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『漢過ぎる男』第二王子フランドル5

「…で、どうしたの兄様。また慌ただしく戻ってきて」

「んっ!?ああ、そうだったな!ペーパーナイフ、蝶がついてりゃいいのか?」

 さっきも説明したじゃないと苦笑しながら、サキトは「そうだよ」と優雅な仕草で返した。体力自慢のフランドルは、頭に一度は物事をインプットするが、数歩進むと忘れてしまう癖があるようだ。

 昔から運動は好きだが、勉強は教師泣かせ。一から説明しても、ノートに書かせても覚えてくれない、と父王が嘆いていた。

 彼に知識を与えるだけ無意味なのだと、勉強を延々と教えた上で出た結論だった。簡単な計算ですら、指を折るくらいなのだから知識を与えても無駄だ。

 揚げ句に文字を書くのも下手。これでは諦めるのも無理はない。どこぞの宮廷剣士副士長といい勝負。

「よし!分かった!いい物を買ってきてやる!クロスレイを借りるぞ!!」

「ええっ!?」

 何故自分がかり出されるのか。ヒタカはついフランドルとサキトを交互に見る。慌てる専属剣士の様子を楽しむかの如く、サキトはふふっと微笑んだ。

 金色のふわりとした髪が遊ぶように揺れる。

「…いいよ、兄様。クロスレイ、この機会に僕の好みを勉強しておいて。出来るだけエレガントなのを頼むよ」

「へ…?」

「よしよし。じゃあ行くぞ、クロスレイ!」

 戸惑う暇もなく、フランドルによってヒタカは無理矢理室内から出されてしまった。待ってろよ、サキト!とフランドルは笑顔で愛する末っ子に告げながら。

 遠くなる足音を耳にする可憐な王子様は、心地いい風に気付きベランダへ飛び出す。見渡せる景色を飽きる程見てきたが、彼はそれは嫌いではなかった。

 なかなか外に遊びに行けない身分のせいか、こうして外部の様子を見るだけでも楽しめた。王城のほぼ最上階にあるこの部屋は、城下の様子を存分に見通せる。父親が自分の為に金色細工の双眼鏡はお気に入りだ。赤、青、緑の宝石を散りばめられたお洒落なデザインで、初めて目にした時は飛び上がって喜んだものだった。

「ふふ」

 そのお気に入りの双眼鏡を真下に向けた彼は、兄とヒタカの姿を目にしてつい吹き出す。

 兄様相手にやりにくそうだね、クロスレイ。

 彼の場合は誰が相手でもやりにくそうだが。辛うじて、落ち着いたイルマリネ位なら話し相手にはなりそうな気もする。

 半ば引っ張られるように向かうヒタカに少しだけ同情しつつ、サキトは再び双眼鏡を街の方に向けた。


 ズカズカと勇んで街の方向に進んでいくフランドルの背中を追うヒタカ。王族だとは思えない位、彼は普通の人間らしくざっくりした性格をして、無作法な雰囲気を醸し出していた。

 サキトも大概変わっていると思うが、彼も変わっている。

「あのっ、どちらへ?」

「ペーパーナイフを買いにいくんだよ!街に売ってるだろ?」

「は…はあ…」

 フランドルは赤茶けた短髪をガリガリと掻くと、「なあ」と不意に立ち止まった。

「はい?」

「サキトの言う、エレガントな感じって?」

「…………」

 今更そんな事を自分に質問されても…。

 何故さっき弟に聞かなかったのか。

「えっと…上品な感じ、というか。優雅な様というか」

 そうとしか説明できない。ヒタカの言葉に、フランドルは腕組をして「そうか」と頷く。

「俺みたいな感じか」

「え…っ??」

 エレガントというよりエキセントリックだと思う、と言いそうになるのを我慢した。何か言いたげなヒタカに、「分かった」と勝手に理解すると再び進み始める。

 何が「分かった」のか。外見からして、上品で優雅というよりは庶民の出入りする居酒屋で、仲間と共に飲んだくれている様子が似合う容貌なのだが。

「ペーパーナイフってあれだろ、封筒を切るやつだろ?」

「はい、フランドル様」

「どうせなら鋭い刃の方が良くないか?獲物も斬れるし」

「あの、お言葉を返すようですが、それでは武器になってしまいますよ」

 完全なナイフになるではないか。ヒタカは彼の話を聞きながら、本当に大丈夫なのかと不安になってきた。そもそも獲物とは何の事なのか。

 フランドルが考えているナイフと、サキトの言うナイフは別物なのだと教えなければならないのだろうか。

「象牙とかならなあ。喜んで取りに行くのになあ」

「は…はあ…」

「武器屋で売ってるか?」

 どうやら彼はペーパーナイフを誤解しまくっている気がする。

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