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小悪魔王子と下僕系剣士7

 ふふっと笑みを浮かべて目の前のヒタカを無自覚に翻弄してくる小悪魔王子は、「その時が来たら僕にきちんと紹介するんだよ」と続ける。

 硬直し、耳まで茹で蛸になるヒタカは、頭の中がぐらぐらするのを必死で押さえ小さな返事をした。そんな相手を探す所か、目の前に居る美少女と見間違える容貌の王子様に魅了されそうになっているだなんて、言える訳がない。

「クロスレイったら真っ赤になってる。変なの!」

「ずびま…ぜん…っ」

 サキトはヒタカの反応がいちいち面白くて、つい悪戯が過ぎてしまう癖があった。この田舎者のような青年が自分の言葉一つ一つで大きな反応を見せてくるせいで、退屈で窮屈な生活が少し楽しいらしい。

 身体も大きく力も強い。護衛剣士になるべくして生まれたような、恵まれた人間だ。頼りなく見える顔だが、普通にしていても他者を威嚇してしまうような強面よりはマシ。

 アストレーゼンでの護衛としての活躍っぷりは、その優しそうな顔に似つかわしくない程有能ぶりを発揮していた。自分を狙った暴漢を蹴り飛ばし、力業で捩じ伏せる腕前ならば近くに置いても何ら問題ない。

「さ、サキトさま」

「ん?」

「あのっ、い、いいいつまでっ、こんな近くに」

「あぁ…君が面白いからついね」

 ほぼ密着してくる王子様に対し、抵抗できないままソファで硬直する護衛剣士。荒くなる呼吸をバレないようひたすら我慢しているヒタカに、サキトはそっと囁く。

「そんな反応すると、苛めたくなるんだよ」

「ひ…っ、は、はひっ!」

「ふふ、面白いよ」

 耳に甘く響く幼さの残る声がまた苦しい。

 ぎゅっと目を閉じ、ヒタカは早くサキトが離れてくれるのを待つ。全身が強張り、変な話、ご無沙汰な場所が変な反応をしてくるのをどうにかしたい。全ては眼前に居る魅惑的な王子のせいで、あらぬ思考に走りそうなのだ。

 まだ若すぎる相手に翻弄されるとは、情けないというか。大人として男として、みっともない。

「これからも、たっぷり苛めてあげる。ねっ、クロスレイ?」

「ひ…っ」

 苛めてあげるのフレーズに、何故か反応を示してしまう。

 サキトは可愛く微笑むと、ようやくヒタカから離れた。ゾクゾクする身体をもて余す彼は、泣きそうになりながら己の主を見上げると、「サキト様」と訴える。飼い主を見る犬の如く。

 長い睫毛を揺らし、金色の髪を遊ばせるサキトは妖艶に「なあに?」と専属の剣士に問う。

「少しだけお時間を下さいっ」

「?…いいけど、どうしたの?」

 すっくとソファから立ち上がるヒタカ。

「すぐっ、すぐ戻りますからっ!!」

「うん、いいよ」

 先程見せた妖艶な表情とは真逆の、子供らしい無邪気な顔をしながらサキトは言った。ヒタカは急いで頭を下げ、部屋から勢い良く脱走する。バタバタと遠ざかる忙しい足音。それを聞きながら、サキトはカウチソファにゆったりと腰掛けた。

 あの反応ったら。

 サキトは思い出し、つい声を上げて笑う。

「単純な性格してるなぁ、あの子」

 幾人もの大人と接してきたサキトは、あんなに素直な性格のタイプが珍しく見えていた。あんな大人居るんだ、と新鮮な気持ちになり、手のひらで転がっている様子がはっきり分かる。

 知る限りの周囲の大人は、自分に対して腫れ物のような扱いをするか、一線置いた態度を見せるか、下心丸出しにして接してくるかのどちらかだ。

 ヒタカも腫れ物に触るような態度を示してくるが、自分の一挙一動に純粋な反応を見せる。そこには下心が一切無い。素直に受け止め、卑屈にならない。他の剣士は堅物で、仕事だから割り切る様子が見て取れて、サキトは面白味が無いと思っていた。

 どうせ傍に付けるなら、楽しめる方がいい。

 つまらない籠の鳥の、少しばかりの贅沢。その位してもいいじゃないか。

「楽しみ。ね、クロスレイ」

 ソファの上で悠然と脚を組みながら、彼は妖艶に笑んで呟いた。


 煮えたぎった頭をひたすら手洗い場の水で冷やしながら、ヒタカは気持ちを落ち着かせていた。まだドキドキする。耐えきれずに部屋から脱走して、とにかく無かったようにしないと、と頭に水を被り続けていると、「何してんだお前?」と背後から声がかかる。

 振り返ると、アルザスが不思議そうな顔をしていた。

「何泣きそうな顔してんだよ」

「せ…先輩…俺、この先耐えられるでしょうか」

「あ?」

 ヒタカは洗面台から離れ、アルザスに問う。タオルが無いので水滴がぼたぼたと滴り落ちていた。

「何だお前!タオル無ぇのかよ!!水浸しになるじゃねえか!!」

「俺ヤバイんです。何か胸がモヤモヤするんです。あのお方にこれから俺、苛められるかもしれない」

「はあ?」

「俺、婚活したいのに、脳内で明るい家族計画立ててるのに。どうしたらいいですかね、自分で思い描いてたのとは全然違う方向に行きそうで怖いんです」

 一方的に喋り続けるヒタカに、アルザスは困惑した。

 だらだらと床に水を落としながら、彼は続ける。

「先輩、俺マゾなんですかね…」

「は!?」

 何だこいつ、とアルザスはヒタカを変な目で見た。そして人の性癖なんざ知るか!と返す。

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