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『漢過ぎる男』第二王子フランドル3

「ね、クロスレイ」

「は…はい」

 室内を数歩歩き、ぴたりと歩調を止めたサキトは部屋の扉の前で動かないヒタカに声をかける。

「君の寝床を確保しようと思ってさ。僕の専属になった事だし、そうだね…近くの開いてる部屋でもいいんだけど、この部屋を仕切ってベッドとか置いてもいいかな」

「は…はっ!?や、さ、サキト様!何を申され」

 突拍子もないサキトの考えに、ヒタカは激しく反応を見せた。さすがに一国の王子様と寝床を共にするなど恐れ多くて出来ない。それだけは避けて欲しい。

 それでなくても、今自分の気持ちがおかしな変化をしそうなのに。下手すると、サキトの毒牙にかかってしまう。

「何か不満がある?僕のベッドで一緒に寝てもいいんだけど、君寝相とか凄そうだからね」

「いっ…!!」

 一緒に寝る!?

 何の疑いも無くそんな提案をする辺り、彼は自分の魅力を分かっていないのだろうか。性格は普通の子供よりやや捻くれているが、外見だけは完全なる天使。ヒタカは控え目な性格だが、普通の健康な成人男子だ。モテない、恋人も居ない、寂しい男盛り。

 サキトの無自覚な危うい魅力に飲まれかけ。

「それだけはっ!それだけは駄目です!サキト様!!」

 慌てて止めた。自分は詰所近くにある、剣士専用の小さな部屋で十分だ。何かあればすぐに駆け付けられる距離だし、防犯には問題ないはず。

 さすがに、サキトと眠るのは危険すぎる。至ってノーマルのはずだが、今は平然と居られる自信がない。

「?」

 過剰な慌てぶりに、サキトは首を傾げる。

「どうして?同じ男だよ。何をそんなに慌てる必要がある訳?」

「ふっ、普通にお考え下さい!私は一般の剣士です!!王族のあなた様と床を共にするだなど、不敬罪で処罰されます!」

 堅苦しいヒタカに、サキトは呆れながら近付く。そして、彼の筋肉質の右腕を取ると「来て」と言った。かあっと真っ赤になるヒタカを無理矢理引っ張り、天蓋付きの大きなベッドの前に立った。小さなサキトには大きすぎるサイズ。

 真っ白く、柔らかな羽毛布団が綺麗に被さっている寝台に、何を思ったのか彼はヒタカを突き飛ばした。

「わあっ!!」

 護衛剣士の白い制服に包まれた巨体がそのふんわりしたベッドへ倒される。急いで起き上がろうとしたヒタカの上に、サキトは馬乗りになった。

 ひっ、と反射的に声を出しそうになる。

「うふふ。クロスレイ、何を怯えてるんだい?」

「……!!!」

 かあっと全身が熱くなる。ませているサキトが、自分に跨がるその様子はどう見てもアダルト的なあれにしか見えてこない。幸い、乗っている場所が下半身じゃなくて良かったと思う。

 小悪魔王子は妖しく微笑みながら、ヒタカに密着する。

「じゃあ、僕に何かあったらすぐに駆け付けてくるんだよ?」

 迫るピンク色の唇。

「はっ…はい!わ、私はっ、あなた様から課せられた事を理解してっ、その責務を全うしようとっ、誓いますからっ…!」

 ヒタカの反応が楽しいサキトは、彼を押し倒しながら「本当だね?」と囁く。年甲斐もなく泣きそうなその顔を指先で撫で、満足気に笑った。

「君、面白いねぇ」

「さっ…サキトさ…まっ、どうか」

「ん?なあに?」

 やばい。サキトの行動が誘惑だと感じ取ったのか、身体が酷く硬直するのが分かる。やはり自分はアルザスが言ったようにマゾなのか。とにかく、彼が下腹に乗らないように祈るしかない。

「そうだ、届いたのがあったんだ」

「へ…っ?」

 彼は着ていた上着のポケットから、小さな何かを取り出す。それは銀色の小さな指輪で、青い石が埋められた刻印付きの物。ヒタカを見下ろしながら、彼はその刻印にそっと口付ける。すると、刻印は青白く輝き、すぐに指輪の中へ入り込むように消えた。

 その様子を怯えながら見上げるヒタカ。

「さ、クロスレイ」

「えっ!?えっ!?なんっ、何ですか!?」

 馬乗りのままサキトはヒタカの右手を取り、その指輪を人差し指に嵌める。魔力が込められたその銀の指輪は、彼の指のサイズに合わせ自動的に大きさを変化させすっぽりと嵌まった。

「へ!?」

「さ、誓って。僕を守り、忠誠を誓うってね。この指輪は主人である僕がピンチになった時に、すぐに君が召喚される魔法のリングなんだ。このリングに魔力を込めて、術者の僕に忠誠を誓う事で契約は完了する。さあ、クロスレイ」

「へっ…はっ??ええっ!」

 さっき誓ったじゃないか、とヒタカは思う。動揺しすぎて混乱し、なかなか進まない従者に、サキトは「早く言って!」と馬乗りの身体を揺らした。

 でかい図体して煮え切らなすぎる。そこがまた苛めがいがあるが、少しイラっとした。

「はっ…はいいっ!ち、誓います!あなたに忠誠をっ、誓いますからっ…!!」

 早く済ませたいあまり早口で応える。すると、嵌められた指輪が熱くなった。冷や汗を流すヒタカは、その指輪に目をやる。熱は少しずつ、冷めていった。

 サキトは満足げに指輪の手を取り、静かに口付ける。

「契約、完了だね」

 ふふ…と妖艶に微笑んだ。

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