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第3話 『フリートーク・一回目 藤倉 春奈』


 突然のフリートークタイム。

 1対1で話すなんて逃げ場がないじゃないか。

 俺が緊張しながら顔を上げると、春奈は頬杖をついて、俺のほうにニッと笑いかけた。



「坂口、久しぶり~。こんなところで会うなんて思ってなかったんだけど! 」



 春奈は小学生の時から、クラスカースト最上位にいる女の子だった。当時からポニーテールがトレードマーク、男勝りで気が強い、男子にも先生にも物怖じせずに発言する姿は誰からも一目置かれていた。

しかし顔が可愛いので男子たちは彼女に理不尽に怒られても、「なんだよ」と恥ずかしそうに口をとがらせるばかり。女子たちからはひときわ「かっこいい」とモテていた。



 物言いは強いけれど誰とでも仲良く接する彼女だったが、俺にだけ態度は違った。

俺は小学校入学を機に引っ越してきたのに加え、引っ込み思案な性格も手伝って友達が全くいない小学生時代であった。教室で一人本を読んでいるのが好きだったのだが、そこを春奈に目をつけられて、よく「男らしくない」と無理やり筋トレをさせられたり、追いかけられたりしていたのだった。


 彼女に嫌われたきっかけは、俺の失言だった。


 いつもズボンを着ていた彼女がフリルの付いたピンクのスカートを履いてきた日があった。ほかの男子たちは「お前なんだ、その恰好」とからかっていて彼女はそれに「うるせー」と笑っていた。そこに俺は「可愛いじゃん」と言ってしまったのだ。



 彼女は顔を真っ赤にして泣き出してしまった。女心に疎い俺は、なんでその時彼女が泣いてしまったのか未だにわからない。だがそれ以来、春奈は俺につっかかってくるようになり、他の女子からも「春奈ちゃんを泣かせた奴」ということで総スカンを食らったのだった。



 笑顔で話してくれる春奈にちょっと安心をして、自己満足かもしれないが、謝るチャンスだ、と思って、勇気を出して話題に出してみる。



「あ、あの小学生の時、スカートのこと言ってごめん。今考えると女子の服装に口出すのキモイよな……」

「え~坂口、そんな昔のこと覚えててくれてたんだあ!」

「う、うん……」

「それね、逆に嬉しかったんだよ。いつも『カッコいい』とかしか言われなかったからさ。でも子供だったからなんて顔したらいいのかわからなくて、恥ずかしくて泣いちゃったんだよね……。あと、クラスの輪に坂口も入ってほしかったの。でも本人が望んでないのによくなかったよね。謝るの、こっちのほうだし」



 彼女は、右手で持っていた飲みかけのグラスを置いて、真面目な顔をした。真顔になるとパーツが整っているのが一層際立つ。



「坂口に意地悪ばっかして、ごめんなさい」 


 真摯な謝罪だった。クラスで一番かわいい女の子に、僕だけ虐められる優越感がちょっとだけあったのは黙っておこう。


「あの時はじめて『かわいい』って言われんのって嬉しい、って気づいて! だからパーソナルジムでも、『女性らしさと筋肉の融合』を売りにしてトレーナーしてんの! ほら見て!」


 春奈は机の横に足を伸ばして見せた。太ももの肉感はありながら、足首がキュッとしまった理想的な美脚だ。見ていいのか、どうか分からず僕は「なるほど、いいね」とか歯切れの悪い相づちを打つ。



「坂口は……肩凝ってそうだよね。ねね、今度ジムに来てよ」

「席替えでーす」



 田中の掛け声で、僕はじゃあ、と言って、隣の席に移動しようとすると。



「ねえ坂口! あのね、さっきの第一印象ゲーム。坂口に触ったのは……あたしだよ」



 春奈はそう言って、またあの日みたいに顔を真っ赤にした。





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