかったらしい。なんなら、それで忙しいから顔を合わせる時間がない、と。
ハチローくん、もうちょい結婚相手に興味を持って。
そんなんだから、こんなことになるんだよ。
とにかく、そんなこんなであっという間に結婚式当日になった、と。
初めて来た異世界は、話に聞いていた通り和風ファンタジーだった。
まず日本とつながる出入り口になるところは、三角屋根の祠になっていて。
その祠は、叔父さんの家の庭にあって。
その庭も広くて、広さのわりに植木が少ないけど、きちんと手入れがされて緑がまぶしくて。
家は縁側がある、建物の中央部分に田の字に部屋が集まる昔のでかい日本家屋そのもの。
母屋に比べたらまだ可愛いサイズの離れまである。
和。すっごく和だ。
異世界語の偉い人の訳が『オウサマ』じゃなくて『トノ』になったのは、この世界観に合わせたからなんだろうな。『ブシ』とかもきっとそうだ。
ちなみにこの広い家はヨビの一族に代々受け継がれているものだけど、今、住んでいるのは叔父さんとハチローくんだけ。他の一族の人は仕事で別の場所に行っているらしい。
まず母屋に行って花嫁衣装に着替える。式に必要なものは全部叔父さんが用意してくれた。
花嫁衣装は、裾の長い真っ赤な打掛で、金色の刺繍が細かく縫われている。
日に当たると刺繍がキラキラしてきれいだけど、色も相まってすっごく派手!
でもケバケバしい赤じゃなくて、まだ落ち着いた色味だし、一応はせっかくの結婚式だから少し派手目のメイクをしたから、まだなんとかなった気がする。
鏡で見てもそこまで違和感はない、と思いたい。
お母さんも「うん、きれいよ」と言ってくれたから、それを信じる。
式は身内だけのささやかなものだ。
つまり叔父さんとはハチローくんと、うちのお母さんとわたし。
式っていうより、これこそ顔合わせって感じ。
これまた正装に身を包んだ叔父さんに案内されて、打掛の長い裾をお母さんにもってもらって、離れへと向かう。
これからこの離れにわたしとハチローくんは暮らすことになる。
離れには外玄関もあるけど、今回は母屋とつながっている渡り廊下側の板戸の前に立った。
この向こう側にハチローくんがいるらしい。
やだ、緊張してきた。
叔父さんは咳払いを一つして、言った。
「娘が来た、娘が来た。
お前が乞うた娘が来た。
お前を乞うた娘が来た。
娘が来た、娘が来た」
これはこの世界の結婚式での口上らしい。
これを聞いた男は、戸をあけて口上とともに女を招き入れる。
本当はもっと儀式やら長い口上があるのがこの世界の結婚式らしいけど、今回は身内だけだからとこうなった。
少しだけ間が生まれる。
ハチローくん、もしかして開けないつもりかな。
やっぱり結婚なんて嫌だと思った、とか。それはそれでいいんだよ。止めちゃっても全然いいんだけど。
「娘が来た、娘が来た」
聞こえてきた声は、少し高い声だった。
まだ声変わりもしてないんじゃ……。
そこまで考えて、背中を冷汗が流れる。
なんか、とんでもないことが始まってない?
「私が乞うた娘が来た。
私を乞うた娘が来た。
娘が来た娘が来た」
板戸が開いた。
ハチローくんは、怒っているみたいだった。
元々目つきが鋭いのか、吊り上がった目でこっちを見てる。
後ろになでつけた黒い髪のおかげで見えるまるいおでこ。頬のラインだってまだ丸みを残していて、顔立ちにはまだ幼さが見える。
身長は二十代女性の平均であるわたしよりちょっと小さいくらい。
でも、体が厚い。
弟のほうがハチローくんより身長はあるけど、ハチローくんのほうが強そうだ。
だからか目つきも相まって、なんかちょっと怖い。
「私の隣に立つ妻よ
私とともに歩む妻よ
私とともに眠る妻よ
私の子を産む妻よ
私が守る妻よ」
この子、口上とは裏腹に、ずっと睨み続けてくるんですけど。
そもそもハチローくん、トノのそばを離れたくなくて、結婚式すら嫌がったらしいし。
それを叔父さんとトノがなんとか説得したっていう話だし、それもあって機嫌が悪いのかな。そんな不機嫌です! って全開にしてるとこなんて、まるっきり子供じゃない。このお子様め!
そのときハチローくんの手が動いて、一瞬怯んでしまった。
ハチローくんは、わたしに手を差し出していた。
指の付け根にタコができた、分厚い手だった。
「私の妻よ」
そうだ。同じように返して、この手を取ればわたしたちは、この世界で夫婦になるんだ。
それがこの世界での結婚式。
「……私の隣に立つ夫よ」
自分でもびっくりするぐらい声が震えていた。
「私とともに歩む夫よ
私とともに眠る夫よ
私の子の父となる夫よ
私を守る夫よ」
これ、ここで逃げ出したら全部無かったことにならないかな。
もう遅いかな。無理かな。
「私の……夫よ」
ハチローくんが差し出した手の上に、自分の手を乗せた。乗せてしまった。
ぎゅっと手を握られる。力が強い。
そのままハチローくんに引っ張られて離れの中に入っていく。
入った先には玄関と台所のある土間があった。現代日本でいうところの玄関ホールだ。
そのまま打掛の裾まで離れに入ったところで引き戸を閉められてしまう。
「これで夫婦の契りは成立されました」
向こうから叔父さんの声が聞こえた途端、手を離された。
「おめでとうございます」
板戸越しに聞こえる叔父さんの声。
いや、これ全然めでたくないよね?




