10
カタっとかすかな音に目が覚めた。
寝ていたような寝ていなかったような一瞬。
部屋の中の灯火具の火はまだ消えていないから、部屋は明るさを保っている。
火を消そうと起き上がれば、障子戸の向こうに誰かが立っているのが見える。
いつもなら悲鳴を上げた。
でも、今は違う。
だって……。
「ハチローくん?」
「おれだって分かっている」
向こうから小さく聞こえる声。
聞き洩らしたくなくて近寄るけど、障子戸をあけることはできなかった。開けたらいけないような気がした。
「おれのやっていることは……トノを守ると言ってやっていることは、ただの自己満足だ。トノはこんなこと望んでいない」
小さな声が震えていた。
「あなたと一緒にいたとき、トノは楽しそうに笑っていた。とても気を許しているのが分かった。そのときやっと……最近、トノは笑っていなかったと気付いた。あんな風に気安く笑ってくれていたのに、もうずっと見ていない。いつも困っているような顔だった。おれが間違えていたからだったんだな。でも、おれは…………」
その先が続かない。
迷ったけど、迷って迷って迷って、障子戸を開けた。
ハチローくんと目が合った。
どこか怯えた目をしていて……そのときにやっと、本当にやっと、わたしは分かった気がした。
この子はずっと怖かったんだ。
「寝よ、ハチローくん。城には今、叔父さんもいるし、他のブシの人たちだっている。あのときからブシの人たちもしっかり訓練して、もう二度とレイくんが危ない目に合わないように対策も万全だって聞いてるよ。もうあの城には、レイくんを守る味方しかいないよ。ハチローくんと同じ、レイくんを守りたい人たちばっかり。ね、大丈夫だよ」
手をつないで軽く引っ張る。それでもハチローくんは動こうとしなかったけど、もう一度だけ名前を呼ぶと、寝室に入った。
そのまま布団に寝かせて、その隣の自分の布団に入る。
いつもは仰向けで寝るようにしているけど、今日は体を横にしてハチローくんのほうを向いた。
ハチローくんも横向きになって、わたしを見ていた。
「……手を」
小さな震える声に手を伸ばせば、ハチローくんは両手でわたしの手を握った。
まるですがっているみたいで、その上からさらに手を置いた。
「大丈夫、大丈夫だよ。ハチローくん。大丈夫。信じよう」
震える手を握る。
なんでここまで遠回りしてるんだろう、わたしは。
最初から言ってたじゃん。
ハチローくんはレイくんが殺されそうになってから、四六時中くっつくようになった、って。
この子は、大切な人が目の前で殺されそうになっているんだ。
大好きで大切で守りたい人を、目の前で失いそうになっているんだ。
四六時中くっつくようになったのは、守れないことが怖いから。
失うことが怖いから。
レイくんが死んでしまうのが怖くてたまらなくて――それこそ初夜に後追いの話をするくらいに――だから、そばにいたんだ。
そうだよ、最初からそうだったじゃん。
なんで気付かないかな、わたしは。
ハチローくんは、ただずっと怖がっていたんだ。
「大丈夫。大丈夫だからね」
少しでもハチローくんの不安が消えるように。
ハチローくんが眠るまで、ずっとそう言い続けた。
そして、いつの間にか寝ていた。
ハチローくんより後に寝たのか先に寝たのか覚えていない。
ふがいない!
でも、隣の布団ではハチローくんが寝ていた。
ハチローくんの寝顔初めて見た。
これはつまり、あれから城にも行ってないんだよね。
「ハチローくん、がんばったね」
すごく怖かっただろうに、頑張って耐えたんだろう。
顔にかかっている髪をよけて、起こさないように気を付けながら頭をなでる。
ハチローくんの寝顔は子供らしくて可愛かった。




