⑧
「このまま追いかけなくていいの?」
「いいんだ」
連れ戻されたわけでもなく、自分から帰ったのに、何を追いかける必要がある。
「乙女心がわかってないなー」
「お前にはわかるのか」
さも恋を知っているように振る舞うが、自分と同じようなものだろう。
「リングドース、話がある」
「はい」
父上がリングドースを呼びつける。
暫く時間が経ち、リングドースは神妙な顔をして出掛ける用意をした。
「ごめん…」
顔もみずにただそう言い残して城を立った。
あまりに重苦しい雰囲気を纏っており、気になったワーレンはリングドースの後をつける。
たどり着いたのは貴族の屋敷、それなりに身分が高いものだろう。
窓の外から様子を確認してみるが、どこにいるのかはわからない。
「ここで何をしいてるんだよ兄さん」
リングドースが背後から声をかけた。
「それはこちらの台詞だ何故彼女の屋敷にいる」
ワーレンは、かつてないほど怒りに苛まれた。
なぜ弟がテトゥラァナの住む屋敷にいたのか、なぜそれに腹が立つのかを理解出来ずにい苛立つ。
「どうやら彼女は俺の婚約者だったみたいでね」
リングドースがぽつりと、テトゥラァナの屋敷から出てきた経緯を話す。
しばらく何も考えられずにソファに座っていたテトゥラァナは、ようやく話し合っていた部屋から出る。
そしてお茶を飲んで落ち着こうとキッチンに好きな茶葉を取りに行くとすぐ近くの裏庭から声がすることに気がつく。
テトゥラァナはそれがワーレンとリングドースであることに気がつき、直ぐ様裏庭へ向かった。
「もしかして彼女のことを少し想っているとか?」
リングドースはワーレンが自覚できていなかった感情の核心をつく。
会えなくなることを寂しいとテトゥラァナから言われた時に、最初に出会って森で夜を明かしたときからすでに想っていたのだろう。
「少し、ではないな」
ワーレンにはそれ以外、言い返す言葉がない。
「ワーレンさん!」
テトゥラァナはまさかもう一度姿を見られるなど、予想していなかったワーレンに向かって一目散に走った。
しかし、後少しのところでつまずいてしまう。
ワーレンが駆け寄り、テトゥラァナを横抱きにしたまま、リングドースの呼び掛けにも答えず屋敷を抜け出した。
「ワーレンさん!?」
あっさりと再開したと思いきや急に抱えられ、テトゥラァナは激しく混乱し、一先ず降り落ちないことだけを考える。
「お前の婚約者がリングドースだと知って…なぜ俺ではないのか、そんなことを考えてしまった」
急に沸き起こった嫉妬のあまり、衝動的に行動をおこしたと言う。
「ワーレンさん…」
テトゥラァナは婚約者のリングドースに申し訳なくもあるが、ワーレンも自分を好きなのだと知って、じわりと涙が出る。
「やはり、また家を抜けるのは嫌か?」
涙をぬぐうテトゥラァナを見て、ワーレンが足を止めた。
「いいえ…ワーレンさん私の事をどう思っていらっしゃるんですか」
言葉などなくとも、ワーレンの気持ちが自身に向けられていると、テトゥラァナはわかっている。
「愛している」
そうはっきりと告げ、ワーレンはテトゥラァナの額に口づけを落とした。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
次回作はリングドースと村娘のお話です。