表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/140

小悪魔王子と下僕系剣士8

 吐き捨てるアルザスに、ヒタカは水浸しのまま詰め寄る。

「自分でも分からないんですよぉ!すごくゾクゾクしちゃうって、おかしくないですか!?おかしいですよね!?やっぱり俺、変なんでしょうか、先輩教えて下さい!!」

 彼は凄く必死なのだろうが、泣きそうな顔で濡れたままで迫るその姿はただの変な人だ。アルザスは徐々に後退しながら「知るかよ!」と怒鳴る。

 ヒタカは妖艶なサキトの笑みを思い出すだけでゾワゾワする位、彼の毒気に当たってしまったらしい。

「先輩教えて下さいよぉ!」

 必死に訴えるヒタカ。

「うるせぇ!ならマゾじゃねーのかよ、寄るな気色悪い!」

 面倒臭くなり、アルザスは言った。するとヒタカはぴたりと停止し、泣き出しそうな顔を更に歪める。

「や、やっぱりマゾなんだ…!」

 絶望する大男。

「あぁああ、お前面倒臭ぇ!!そうなのかって言うからそうだって言ったら、この世の終わりみたいな顔しやがって!!」

「どうしよう、どうしたらいいですか!?ねえっ、先輩!」

「うるせぇ!そのデカい図体で構ってちゃんかよ、気持ち悪い!お前の事なんか知るか、俺に聞くんじゃねえ!自分でどうにかしろ!」

 どうにかしろ、と言われても。

 立場が完全に上のサキトから、直々に専属護衛剣士に任命された以上、これを無下にする訳にもいかない。アルザスに訴えても仕方の無い事なのは理解している。

 …でも、でもでも!

 あんな風に誘惑紛いの事をされては、恋人も居ない健全な肉体を持つ自分には辛い。ただでさえ、サキトの外見だけは良すぎるのに。

「変わって下さい!」

「はあ!?嫌だね、お断りだ!」

 アルザスはアルザスで、生意気過ぎるサキトの世話など死んでも嫌なパターンだった。元々子供が好きではない彼は、ただ王族に生まれただけで立場が上なだけで、立場を利用して横柄な態度を取るサキトが嫌いなのだ。

 頭を下げるのも嫌だというのに。

「子守りはお前が頼まれたんだからな!あの王子様がお前に飽きるまで世話してやれよ?お前みたいな一介の庶民剣士が、この国の可愛い王子様の護衛役だぞ?有り難いじゃねえか。責任もって、責務を全うしやがれ!」

 ぐっとヒタカは返す言葉を失った。

 そうなのだ。サキト直々に頼まれたのだ。嫌がれば、どんな事をされてしまうか分からない。

 誰に代わる事も出来ない。結局、黙って彼が飽きるまで傍につくより他に道はない。

 ヒタカはうなだれ、アルザスに言う。

「先輩…じゃあもし、俺がマゾで変態になっても、普通に接して下さいね」

 水滴は次第に落ち着いてきた。しかし、手洗い場の床は大洪水になっている。

「やだ」

「何でですか…」

「だって嫌だし。仲間だと思われるだろ」

 理由になっていない。アルザスは掃除用のロッカーからモップを取り出すと、甲斐甲斐しく拭き掃除をする。何で俺がこんな事を…と文句を言いつつ、掃除の手付きは完全に慣れていた。

「…仲間じゃないんですかぁ!?」

「うるせえんだよマゾ野郎!掃除しろや!お前がここ汚してんだぞ!何で俺がやらなきゃなんねえんだよ!」

「まだマゾじゃないです!!」

「自分から話題振っといて、マゾじゃねえとか言うのかよ!?そんな話をしてくる辺り、お前はもう変態になりかけなんだよ!」

 違いますぅ…と情けない声を出しながら、押し付けられたモップを受け取る。

 アルザスは舌打ちしながら、「ちゃんと片しとけよ」と言い捨てた。ヒタカは凹みつつ、半泣きになりながら返事をして手を動かした。その様子はまるで、新人を苛め倒した先輩にしか見えない。

 何でこいつが護衛剣士に…とアルザスは情けない彼に呆れた。でかい図体をしているくせに、中身はヘタレ過ぎる。頼りない顔で、何をするにも遠慮がち。本気で苛々する。

「さっさと掃除しろ。今日詰所にフランドル様がお出での予定だ。新人だろうが分け隔てないお方だが、一応王家の一員だからな。護衛剣士でもあるから、きちんと挨拶はしなきゃなんねえぞ」

「ふ、フランドル様…ですか」

「お前の可愛いサキト様の兄上だ。先週、休みを利用して『伝説のバッファローを探しに行く』とか言って出ていったけど、ご無事で良かった」

 伝説のバッファローなんか居るのか…と突っ込み所が満載だが、相手は王族ゆえしっかりと挨拶はしなければならない。ヒタカは分かりました、と返した。

「お元気な方ですね、相変わらず」

「フランドル様は毎回獲物を土産にして下さるからな。伝説のバッファローは無茶でも、猪とか平気で持ってくるだろうよ。装備も、ガチで革の鎧に鉄の盾を装備して行く。前に鉄の鎧を装備したら重すぎて、移動用の馬が使い物にならなかったみたいだ」

「………」

 そりゃそうだ。

 競馬のジョッキーだって、軽量化を図っているのに。

 アルザスはヒタカに、掃除とその水浸しの身体をどうにかしろと命じると、自分はさっさと詰所へ戻っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ