第2話 『俺の人生のヒロイン、全員集合!?』
合コン相手が全員知り合いだった。
俺が動揺している間に残りの男性陣も合流し、合コンが始まった。
「お待たせしました! 今日は集まってくれてありがとう! 男子のほうから紹介するね。まず佐藤と鈴木は俺の大学時代のサークルの友達。んで、こっちの坂口は会社の同期。
女の子たちは社会人サークルのお友達だそうです。秋葉ちゃんと俺が友達の縁で今回セッティングしました!」
すると、ひとりの女性が口を開く。
「そう、『ミステリー・ラボ』っていう社会人サークルで一緒なんだ」
「へえ、なんのサークルなの?」
田中の友人が彼女に尋ねる。
「謎解き。みんなで脱出ゲームとか行くんだ。私達そこで「スフィンクス」っていうチーム組んでるの。結構脱出率も高いんだよ」
田中がアイスブレイク的にそれぞれのコミュニティの紹介をし、男性陣が興味深そうに食いつく。
俺はと言えば頭が真っ白で全く頭に入ってこない。
「じゃあ、合コンらしく、自己紹介から行きましょう!
まずは俺、田中 亮です。今はIT会社のエクセレンスで、企画営業してます!
大学は慶陽大の経済学部。
湘南キャンパスだったので当時はサーフィンばっかしてました!」
さすが営業、明るい雰囲気を作る……と思っていたら、次に田中の大学の同期だという佐藤君たちも田中に負けないコミュ力高めの挨拶をする。これが陽キャ……!!
一人でおののいていると、俺の自己紹介の順番がやってきた。
「坂口 創です、田中と同じエクセレンスで、システム開発してます。えーとつまりシステムエンジニアってやつです。よろしくお願いします……」
知り合いの前で、自己紹介なんて何をしゃべったらいいか分からない。
俺があまりにつまらない自己紹介をするものだから、田中が気を使って「坂口は同期のエースで、今は大手の依頼でAIを使ったネットスーパーのマーケティングプログラムとか作ってるんだ!」と持ち上げてくれる。
「じゃあ、女の子もお願いしていい?」
はーい、と言って、俺の目の前にいた、一番端の女性が手を上げる。
「藤倉 春奈です。歳は二十四歳。職業はパーソナルジムのトレーナーをしています。腹筋もわれてまーす♪」
明るい茶髪で、緩やかに巻いた髪を高い位置にポニーテールしている。
ジムのトレーナーをしているというだけあってスタイルが抜群で、体のラインが出るスポーティーなトップスに短いスカートという服装が似合っている。
綺麗めギャルっぽい健康的な雰囲気なこの女性が――
俺の小学校の同級生だ。
子供の頃引っ込み思案だった俺は、彼女によくいじめられていた。
次に春奈の隣の女性にスライドする。
「城田 夏帆です。二十四歳です。職業は……一応医師なんですが、まだ研修医一年目のひよっこです」
暗めの茶髪のセミロングをゆるい巻き髪にしていて、彼女が振り向くたびにふわふわと揺れた。医者というエリート職業にもかかわらず、カラカラと歯を見せて笑う様子は親しみやすい雰囲気がある。
肩まで出ているふわっとしたピンクのニットを着ていて、雰囲気は朝のニュースに出ていそうな清純派アナウンサーといった感じのこの女性がーー
俺の高校の同級生だ。
俺はかつて彼女のことが好きで、思い切って告白するも振られた過去がある。
さらに夏帆の隣に自己紹介は移る。
「渡 秋葉です。二十四歳です。芸能事務所のマネージャーをしてます」
彼女は会社帰りなのか、グレーのスーツを着ていた。
髪形は黒髪のショートで快活さを感じさせるが、元々の顔が童顔なのであまり威圧的な雰囲気はなく、そのギャップが可愛らしい。マネージャーという職業の性なのか、彼女は自己紹介中もずっと、食べ物を取り分けたり空いているグラスを下げたり忙しなさそうに動いていた。
声が少しアニメ声で可愛らしいこの女性がーー
俺の大学時代の元カノだ。
少しすれ違いがあり、俺のほうから振っている。
女性陣の自己紹介も最後。
「黒川 冬子です。私だけちょっと年上の…二十六歳でJANA国際線のCAをしています。
上知外国語大学のスペイン語学科を出ているので英語とスぺ語ができます」
そういうと、彼女は髪をかき上げた。綺麗な長い黒髪が絹のように、とろんと彼女の胸元に落ちる。胸元が見えてしまいそうなのほど、深く切り込まれたVネックの白のブラウスに、ひざ丈のタイトスカート。
首元にはブランドのネックレスといういで立ちで、この四人の中でも洗練された雰囲気を放っていたこの女性がーー
俺が人生で唯一、一夜限りのお付き合いーーつまり、ワンナイトした女性だ。
全員の自己紹介が終わり、俺は一層冷や汗をかく。
――勘違いじゃなかった、マジで全員知り合い!!!!!!
そして俺の数少ない恋愛遍歴を代表する四人であった。なんの運命のいたずらで全員ここに!?
俺にとっては忘れられない女性たちだが、彼女たちにとってはおそらく俺は会いたくない登場人物の一人だったのではないか。それぞれ進路や関係が分かれて以来、初めて再会するが、正直誰とも笑顔での別れはしていないのだ。
俺は隣の田中をちらりと見る。もう田中に事情を話して帰ろうかーー。
そう思った時、田中が「はいはい!」と言ってみんなの注目を集めた。
「自己紹介が終わったところでーー合コンの定番、第一印象ゲームをします!」
――なんか始まった!
「ルールは簡単、男どもは目をつむります!
女の子は今「いいな♡」と思った人の手に触れてくださーい!」
単純なルールではあるが、ともすれば、ただの飲み会になってしまう合コンを色気のある雰囲気にするゲームだ。田中、さすがだ。俺も知り合いばかりの合コンでなければ、ドキドキして目をつぶったであろう。
女性陣は「やだー」とか言っているが、キャッキャッと笑ってまんざらでもない雰囲気。男性陣もワクワクしている。
「じゃあ、行くぞー。男は目つむって!」
田中の掛け声で、男性陣は目をつむって、テーブルの上に手のひらを置く。この雰囲気を壊すこともできず、俺もそれに倣った。
――いや、誰も俺なんかの第一印象良くないだろう。というか、第一印象でもないし……だが。
――トントン
――え……?
「はーい、じゃあみんな目を開けて」
その田中の声で、俺も目を開ける。女性陣は恥ずかしそうに眼を見合わせて、男性陣は「なるほどなるほど」と腕を組んでおどけている。今、誰か俺の手を触った……?
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!??????
単純なことに、俺のテンションは爆上がりした。いったい誰が俺のことを、「いいね♡」と思ってくれてるんだ!? その左手の指先の冷たい感触が残る。一人でも、今日俺と再会できたことを「いいね♡」と思ってくれているのだったら……。俺はその正体を探るべく、合コンに挑むことにしたのだった。
「じゃあ目の前の人と、フリータイム!」




