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やっぱりハチローくんが狙われてたんじゃん!
やばいやばいやばいやばい!
このままだとハチローくんがあの人たちの毒牙にかかってしまう。
そんなの無理! そんなこと許しません!
ハチローくんはわたしが守らなければ。
なぜかハチローくんまでなにも教えてくれなかったとはいえ、こんなところに無理やり付き合わせたのはわたしだし、そもそもお祭りに行きたいってわたしがしつこく言ったから、ハチローくんは仕方なく付き合ってくれただけなんだから――ほんと、なんで先に教えてくれないかな。そうしたら絶対行かなかったのに。
……今はそうじゃない。とにかく! ハチローくんを危険な目に合わせるなんて、ほんと大人失格だから!
ハチローくんの初めては、ハチローくんが本気で好きな人に渡すべきで、こんなところで流されてとか、ほんとダメだから。マジでありえない。許せない。
「ハチローくん! ハチローくん!」
あの花をつけた女の人は、あのテントの群れに向かっていた。そこに着く前になんとか追いついたら……
「誰探してんの?」
打掛のそでをまた引っ張られる。
無理やり足を止められて、その間に反対側に別の男が立った。
あ、ヤバイ。
「いないやつを探すよりさ、おれらの相手をしてよ」
「そうそう。おれらが遊んであげるよ」
走って逃げたいけど打掛をしっかりと握られている。引っ張っても離そうとしない。もう、これ邪魔!
「離して! 人妻を誘わないでよ」
男たちは面布の顔を見合わせると、声を上げて笑った。
「ハハハっ。狙ってんでしょ」
「望み通り、遊んであげるって言ってんの」
「狙ってないし望んでない!」
「またまた。今、どんな顔してんの~?」
お面に触ろうとするから、思わずその手をたたいた。
「いてっ」
そのときに打掛の袖も離されたから、そのまま走りだした。
もうやだ。怖い。
打掛のそでも裾もまとめて引き寄せて、人波にまぎれる。
「奥さん、おれとどう?」
「子作りしてあげようか」
「打掛着てくるなんてマジかよ」
その中でも何人も声をかけてくる人がいて、その人たちは無視をしていればすぐに離れていくからまだよかった。いや、よくないんだけど。声かけてくるな!
踊っている人波をなんとか抜けたい。でも、横切ろうとしても人の圧で、なかなか難しい。
どうする。テントに行ってももう遅い? それとも一応、はぐれたときの待ち合わせ場所に向かう? ハチローくん、一人で逃げられたかな。……逃げてくれる? ここで遊んじゃおうってならない? え、それは嫌なんだけど。
「すみません、ちょ、どいて……」
「あれ、なんで一人なの?」
踊っていた一人、黒い面布をつけた男がのぞきこんでくる。
距離をとりたいけど、人に押されて無理だった。
「旦那は? 一緒に来たんじゃないの? まさか撒いた? わざとはぐれた?」
「違う! 連れていかれたの!」
思わず言い返す。
「連れていかれた? あの旦那を。アハハ」
男は楽しそうに笑って、わたしの腕をとる。
「さっさと旦那のところに戻りなよ。あの人、怒らせると怖いよ」
さっきまであれほど抜け出すのが難しかった人波をスイスイと抜けていく。
この人、すごい。え、これわたしの運動神経の問題?
「さて、どこにいるのかなー?」
きょろきょろとしながらその男の人は――違うか。声とか雰囲気がもっと若い。
ひょろっとしててわたしより背が高いけど、たぶんまだ子供だ。
「君、ここに来てもいい年齢なの?」
「気になるとこそこ? ずれてない?」
大人としては結構大事なとこなんだけど……。
その子はわたしの腕をとったまま、どんどんとテントのほうへと歩いていく。
ちょっと待って。
これ、このままついていってもいいやつ?
『旦那』発言とか、なんかハチローくんのこと知ってるっぽいけど……でも、打掛を着てるんだから、一応旦那がいることは誰でも分かるわけで……。
「君は夫の知り合い?」
腕を取り戻そうと引けば、案外あっさりと手は離された。
「その警戒心はとてもいいと思うけど、ここで名乗るほうが面倒くさそうなんだよな。だいたい警戒するのが遅い」
あきれたように言うけど、君、まだ子供だよね。わたしも立派な大人じゃないけど、初対面の子に呆れられるのもすんなり納得できないよ。
「とりあえずこれ以上面倒なことになる前にここから離れるよ、ハチローくんの奥さん」
「ハチローくんの友達だったの」
「まさか! 向こうはそんなふうには思ってないよ。ほら、これでいいでしょ。さっさと行くよ。ハチローくんが連れていかれたのって向こうなんでしょ」
そう言ってテントのほうへと歩き出す。
「はぐれたときは、入口で待ち合わせとは話してたんだけど」
「それ先に言ってよ。じゃあ、そっちに向かおう。あの人なら連れていかれても簡単に逃げ出せるでしょ」
あっさりと引き返すから、少しほっとした。さすがにこの子とテントへ向かうのは避けたい。でも、あそこにハチローくんが連れ込まれてる可能性もあって……。
とりあえずこの子には入口でハチローくんを待ってもらって、わたしだけでもテントを調べに行ったほうがいいのかな。
少し立ち止まってそんなことを考えてしまったのが悪かったのか。
「きゃあっ」
背中から衝撃。くさくて熱い息がかかる。
酔っ払いが後ろから抱き着いてきた。
「きゃあだって。かわいい。おれたちが相手してやるよ」
「いや、まずはおれだろ」
酔っ払いが三人。なんで今日はこんなにもからまれるの。
先を行っていた少年が気付いて、頭を掻いた。
「ちょっと、その人に手を出すのやめてくれない? 女をひっかけるなら別の人にしてよ。この人はあんたたちが相手にできる人じゃない」
「へえ、誰なら相手できんだよ」
少年の言葉にあおられたのか、男の腕が強くなる。気持ち悪い。
「離して!」
「暴れるなよ。誘ってるのはそっちだろ」
「ひっ……」
首元にすり寄られた。
やだっ。
「離せっ!」
「いてぇっ!」
男の体が離れたと思えば、手を引っ張られる。
「……っ! ハチローくん!」
手を引っ張ってわたしを抱き寄せたのは、息をきらしたハチローくんだった。




