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ハチローくんと結婚して半年が経った。
そう、もう半年も経った。
ハチローくんもシフトに従って城に行くようになったし、叔父さんも夜番ばかりじゃなくなったし、レイくんも以前のような生活に戻れているというのに。
まだわたしとハチローくんは夫婦だ。
レイくんからの離婚の許可もなく、ハチローくんからの好きな人できました宣言もなく、ズルズルと続いてしまっている。
結局は結婚した時と同じように流されてしまっていて……情けない女なんです、わたしは。
※ ※ ※
城の奥にある広間。
この世界でレイくんと再会したときの部屋で、あのときレイくんが座っていた上座には、今、可憐な……そう、可憐という表現がぴったりの女の子が座っている。
腰まで長い漆黒の髪はつややかで、天使の輪が輝き。
陶器のように白い肌とはこういうことだ! と見本になりそうなつるんと滑らかな肌。
黒い眼はつぶらで、口元も小さめ。鼻も小さいけど、顔ももう小さくて。
つまり全部バランスがよくて、完璧な位置にすべてのパーツがある。
笑いかたから何気ない動作の一つ一つが美しく洗練されていて、ふとした仕草が何とも言えずかわいい。
気を抜くとつい見つめてしまうわたしにも、目が合えば微笑んでくれる。
その微笑みが完璧すぎて、同い年の女の子なのにちょっと照れてしまう。
そんなとんでもなくかわいくきれいな女の子、チサちゃんはレイくんの奥さんである。
初めて紹介されたときは、あまりのきれいさにびっくりしたくらいだ。
レイくんと並ぶと美男美女でお似合いすぎた。
お願いして撮らせてもらった、二人が並んだ写真を家族に見せたら、お父さんははしゃいで、お母さんは感心して、ミコトはなんか拗ねていたくらいだ。
そんなチサちゃんに、わたしは持ってきたブツを差し出した。
「これ、レイくんに頼まれていたものなんだけど……」
いつもチサちゃんのそばに控えている侍女のセンマンさんがブツを受け取って、チサちゃんに渡した。
マナーとして、一応ブシの妻であるわたしが、ホムラ様の妻であるチサちゃんに直接物を渡すのはダメなのだ。上下関係しっかりしてる。
本当はレイくんに対しても態度を改めなくちゃいけないらしいけど、レイくんがそれにとんでもない拒否反応を示して――タケルちゃんはおれのお姉ちゃんみたいなものでしょ。なんで身内にそういう態度になるわけ――と騒いだのでそのままだ。
レイくんに倣ってチサちゃんもそうやって接してくれようとしたけど、侍女のセンマンさんがそれを許さなくて、絶対に自分が間に入ろうとする。
センマンさんから渡されたそれを見て、チサちゃんの顔が輝いた。
「まあ、これがあの……。ありがとう、タケルさん。トノも喜びます」
そう言ってほほ笑むチサちゃんの手にあるのはメロンパン。
そう、メロンパンです。
あるときレイくんに呼び出されたと思ったら「メロンパンが食べたい。メロンパンがないともう頑張れない」と甘えた発言をしてきたため、仕方なく買ってきた。
今回はチサちゃんやハチローくんにも食べてみてほしかったから買ってきたけど、レイくんは定期的に「カップラーメンが食べたい」「アイスが食べたい」「ポテチが食べたい」といろいろ要求してくる。わたしはすっかり買い出し要員だ。このために離婚を許さないんじゃないかとすら思う。
「うふふ。タケルさんの世界の食べ物はおいしいから、わたしもいつも楽しみにしているの」
「メロンパンもおいしいよ。期待は裏切らないから」
センマンさんに軽く睨まれる。敬語を使っていないからだろうけど、一応、チサちゃんからも敬語はやめてって言われてるから勘弁してほしい。
「そういえばレイくんはどうしたの? 忙しい?」
ご注文のメロンパンを持ってきてあげたんだから、いつもみたいに真っ先にやってくると思っていたのに。
メロンパンをセンマンさんに預けて、チサちゃんが言った。
「明日の儀式に向けて、今は禊に入ってしまっていてここには来ることができなくなったの。ごめんなさい」
「全然! チサちゃんが謝ることじゃないよ。それより儀式ってなに?」
「年に一度、ホムラ様が下山して、自ら地脈の上を歩いて浄化する儀式よ。その日だけ、普段見ることのできないホムラの力を見れるとあって、トノのホムラが及ぶ地域の国々の代表も招待されているの。山のふもとではお祭りになっていると聞くわ」
「……もしかして大変なときに来ちゃったかな」
確かにお城の中がいつもより慌ただしい気がしたんだよ。
国の偉い人まで来ているなら、それは大変だろう。
「わたしはそれほど忙しくないので大丈夫なの。でもトノはとてもお忙しくて、今はメロンパンだけが楽しみだとおっしゃっていたくらい」
「そこまでだったの」
メロンパンだけが楽しみって、本心だったの。一体、どれだけ追い詰められているのよ。
そこまで大変なら持ってきてよかったよ、ほんと。
「タケルさんが儀式に来れなくて残念です。ハチローだってせっかく儀式の舞手に選ばれたというのに」
「え?」
キョトンとするわたしに、チサちゃんは小首をかしげる。
はい、かわいい! じゃなくて!
「来れないって、そんな儀式があることも知らなかったんだけど……」
「あら? トノがタケルさんも儀式に来たらどうかと誘ったら、ハチローから無理そうだとお返事があったと聞いたのだけど」
「え? ハチローくんからそんな話聞いてない……」
「あら……」
これは一体どういうことかな、ハチローくん!




