小悪魔王子と下僕系剣士4
アルザスはすぐに仲間を裏切ったアーダルヴェルトを睨む。
「先輩を立てるって考えは無ぇのか、アーダルヴェルト!」
「いやいやいやいや、先輩俺に押し付けてきたじゃんか!」
「てめぇだって乗り気で『後で感想言う』っつったろ!」
不毛な言い争いを繰り返す度にイルマリネの表情が更に強張っていく。そんな様子に、ヒタカはおろおろしていた。やがて彼の身体が震え、真っ赤な顔で「うるさいっっ!!」と制止。
静まる詰所。
「クロスレイ、この雑誌を処分して」
「は!?えっ!?俺が!?」
「この人らに渡しても意味が無いだろう?」
アーダルヴェルトから奪い取った雑誌を見えないように袋に入れ、ガムテープで頑丈に封をする。あああ、と嘆くアーダルヴェルト。その様子だと、まだ読んでなかったらしい。
ガチガチに固められた雑誌を受け取るヒタカは、「俺が捨ててくるんですか…」と嫌そうな声を出す。
「そう。ゴミ置き場に捨ててきておいて」
「イルマリネ先輩が行けばいいのでは」
「汚らわしい。触りたくもない」
かなりご立腹のようだ。ヒタカは仕方無く、行ってきますと言いながら詰所を再び出る。扉を閉めると同時に、アーダルヴェルトの「マジかよぉ…」というがっかりした声が聞こえていた。
護衛剣士の詰所は、王城の最上階にある。一般から選別された剣士は、常に王家の人間を守れるよう常駐の意味で彼らの部屋と近い場所で待機していた。その為、廊下では良く王族の人間と顔を合わせる機会がある。
特にセラフィデル三兄弟に遭遇しやすい。
長男、ルーヴィル。芸術などの美に精通しており、それ以外の事には興味を示さない。外見は優男風で、国の事や内政、軍事関係の話には蕁麻疹が出る!と逃げる癖がある。長男にも関わらず物事を決めるには優柔不断で、あまりの役立たずっぷりに跡継ぎは全く向いていないのではないかと心配されている。
次男、フランドル。ルーヴィルとは逆に、力自慢で王子というイメージとはかなりかけ離れたワイルドタイプ。男らしさを追求し、軍事などには興味があるものの、とにかく頭が悪く勉強がからっきし駄目、おまけに字が下手くそ過ぎだと彼の教育係が嘆く程。城に引きこもるより、兵士の中に混じって自らの身体を鍛える事や、外の世界で猪狩りをする事が大好きだという。
そして三男、サキト。上記の二人の王子とは年齢が離れているが、一番跡継ぎに期待されているという人物。常に勉学に励み、知性を育む姿勢に、誰しもがうっとりしていた。二人の兄や両親も溺愛する程だが、有望視され過ぎたせいか達観している様子を見せている。外見は可愛らしいが、中身は可愛くない。挙って甘やかすせいで我儘で、自分の欲求を押し通す融通の利かない性格だった。
そんな我儘王子サキトに、自分の付き人兼専属騎士になれと命じられた庶民剣士ヒタカ。融通の利かない見目麗しい王子と毎日顔を合わせていると、稀にその愛くるしい魅力に心奪われそうになる。彼が異性ならばまだ救われるが、同性なのだから余計たちが悪い。
…本当は、スティレンをこき使いたいけどねぇ、というサキトは、根っから少し意地悪な性質なのだろう。
『本来ならうちにいるべきなんだよね、スティレンは。自国を捨ててアストレーゼンの剣士になるだなんて、進路を間違ったよ。あの鼻っ柱をバッキリ折りたいのにさ』
アストレーゼンで剣士をする自国の貴族息子、ウィスティーレ=ライ=エルシェンダという少年と会い、プライドの高い彼に散々身の回りの世話をさせたのが余程楽しかったらしい。お互いに気が強く、お互いに自尊心がありすぎて刺激的だったようだ。
彼と自分を比べると、いかに自分はつまらないのかを思い知らされてしまう。スティレンが強烈に特徴があるのだろうが、サキトは彼と関わると今までにないくらい生き生きしていた。
…当のスティレンは心底嫌がっていたが。
確かに会話を聞く分には楽しめた。しかし、単品ではあまり関わりたくはないタイプ。この世界で一番自分が美しいのだと平気で言ってのける凄まじい自信は、どこから来ていたのだろう。
廊下を進み、ヒタカは雑誌を処分するべく処分部屋へ向かう。階層毎に処分部屋が存在し、そこには一階に繋がるダストシュートがあった。蓋を開け雑誌を放ると、階下へと落下する。確認した後で再度蓋を閉めた。
こんな立派な王城で、何が悲しくて風俗雑誌の処分をしなければならないのか…とげんなりした。詰所に戻る為に踵を返すと、こちらに近付く忙しない足音が聞こえる。ヒタカは「あれっ?」と声を放った。
「どうしましたか?」
「…っどうしましたか、じゃねえ。さっきの雑誌どこよ?」
息を切らしながらアーダルヴェルトがヒタカに詰め寄った。
「えっ」
「さっきの…雑誌だよ!」
取り戻しに来たらしい。
「いや、もうシュートに」
「ふ…ふざけんなてめぇ…!!」
彼はダストシュートの蓋を開けると、悲痛な叫び声を上げる。




