『漢過ぎる男』第二王子フランドル4
その表情がやたらと妖しく見え、戦慄が全身を駆け抜けていく。相手はまだ未成年の少年だというのに。ベッドに寝かされたままのヒタカは、主であるサキトが自分の手の甲にキスをしている事よりも、この先どんな事が待ち構えているのだろうという恐怖感で一杯だった。
端から見ては情けないだろう。こんな子供に、しかもどこから見ても無邪気に微笑みをするサキトに対して恐怖を覚えてしまうなんて。
「さ、サキト様」
「ん?どうしたの、クロスレイ」
「おっ…お願いします、離れて下さい…っ」
馬乗りのままのサキトは、ヒタカの手を放すと「君をからかうと本当に楽しいよぉ?」と言った。
自分より大人なのに、まるで同年代を相手にしている気がする。両手を伸ばし、彼の頬を包むと再び顔を近付けた。
食われそうだとヒタカは思う。
「たっ、戯れが過ぎますっ!!」
「戯れ?うふふ、だって面白いんだもん。クロスレイ、君こういうのに弱そうだね」
近付けば近付く程、サキトの吐息を感じる。興奮し過ぎて、鼻息が荒くなりそうなのを悟られてはならない。意を決し、ぎゅうっと目を閉じてヒタカは彼の身体を押さえ、一気に起き上がる。
逆に押し倒し、これ以上はいけません!と制止した。
「あっ」
「魅力的なあなたからあんな戯れをされてしまうとっ、私はっ、あらぬ誤解をしてしまいそうになります!お止め下さい!」
真っ白な布団で乱れる金色の髪。サキトは瞼を少し伏せ、「へえ」と唇を舐めた。
「あらぬ誤解、ね」
意味深な呟きと同時に、ドタドタと激しい足音がこちらに近付く。ヒタカはハッと我に返ると、部屋の扉がノックも無しに突然大きく開かれた。無作法に開けた扉の奥から、先程のフランドルが姿を見せる。
「サキト!!さっき頼んだペーパーナイフって蝶がついてりゃい…いぃいいいっ!!??」
目に飛び込んできた光景に、フランドルは言いかけていた言葉を伸ばす。ベッドに愛しい弟を押し倒す無礼な剣士の姿がそこに居たのだから無理もない。
「んなぁああああああっ!!?」
逞しい第二王子はズカズカと室内に入ってきた。
押し倒されたサキトは、「フランドル兄様」とけろっとしていたが、そんな事はどうでもいい。
ヒタカは慌ててサキトから離れ、ベッドから立ち上がる。
「くっ…クロスレイ!!お前、新人のくせに俺の可愛いサキトに何て事をしてくれてんだ!!さては狙ってやがったのかっ!?狙って護衛剣士になったのかっ!?」
「ちちちち、違いますっ!!」
「じゃあ何だ!力業でサキトを手込めにしようとしてたじゃないか!このショタ野郎っ!変態っ、狼藉者っ、不埒者め!!」
追加されていく暴言。咄嗟に出るとはいえ、上から言われるとグサグサと刺さる。
「お前もあれか、アストレーゼンの司聖と同じショタ趣味か!」
「誤解ですってば!」
それではアストレーゼンの司聖もショタ野郎の変態で狼藉者の不埒者になるではないか。お付きの剣士が聞けば顔を真っ赤にしてぶち切れそうだ。
ヒタカは首を振り、必死で違うと訴える。
サキトはむくっと起き上がり、「早とちりだね、兄様」と話を聞かないまま荒ぶるフランドルを宥めた。
「少し僕が先にからかっていただけだよ。クロスレイは生意気にも僕に戯れは止めてくれって押さえてきたの。こんな図体して、かなり純粋なんだから、全くからかい甲斐があるよ」
「はっ…!?サキト、お前言わされてるんじゃないだろうな!?嘘を言わされて」
「もう!違うってば。大体、普段こんなにもじもじしてるような相手に僕を脅せると思うの?クロスレイはそんなキャラじゃないよ。僕にからかわれて、真っ赤な顔をして俯いちゃうんだから」
やはりそう見えるのか。ヒタカはかあっと顔が熱くなった。穴があればずっと入りたい。誰にも目がつかぬ場所でひっそりと棲息したい。そんな気持ちに陥りそうになる。
サキトの言葉で、フランドルはヒタカに疑いの目を向けるが、その打ちひしがれてへたれた様子を見て脱力した。
「…そうか。そうだよなあ…図体はいいけど、不釣り合いな位弱気そうだもんな…」
「う…」
「そうだよ。兄様はすぐ早とちりするんだから」
早とちりをさせるように持っていったくせに、サキトは全く悪びれもせずに言った。
「だよな。ははは、確かにでかい事をしそうにないもんな、クロスレイは。いやあ悪かったよ!まさかお前みたいに控え目なタイプが、サキトを手込めにする訳がないしな!」
ようやく把握したのか、フランドルは落ち着きを取り戻しヒタカに詫びを告げてきた。だがヒタカは釈然としない。
何故だろう。全く謝られている感がしないのは。




