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34  意外な繋がり

来年の種芋にしたいので、量を食べることはできないが、まずは実際に食べさせてその美味しさを体感してもらわないと始まらない。ジャガイモがあった時の為に、すでにフライドポテトのレシピ(と言っても切って油で揚げて塩をふりかけるだけだが)等をイラスト付きで描いてきてあるのだ。


「そのジャガイモの幾つかを、この通りに調理してもらってください。皆で試食してみましょう」

そう言って、オリヴィアに持たせておいた羊皮紙を受け取り、そのうちの一枚をグランドーニに差し出した。


「ほぉ。これは」

グランドーニはおもしろそうに羊皮紙を見つめ、それから近くに控えていた助手の青年に命じた。

「アヒム。厨房のロルダンに言って、この通りに料理させなさい」


「はい。博士」

アヒムは、羊皮紙と、数個のジャガイモを受け取って、建物の入り口へと駆けて行く。


『よし。これでジャガイモはひとまずOK。次は……』

ソバもあるといいのだが。日本では秋ソバならこの季節でもまだあるはずだが、生憎ヨーロッパでの収穫時期までは知らない。


『うーん、見当たらないなぁ』

キョロキョロ見回していると、グランドーニが気がついたらしく「ああ」と口を開いた。

「そういえば、もう一つ。おっしゃっていた鶏糞の臭いのする白い花の後、三角の実をつける作物。サラザンでしたか。粥にして食べられるそうですな。ちょうど先週、実を取ったばかりですよ。ですが、残念なことに今年はあれは極わずかしか実がつかなかったのですよ」


『ほぉ、こっちではソバをサラザンというのか。覚えておこう』

「そうですね。サラザンは自家受粉しませんので、結実しない無駄花が多いのが難点です。ですから、サラザンの花の時期には、蜂に受粉してもらう為に、近くに養蜂箱を置くのが効果的なのですよ」

実際、ソバの受粉率は1割程度で非常に低い。


「なるほど。他家受粉だったのですか。それで納得がいきました」

「それと、食べ方も、実のまま粥にする以外に、これらのように、粉に挽いて、それに塩と水を加えて捏ねたものを、薄く焼いてハムやチーズを包んで食べるガレットという料理方法や、細長く切って麺にするそばや団子状にしたそばがきという物もあります」

そう言って、ガレットや手打ちそばの作り方を描いた羊皮紙を、グランドーニに差し出す。


「ほぉ。こちらも美味しそうですなぁ」

グランドーニは、羊皮紙に描かれたイラストを眺めて目を細めた後、羊皮紙を丸めながら、大きく頷いた。

「あいにく今回の収穫量ではとてもそんな余裕はありませんが、来年は蜂を使って収穫量を増やして、是非とも試してみたいものです」


「そうですね。それにジャガイモと同じで寒冷地や痩せた土地でも容易に育ちますし、ご存知だと思いますが種をまいて3ヶ月もあれば収穫できますから、年に数回の栽培も可能です。実のつきが少なくても、充分に試す価値のある作物ですよね」

「確かにおっしゃる通りですな」


「それにしても博士の菜園には、本当にたくさんの種類の植物がおありですのね。苗や種子はどうやって集められたのですか?」

『知り合いにプラントハンターでもいるのかな?』


私の素朴な疑問に、グランドーニは少し悪戯っぽい笑みを浮かべて答えた。

「貴女の伯父上のおかげですよ、姫様。貴女の亡くなられた母上コンスタンシア様の兄上のお一人、ブローサ帝国第6皇子、流離いのレニエーロ殿下とは、非常に懇意にさせていただいておりましてな。ご旅行先からいつもその地の苗や種子をお届けくださるのですよ。時には、未踏の奥地で発見した貴重な植物まで頂けることがあります。誠にありがたいことです」


『ほほぉ。【流離いのレニエーロ殿下】とは、なかなか恥ずかしいネーミングだな。って、それはおいといて、帝国の皇子様が探検家やってるのかよ。……まあ、第6皇子ともなると、帝位からも遠いし、下手に野心疑われるより、政治に関係のない世界で好きに生きている方が幸せだよな。うんうん』


とりあえず、わざとらしく感激してみせる。

「まあ、そうですの? では、この菜園の草花たちは、伯父様の勇気ある探検の成果と、博士のご努力の賜物ですのね。なんと素晴らしいことでしょう」

『うん。これぐらい煽てれば、怒って教育係を首にしたことも水に流してくれるよね?』


だが、グランドーニは、逆に幾分不満そうに表情を曇らせてしまった。

『えっ? 今の発言に何かミスがあったっけ?』

若干焦りながら、グランドーニに訊ねる。

「あの、どうかなさいましたか、博士?」


「ああ、いえ、これは失礼を」

グランドーニは、我に返って慌てて恐縮した様子で弁解してきた。

「いえ、実は殿下にはここにあるものたちより遥かに多くの苗や種子を送っていただいたのですが、運搬に時間がかかったせいか届いた時点ですでに枯れていた苗や、無事に届いても上手く育てられずに枯らしてしまったものや、芽さえでなかった種などもありましてね。殿下のせっかくのご好意を無碍にしてしまったと悔やむことも多く……」


『うーん。まあそれは仕方ないんじゃない? 熱帯地域の植物とかだったら、寒さにやられるだろうしね』

ともかく私の発言で機嫌を損ねたわけではないようなのでホッとする。それと、その問題、運搬に関してだけはどうにかなると思うんだけど。たぶん、ウォードの箱だったかのミニ温室で運べば。

「あの、たぶん、苗を枯らさずに運搬できる方法ならお教えできると思うのですが」


『ただし、ガラスが高価すぎないことが前提だけどね』


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