第2巻 第4章:私たちの関係はそれほど単純ではないから:ゲリクリズム
「ねえ、ヨリ。私の唇、好き?」
ルイザは本を読み終えて膝に置くと、私を見た。まるで自分の質問に合わせて、下唇を少し突き出して、いつもよりふっくら見せてるみたいだった。
こんな質問、今まで誰もされたことなかった。考えてみれば、ルイザっていつも変なアイデアばっかりだよね。
で、私、どう答えるべき?
「……ん」
「私、読んでるときに、よく見てるよね」
あ……
否定しづらい。私は本当に、彼女が読んでるときによく見てる。時々、顔全体を。時々、唇に視線が止まる。なんでかって、自分でもよくわからない。ただ……声がどこから出てくるのか、知りたかっただけかも。
……変な理由だね。
「もし好きって言ったら、触らせてくれる? とか」
この世界って、そんなに簡単なの? お願いするだけで欲しいものが手に入る? 本気で欲しいわけじゃないけど、彼女の反応が見たくて、つい聞いてしまった。
そんなシンプルな生活、アニメみたいだよね。
……って、どんなアニメだっけ?
まあ、どうでもいいか。
さっきまでわざと下唇を突き出してたルイザが、今は唇をきゅっと閉じて、紙に引いたまっすぐな線みたいになってた。
最初は私の質問に戸惑った顔だったけど、すぐに何か想像したみたいで、顔が真っ赤になった。もうその色の発明者って言ってもいいくらい。空気が熱くなった気がした。ルイザの中で炭が燃え始めたみたいに。
彼女の反応を見て、私の体に変な震えが走った。……自分でも隠しておいた方がいいようなやつ。もしかして、期待してた?
ルイザは顔を背けた。手が顔に上がって、唇に触れてるんだろうなって動きでわかった。手を下ろすと、小さく呟く声が聞こえた。
「いや……変だよ」
やっぱり、現実はそんなに甘くないよね。
まあ、いいか。
「今度はヨリが読んで」ルイザは振り向かずに本を突きつけてきた。
「え? でも私、一ページ読むのに永遠かかるよ!」
「うん……」
どうしたの? 怒ってる? でも何に?
ルイザが変な質問したのに、私、答えをはぐらかした……いや、答えられなかっただけかも。
それが彼女を怒らせた?
考える暇もなく、ルイザがもっと強く本を押しつけてきた。角が肋骨に刺さって、思わずびくっとした。
これが唯一の返事みたいだった。状況が少しもクリアにならないけど。
私は本を受け取って膝に置いた。普段、ルイザは人のパーソナルスペースなんて気にしない。まるで彼女のルールが憲法より上みたいに。
でも今は妙に距離を取ってる。ベッドの背もたれからクッションを取って、少し遠くに座った。
寄りかからない。私の上に寝転がらない。ただ……
文句はないけど、なんか不自然。
結局、読むことにした。この一週間でアルファベットをそれなりに覚えたから、意味くらいは少しわかるようになった。
まだ文字を間違える。似たようなぐにゃぐにゃが別物だってふりしてるみたいで、混乱する。
だから、枝の上のフクロウが、なぜかヤギになっちゃう。
おとぎ話ならもっと変なこともあるけど、木にヤギを乗せるなんて、誰が思いつくんだろう……?
まだあの異世界の文字に慣れなくて、全部似たようなぐにゃぐにゃの線にしか見えないんだよね。
だから、睡蓮の葉っぱにちょこんと座って「ケロケロ」って鳴いてるはずのかえる(蛙)が、どうしてもかえる(帰る)になっちゃう……。
「帰る」が睡蓮の上でケロケロ鳴いてるって……変だよね。
もちろん昔話には不思議なのもあるけど、そんな話、聞いたことない気がする……。あるのかな?
ルイザは、私が本を読んでいる間、何度もこっそりと私の顔を見ていました。まるで何かを期待しているかのように、何かを探しているかのように。でも、それは何だったのでしょうか?
もしかして「人をジロジロ見るのはダメだよ」って、実際に教えてくれるつもりだった? 正直、全然わからなかった。
一つだけ確かなのは——彼女の視線がちょっと落ち着かなくて、本に集中するのが難しかったってこと。
もしルイザが同じベッドで寝てなかったら、たぶん本を置いて寝に行ってた。どんな状況でも、寝るのが一番の解決策に思えるから。でも今、仮にそうしようとしても、まるで失敗した脱獄みたい——結局また牢屋に戻ってくるだけ。
「怒ってる?」
「違う」
ルイザの答えが速すぎて、口が開いたのも気づかなかった。まるで声が彼女からじゃなくて、どこか別のところから出てきたみたい。
「傷ついた?」
「違う」
ルイザがこんな短く、きっぱり答えるの、初めてかもしれない。最悪なのは、彼女がまだじっと見つめてくること。一瞥だけで、体に冷たい風が吹いたみたいに、鳥肌が立った。
「じゃあ何?」
「わからないの?」
ルイザは目を細めて、顔にうっすらシワが寄った。
「……そうみたい」
一秒経って、彼女の緊張した表情が少しずつ緩んだ。代わりに唇をふくらませて——中指を立てて見せた。
え……?
「今、脅してるの?」
正直、暴力とかやる気も勇気もなかった。本当に決闘申し込まれたら、たぶん大ピンチだった。
「あ、違う。どの指だっけ? これ?……それともこれ?」自分の間違いに気づいて、慌てて指を切り替えた。
薬指まで立ててた。どうやって? 私、薬指だけ伸ばすの、他の指も一緒に上がっちゃうのに苦労するのに。
私も真似してみたけど、どんなに頑張っても、伸ばしてるって言えるレベルじゃなかった。
でも、まあ、言いたいことはわかった。
「じゃあ……」
「唇は恋人のもの!」ルイザは小指を立てて宣言した。
「おぉ……」
どうやら本当に、指輪をどの指につけるか知らなかったみたい。でも、まあ、どうでもいい。
私が「触らせて」って言ったとき、彼女は何を考えたんだろう? 最初に冗談だって言っておけばよかった? 考えてみれば、それが私があんなこと言った唯一の理由だった。
今もし「じゃあ結婚しよう」って言ったら、どうなるかな。目を丸くして、衝撃で固まる? たぶんそう。
世界って、なぜか小さな針一本で全部がギシギシ鳴り出す仕組みになってる。きっとそれが、こんなことが妙に面白く感じる理由なんだろう。
「わかった。ごめん」
「本当にわかった?」彼女は疑うように聞いた。
自分の言葉を忘れたみたいに、また顔が近づいてきた。視力悪いのかな、私が気づいてなかっただけ?
「……特別な人のもの? ……恋人の、よね?」
私は少し離れて、後頭部を掻いた。なぜか、声に出すだけでめちゃくちゃ気まずい。
「え……はは……」
彼女が急に笑い出したから、一瞬固まった。
何がおかしいの? 私がそんな結論にたどり着いたことに感動した? 時々——というか大半の時間——この子の理解が本当に難しい。
「ヨリは?」突然彼女が聞いた。
「何が?」
「ヨリにはいないの?」
変な質問。答えがわからないからじゃなくて、ただ何も感じなかった。
年齢のせいか、こういうことに対して軽く考えすぎてるのかも。彼女の振る舞いのせいで、ルイザが自分より年上だってこと、よく忘れる。だから、彼女にとって大事なことでも不思議じゃない。
恋人、か。
想像しただけで、なぜか顔が歪みそうになった。誰かがベッドの反対側を占めるなんて、想像したくなかった。やっぱり、私、まだ若すぎるのかも。
「……で?」彼女がせっかちに促した。
「別に、どうでもいいかな」
ルイザが目を細めた。
「どうでもいい?」
はっきり言える——彼女の「恋人」って話は、私の心に響かなかった。むしろ、拒否反応が出た。
それなのに、この無垢な顔を見ると——薄暗いランプみたいな光に照らされて——急にメランコリックな気持ちが湧いてきた。ヘリオンを分け合ったときみたいに。くすぐるような感情、すぐそばの静かな呼吸、馴染みの匂い、この瞬間ごと切り取って、永遠に記憶に閉じ込めたいって。そんな欲望が、たまらなく……悲しかった。
この感情の名前、知らない。正直、知りたくもない。
「まだ早いかな……」
結局、一番安全な答えを選んだら、すぐに笑われた。
マジで、今日どうしたの? 本当に喧嘩売りたい?
頭を下げて、心も一緒に下がった。この会話に深い意味はなかったけど、なんか胸に軽い澱が残った。雪に埋もれたみたいに、冬の寒さが周りを包んだ。そんな感じ。
詩的じゃなく言うと——めちゃくちゃ疲れて、なぜか寒い。やっぱり読書は向いてないのかも。
.
目を開けたとき、ほんの一秒しか経ってない気がした。部屋が静かすぎて、暗すぎて、今が何時なのか全然わからなかった。
最初に思ったのは時計を見ること。まるでどこかに遅刻しそうみたいに。でも意味ない——私の部屋に時計なんてなかったのに。その感覚が離れなかった。
起きようとしたけど、視線が腹の上にいる人に吸い寄せられた。いつまで私を枕代わりにするつもり?
そっと動いた瞬間、ルイザの手が私の手首をぎゅっと掴んだ。
……どうして? 寝てて、どこを掴むべきかわかるの?
無意識の意識の高さに、ちょっと感心してしまった。
「もうちょっと……」ルイザが呟いて、私の腹に顔を埋めた。
私は風船みたいにしぼんだ。なのに、なぜかイライラじゃなくて、重たくて温かい諦めしか感じなかった。
「なんでうちの家族みんな……わがままなの?」誰に言うでもなく呟いた。
厳密にはルイザは家族じゃないけど、もうそう思ってる。両親の態度も、ただ「友達の娘を見てて」以上のものだった。お父さんは私が寝てる間に、ルイザにいろんなお菓子を分けてた。結果、私の分がなくなることもしばしば。
でも時々、彼女の方が……私より愛されてる気がした。なんでかはわからない。ただブラブラして、平穏を乱して、他人の生活に土足で入ってきて、二人分食べて、うるさくて。
それなのに——輝いてる。
それが理由なんだろうね。
この前、お父さんが最後のベリーのパンをルイザにあげたとき、思わず文句言った。
「いいじゃん。見てよ、こんなに嬉しそうにしてる。ケチ?」
「いや……でも私のは?」
「パン二個だけだったし」彼は肩をすくめて平然と言った。
「自分の分を私にくれればよかったじゃん! ケチ!」
「本物のケチな顔が見たい? 鏡見てみな」
「よく言われるよ、私がお父さんに似てるって」
お母さんとは……まるで人とペットの関係みたい。挨拶を交わして、お母さんが頭を撫でて、そのまま通り過ぎる。
私より頻繁に。もしかして、本当に猫だと思ってる?
でも、怒れない。私だって、お父さんのパンをルイザにあげて、撫でたいと思う。たぶん、心は脳が嫌がるものをいつも受け入れる。
「なんでいつも私に寝るの?」天井を見ながら文句を言った。
「温かい……柔らかい」
「温かくて……おい!」
腹を「柔らかい」って呼ぶなんて、何考えてんの? 頬をつねって罰したかったけど、頭はまだ毛布の下。私は彼女が意識あるかも怪しかった。
数秒後、彼女が頭を上げて毛布を払った。エメラルドの髪が現れて、次の数秒、私はただ見つめてた。波打つ髪が顔を縁取る姿が、なんだか魅力的だった。
まるでドライアドで、葉っぱの間から顔だけ覗いてるみたい。
「もうちょっと寝よう?」ルイザがあくびしながら提案した。
答える間もなく、また腹に顔を埋められた。結局、目覚めた一瞬は何も変えなかった。私はまだルイザと毛布の下に閉じ込められてた。彼女がふわふわすぎて、ぼんやり見てるうちに、自分もこのふわふわに溶けちゃいそうだった。
もしお父さんがこの場面を見たら、どんな新しいジョークを言うだろう? そんなことを考えながら、眠りに落ちた。
ベッドの下からニヤニヤしながら出てきて、意味不明なこと言って、自分だけ楽しんでる姿が簡単に想像できた。父のからかいから逃げるか、ルイザの無垢な抱擁に沈むか——私は後者を選ぶ。たぶん、私たち似てるよね。
ルイザの髪を撫でた。柔らかい。今なら、お母さんがなぜそうするのかわかる。私の髪は、特に絡まると、適当に捨てた枝でできた鳥の巣みたい。
「お腹すいた……」
腹の上にいるのに、どうしてそんな結論? 私の胃が鳴ってないのは確かだよ。
「本当に食べるの好きだよね」
「ヨリが寝るの好きなのと同じくらい」彼女は満足げに笑って顔を上げた。
「まあね」
たぶん、これが私たちの本能の基本特性だ。
「子供のうちにもっと遊ばなきゃ」ルイザは私から転がり落ちて、伸びをした。
「人生経験豊富みたいに言うね」
「ほっほっほ、私の方が年上だもん! 丸五年!」彼女は誇らしげに言って、うつ伏せになった。
頭を両手で支えて、無邪気に足をバタバタさせる姿を見て、大人だって認めるのが難しかった。
でも、大人って何? 若さが終わるのはいつ? そして一番大事なのは……大人になっても若く感じるのを、何が邪魔するの?
カーテンを開けて、空を見た。
厚い雲の隙間から、弱い光が降り注いでた。まるで私の中に入ってきて、部屋を少しだけ明るくしてるみたい。
肩に優しくのしかかる光の重さで、頭がだんだんクリアになった。
「確かに……もう十分年取ってるね」
「えー!」ルイザが怒って枕を投げてきた。
近い距離なのに、ルイザの枕の扱いが上手すぎて、完璧に顔に命中した。まるで何年もバスケの練習してたみたい。
バスケ……? まあ、どうでもいい。
大事なのは……
「え! 落ちたらどうするの?」
「自業自得。女の子を年寄りって呼ぶな」
意外とまともなこと言った。瞬間、ルイザも考えることができるのかと思った。
「じゃあ男はいいの?」
その瞬間、時間がルイザの周りで止まったみたい。彼女が凍りついて、動いてたことすら疑わしくなった。
「え……う……えっと、だめ?」
どうやら知恵は一文しかなかったみたい。得意げな顔が、罪悪感とバカっぽさに変わるのを見て、時々からかうのがやめられないと思った。
「男は生まれたときからおじいちゃん」母さんが寝室のドアから顔を出して言った。「不機嫌で文句ばっかり。お父さんみたいにね」そう言って部屋に入ってきて、手を背中に隠した。
「お母さん? いつからそこに?」
お父さんが盗み聞きして、タイミング見て出てくるのは想像つくけど、お母さんまで……もう無理。
ルイザもよく文句言うって言いたかったけど、お母さんが先に言った。
「でもヨリもいつも文句言ってるよね。ああ、お父さんにそっくり」彼女はくすくす笑ってベッドに近づいた。
「お母さん!」私はルイザの満足げな笑みに頬が熱くなって叫んだ。「何しに来たの?」
「市場に行って、これ買ってきたの」
背中から手を出し、黄色くて長い、武器みたいに怪しい果物を二つ差し出した。バナナってやつだっけ。まあ、どうでもいい。
「何これ?」ルイザが驚いて手に取った。
「これは……」
「ブーメラン」私が素早く割り込んだ。「投げると戻ってくるよ」
目で母さんに「合わせて」って合図した。母さんは眉を上げて、この茶番に加わるか迷ってるみたいだったけど、黙ってた。
表情だけで、彼女が何言ってるかわかってないのがわかった。だから、逆に興味持っちゃったのかも。私も自分の言葉に自信なかったけど。
体が温かくなる、懐かしい何かみたいな一瞬のノスタルジー。でも次の瞬間、何だったか忘れる。
「ブー……メラン?」
ルイザが一瞬固まって、真理に触れたみたいだった。それからぎこちなく手を振った——広すぎて、頑張りすぎ。
息を止めて見守った。
果物が変な曲線を描いて飛んで、まるで本当にブーメランになったみたいだった。一瞬、ルイザの手に戻るかと思った。
ドン。
壁に鈍い音がして、バナナが滑り落ちて床に落ちた。
私は大声で唾を飲み込んで、床を見つめた——肩が震えて、笑いを必死に抑えてた。
「嘘つき! 戻ってこなかった!」ルイザがベッドから飛び降りて叫んだ。
「何言ってるの……? 最初からうまくいく人なんていないよ」頬が膨らんだけど、必死に真面目な顔を保った。
お父さんの無鉄砲さのおかげで、いつ止めるべきかわかってた。遊びが本気のいじめに変わったら、面白くなくなる。
また壁にぶつかってぐちゃぐちゃになるのを見るより、自分で見本を見せることにした。
爪で端を押して皮を剥いて、小さくかじった。
「本当にバナナ見たことないの?」咀嚼しながら聞いた。
「バナナ?」母さんとルイザが同時に聞いた。
驚きすぎて、むせそうになった。明らかに、この状況で知らないのは私も同じだった。
「これはアウリルン」母さんが怪訝な目で説明した。「まあ、ヨリの頭の中はいつも変なことでいっぱいだけど」
結局、また子供の空想だって流された。ありがたいことに。
「は! 食ったな!」ルイザが得意げに叫んだ。
「うん、めっちゃおいしい」私は平然と頷いて咀嚼を続けた。
ルイザがぶつぶつ言いながら背を向けた。期待してた反応じゃなかったみたい。
床に落ちたアウリルンを拾って、皮を剥いて……
「壊した!」
手を伸ばして見せた。ちょっと……ボロボロ。どう剥くかわからなくて、無理やり押し込んだみたい。
「私が?」
「投げろって言ったのはヨリじゃん!」
「言った?」
ある意味、理屈は通ってる。でもルイザが私の言うこと全部信じるのが悪いのか、私が悪いのか、判断がつかなかった。
「いいよ。私のを少しあげる」
「少し? 全然……えっと」
優しさ? 思いやり? 何を言おうとしてたのかわからなかった。正直、考えたくもなかった。
大きいアウリルンを剥いて、半分折って渡した。
ルイザがベッドに登って果物を受け取る姿を見て、ちょっと気まずくなった。無防備すぎる。
「えっと……」
「何?」彼女は果物を口元で止めて固まった。
「スカートの下、見えてる」
「えい!」
慌てて裾を直した。状況考えたら、そんなに気にするの変だけど。一緒にお風呂入ってるのに、何が問題?
母さんを見た。答えをくれると思ったけど、彼女も気まずそうだった。もしかして、変なのは私?
恥ずかしくて言ったわけじゃない。からかいたくてでもない。
気づいたから、言っただけ。
「いつもそう」ルイザは一生懸命手で隠しながら呟いた。
どう返せばいいかわからなくて、黙って自分の分を食べ続けた。
「食べてるなら、雪の中歩いた甲斐があったわね」
母さんは私に言ったけど、手はまだルイザの髪にあった。
一瞬、私も拗ねたふりした方がいいかなと思った。
まあ、どうでもいいか。
「さあ、行きましょう」母さんがベッドから立ち上がった。
「どこ?」
「ご飯食べに」
遊びの間に、ルイザがお腹空いてたこと忘れてた。母さんが私を見て「お腹空いた」って言うのが、ちょっと不思議だった。私、そんなにお腹空いて見える?
降りる前に、もう一度ルイザを見た。まだぎこちなく果物を食べてて、どこでも見るけど私の方は見ない。ルイザと違って、私はいつも彼女を見てるって認めるの、辛かった。もしかして、私が大胆すぎる?
良い意味でも悪い意味でも、彼女は静かに私の人生を埋めて、記憶を上書きしてた。この部屋で一人で目覚めること、もう思い出せない。
いつか、ルイザなしの子供時代を思い出せなくなる日が来る?
たぶん。実際、もうそうなってる気がする。
運命が引き合わせた? ただの運? どっちでもいい。私は彼女を放っておけない。
「ルイザ」
「ん?」
アウリルンの皮を指差して、彼女にこっちを見させた。
「何?」
「色」私は指を動かして強調した。
少し恥ずかしそうに目を細めて、見えにくいみたいだった。何秒か見て、突然小さな悲鳴を上げた。頬の薄い赤みを見て、意味がわかったんだってすぐわかった。
「黙れ」厳しく言おうとしたけど、声が震えてた。
私の言葉を裏付けるみたいに、ルイザは頭を下げて、シャツの裾を膝まで引っ張った。
「何も言ってないよ」私は肩をすくめて、にやりとした。
「はいはい。かわいそうな子をからかうのやめなさい」
今度は母さんの手が私の頭に。反論なんてできなかった。代わりに目を閉じて、彼女の手が私をこの部屋の外に——もしかしたらもっと遠くに——連れてってくれるのを許した。
「時々、本当に歩くトラブルメーカーね」
「ひどい」
「そうなの? 誰が果物を台無しにしたの?」
手を顔に下ろして、鼻を指で挟んで引っ張った。まるで嘘つきの人形にしようとしてるみたい。私は思わず顔をしかめた。不満を表現したくて。
でも否定できなかった。またお父さん譲りの性質。時々、お母さんに似てた方がいいのにと思う。でも今は、髪の色と……母さんの指の間にある私の鼻以外、共通点がほとんどない。
「本当に。耐えられないわね」
誰も意見を求めてないのに、ルイザが言った。
彼女の性格を表すのに、これ以上いい言葉ないと思った。
やめるべきだったかも。でもルイザが恥ずかしがるたび、変な満足感があって——なぜかそれで十分だった。
部屋を出るとき、ルイザはぴったりくっついてついてきた。まるで私がまた何か気づくのを恐れてるみたい。変なことに、それが逆に私を振り返らせた。
「もう一言でも言ったら……」ルイザが近づいてきて、耳元で息がかかった。「すぐ絞め殺さなかったことを後悔するよ」
「うわ」
予想外だった。声からして、冗談じゃない。
まだ死ぬには若すぎる。だから両手を上げて降参した。
顔を隠す長い髪が、本当に私を呪えそうだった。かわいいドライアドから森の魔女に、こんなに上手に切り替えられるなんて。
.
あの瞬間から少なくとも数時間は経っていたけど、何も変わらなかった——ルイザはまだ私にふてくされてた。
昼ごはんの間、時々チラチラと視線を投げてきて、食べ物の味なんて全然覚えられなかった。今は肘をついて窓の外を見つめて、怒った猫みたいに。
考えてみれば、実はかなり変わってた。
私が本当にやりすぎたのかも? まあ、正直言って、その「棒」はかなり細かったけど。
誰かが無言で服の色を指摘したくらいで、そんなに大事? 特に、元から知ってた色なのに。
……不思議だね。
とにかく、なんとか丸く収めなきゃ。問題は、いいアイデアが一つも浮かばないこと。読書を始めてもいいけど、また一語ごとに詰まったら、余計にイラつかせるだけ。わざとじゃない。ほとんど。
もう一度ルイザを見た。窓の外では太陽がもう沈みかけてて、彼女の顔が淡い赤に染まっていた。秋になって葉っぱが色づくみたいに。季節だけじゃなくて、ルイザ自身が大きく後戻りしたみたい。
この秋のルイザって、どんなだったんだろう? 今みたい? それとも今朝みたいな?
聞きたくなったけど、なんか無視されるか、シャーって威嚇される気がした。どっちがいいか、自分でもよくわからない。
それに、しつこいと思われたくなかった。今さらそんなこと考えるなんて、おかしいよね。
もし「うざい」「ハエみたい」って言われたら、もう立ち直れないと思う。怒って言ったとしても、心の底ではそう思ってるってことだよね?
ため息をついて、ベッドの背もたれを滑り落ちた。すぐに二つの枕に挟まれて。頭に温かい波が次々と流れてきた。柔らかくて、気持ちいい。
正直、何か間違ったことしてる気がした。隠れてるみたい。いや——逃げてるみたい。
ルイザにこの軽い態度を見られたら、もっと怒るだろう。幸い、目の前のものしか見えなくて、私も見えてないはず。頭が完全に塞がれてるから。考えてる間、足の指が空中で小さな円を描いてるのに気づいた。
急に起き上がって、頭を左右に振った。眠気を追い払うみたいに。今度は自分の体で「問題から逃げる」ってのを味わった。
……派手な起き上がりだったけど、ルイザは全然気づかなかった。私が口を開けてうずくまってる間も、彼女は黙って沈む太陽を見送ってた。
「何が見えてるの?」
彼女は首を左右に振っただけ。視線が一瞬私に触れて、また空に戻った。
「何も」
「『何も』に注目しすぎだよね」
考えずに言葉が飛び出した。慌てて口を手で覆ったけど、もう遅い。
鏡に映った彼女の顔——もっとふくれっ面になった。
頭の中でなら、もっとマシな言葉が出てたはず。なんで口を開くたびに、別の人格が喋ってる気がするの?
「ごめん、私……」
「何が?」
「えっと……」
彼女はこっちを向いた——怒りはなかった。ただ疲れた失望だけ。
「何もわかってないよね?」
適当に理由を並べたら悪化しそうだから、ただ頷いた。
「たまにはまともなこともできるんだね」
それって普段はバカって意味? まあ、どうでもいい。
「うん」また頷いた。
なぜかその瞬間——ルイザが許してくれなかったら、これからの日々をお互い無視して、彼女がただいなくなったら——って想像したら、頭が霧に包まれた。抜け出せなくて、疲れ果てる霧。私の意志の最後の滴まで吸い取っていく。
頭の中に広がったのは、ルイザのいない世界。
それは、三年間ベッドから出ずに怠けてた日々の鏡だった。外から見たら何も変わってないけど、内側では少しずつ変わってて——それを感じてた。
「私、友達なんていなかったし……よくわからない」
お母さんみたいに支えになるには頼りなさすぎる。でもお父さんみたいに軽薄になるのはやけに簡単。
またお父さんと比べてしまうけど——本当だから仕方ない。
彼はいたずらした後、周りの気持ちを考えたことあったのかな?
……今はそういう話じゃない。
ルイザが笑うと、なぜか彼女に家族が必要だってことを忘れる。
で、私……
彼女にとって何?
友達が必要? 私が友達になれる? それとも……今は他に選択肢がないから、我慢してるだけ?
そんな考えが頭を埋め尽くして、くっついて、絡まって、蜘蛛の巣みたいになった。もう少しここにいたら、耐えられない気がして怖くなった。
たぶん、私の情けない姿に飽きたんだろう。ルイザはため息をついて、もう一度窓を見てから立ち上がった。霧を払うみたいに、私に近づいてきた。
彼女は私の手を握って、強く握った。一瞬、折られそうかと思ったけど——違う。なぜかその瞬間、力が抜けた。
まともに話してないの、数時間だけなのに、離れてる感覚が予想以上に強かった。ルイザの顔に浮かんだ、ほとんど見せない無防備な笑みを見たら、彼女も同じ気持ちだってわかった。
「どうしたらいいんだろうね、君」
「愛して、食べて、絶対に捨てない」
「ペットみたいじゃん」
ある意味、間違ってないかも。
彼女は笑って、片手で頭を撫でた。まるで本当に動物みたいに。もう片方の手は、まだ私たちの間に架かる、変で脆い橋を握ってた。
この喧嘩——喧嘩って呼べるかわからないけど——が、なんだか私たちを近づけた気がした。普段他人に見せたくない部分を、引っ張り出して。
時には、境界がどこにあるか知るために、ちょっと行き過ぎる必要があるのかも。
……冗談だよ。次に進もう。




