小悪魔王子と下僕系剣士5
落下した雑誌を見下すアーダルヴェルトは、ショックを受けながら「あはぁああああん」とまるで女子のような声を上げた。ヒタカは鼻の頭を掻き、待機してた方が良かっただろうか…と思っても仕方の無い事を考える。
取りに行かなきゃなんねーじゃん…とダストシュートの蓋を閉めようとしたその時だ。
「あっ!!ま、マジかよ、やめろ!!燃やすな馬鹿!俺が行くまで待ってろ!おいこら、聞こえねーのか!!」
「?」
立て続けに聞こえる叫びに、ヒタカは「どうしたんですか?」と彼に近付きシュートの中を見下ろした。ちょうどゴミの焼却時間らしく、職員が次々と沢山の集まったゴミの移動を開始している。
「ふざけんなくそがああああああ!!」
アーダルヴェルトの制止する声が聞こえないらしく、最下層の職員は手慣れた手付きで回収中。
「先輩、もう諦めた方が」
「うるっせぇ!!元はと言えばてめぇがシュートに捨てたのが悪いんじゃねーか!!」
「俺はイルマリネ先輩に命じられただけですよ…」
理不尽に怒鳴られ、ヒタカはまたかとげんなりした。最上階から下まで行くには結局時間がかかる。階段を猛ダッシュしようが、魔力で昇降する浮上装置で階下に降りようが、到底間に合わないだろう。
「最っ悪だわ」
「じゃあ、俺戻りますね…」
段々面倒になり、ヒタカはアーダルヴェルトを放置して立ち去ろうとした。しかし首根っこをぐいっと掴まれ引っ張られてしまう。
引きずられる大柄な身体。アーダルヴェルトはどちらかと言えば細身の体型で、ヒタカと比べて身長も頭一つ分低い。体型の差があるが、やはり選ばれた剣士らしく力持ちだった。
「おいこら」
「へっ!?」
アーダルヴェルトは首根っこを掴んだままのヒタカを更に引っ張る。がくりと体勢を崩した彼の耳元で、「何自分は関係無ぇ、みたいな顔してんだ」と脅す。
「いや、本当に俺言われただけで」
焦る後輩剣士に、アーダルヴェルトは意地悪な笑みをして囁いた。
「責任取って貰わなきゃなあ。何しろ、大切な先輩の本を焼却炉にポイ捨てしやがったからな?クロスレイ」
「なっ…!!」
アーダルヴェルトの方が年下だが、年齢順で護衛剣士に入れるものではない。彼の剣士としての能力は、上の先輩であるアルザスやイルマリネなどの手練れな剣士をも唸らせる位の力を持っていた。
悪戯小僧のような笑みをしながら彼は「代わりの雑誌。頼むな」と命じる。ヒタカは目を見開き、アーダルヴェルトからがばっと身を離した。
「はあっ!?」
「はあっ!?じゃねえよ。お前、今までエロ本の一つや二つ位買った事あんだろ。お前目線で選んでもいいけど、出来れば大人しめの子が沢山載ったやつ厳選して来いよ?」
凄く嫌だと思った。頼まれて捨てただけなのに、弁償して買えと言う。ヒタカは「や、やですよ!」と拒否。
「てめぇが何の躊躇いもなく捨てるからだろバーカ!」
「ならどうして最初から隠しておかなかったんですかっ!」
触るのも汚らわしいと嫌悪するイルマリネの視界に入らない場所にあれば、こんな目に合わなかったのだ。そして抜き打ち掃除をする程部屋を汚す仲間にも問題がある。
「抜き打ち掃除するなんて知らなかったんだよ!責任取れよ、クロスレイ!お前にも原因があるんだよ!」
めちゃくちゃな事を言い放つアーダルヴェルト。
「アルザス先輩に買って貰ったらいいじゃないですか」
「お前、馬鹿か?先輩に買えって頼む後輩がどこに居んだよ」
「だって同じ趣味じゃないですか…」
「あのなぁ、先輩は人妻系とか熟女系が好きなんだよ。俺はお嬢様系で、まっっったく趣味違うの!!分かってねぇな!お前だって清楚系に惹かれんだろ?」
ここで異性の好みの傾向について話すのも変な話だ。
真っ白を基調とする清潔感溢れるこの城内で、やれエロ本を買えだの人妻だの清楚系だのという会話は非常に相応しくない。
「いや、俺は清楚な人もいいけど元気な子が…でも結婚するなら、やっぱり家庭的な人がいいかなぁとか何とか…家に帰ったら、温かい煮物料理が待ってるとか最高じゃないですかぁ…」
好みのタイプをあれこれ想像し、ヒタカは一人の世界に入り始める。指をもじもじさせながら、頬を赤らめてトリップする彼を、アーダルヴェルトは怪訝そうに見上げていた。
大きな身体で、まるで夢見る乙女のような仕草。不釣り合い過ぎて、剣士だとは思えない。
そして一言。
「何かお前がモテない理由が分かってきたわ」
「えっ」
「きめぇんだよ、妄想に入りすぎて」
気持ち悪い、と初めて面と向かって言われヒタカはショックを受ける。今まで接してきた女性らも、内心そう思っていたのだろうか。
「そんな…」
「まあいいや、そんなんどうでも。とにかく買ってこいよ」
「い、嫌ですよ!」
「先輩の命令聞けねぇのか、この童貞野郎!!」




