↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/45

32  宰相との休戦協定

「申し訳ございません。姫様の馬車は目立ちすぎますので」

オリヴィアの謝罪は、用意された馬車が例の白に金飾りの派手な馬車ではなく、普通の黒い馬車であることへの言い訳らしい。


「別にそれはかまわないのですが……」

そう。昨日誘拐されたばかりで、あんな目立つ馬車に乗って外出するほど馬鹿ではない。そんなことではなく、私が思わず困惑の表情を浮かべてしまった原因は、当然といった顔で一緒に乗り込み、目の前に座っている人物にあるのだ。


「あの、オーヴランド卿、何故貴方が?」

無理に気持ちを落ち着かせてどうにか訊ねると、宰相閣下は悪戯っぽい笑みを浮かべておっしゃった。

「それはもちろん、貴女の言われる我が国を救う作物の存在をこの目で確認するためですよ。食料問題は何よりも重要な解決すべき課題の一つですからね」


「はあ」

『いや、まだあるかないか調査する段階だし』

結果がわかってから確認に来ればいいのでは? いや、わざわざ宰相自ら出向かなくても、報告書で確認すればいいだけの話だ。確かに食料問題は重要だろうが、それ以外にも対処しなければならない問題は多々あるはずだ。こんなことで城を留守にしてもいいものだろうか?

『てか、王様一人ほっぽって置いて大丈夫なのか?』


「あの、陛下には?」

「侍従のビュルスがついておりますから大丈夫ですよ」

「……そうですか」


『うーん。この人を味方につけたいとは思ってはいるけど、こうやって面と向かうと、なかなか腹の内の分からない人だしなぁ……黒いのだけは確かだろうけど』

若干失礼なことを考えながら眺めていると、宰相は皮肉な口調で話しかけてきた。

「それにしても、お珍しいですな、貴女が陛下のことをお気にされるとは」


『うわっ、なんと答えよう?』

こういうタイプには駆け引きやっても勝ち目なさそうだしなぁ。ならば、思い切ってストレートに切り込むしかないか。

「あら? 娘が父親のことを気にかけるのは当然のことではありませんの?」


「おや? どうやら記憶障害があるというのは本当のようですね。普段のご自分の陛下への態度をお忘れとは」


『なんだ? 喧嘩売りたいのか、こいつ? 悪いが、勝てない喧嘩は買わないタイプだぞ、私』


反論を期待している瞳に、敢えて困ったような笑みを浮かべて素直に頷いてやる。

「ええ、そうですの。子供の頃の陛下との思い出もほとんど思い出せませんし、最近の陛下とのこともひどくぼんやりとして……。ただ、昨日お会いして、わかりましたの。皆が言うように、私が陛下にそっけない態度を取っていたとしたら、それは、陛下が私自身を見てくださっていないからではないかと。……陛下、いいえ、お父様は私の中に、亡くなったお母様を求めていらっしゃる気がします。でも、それはお父様にしても私にとってもとても不幸なことですわ。違いまして、オーヴランド卿?」


私の言葉に、不意を突かれたように一瞬宰相は驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつものわざとらしい穏やかな笑みを作って同意してきた。

「確かにそうですね。ですが、そのことに貴女ご自身がお気づきなら、それを考慮に入れた上でもっと穏やかな対応の仕方があったのではありませんか?」


『おいおい。17歳の小娘にどれだけ高等な交際術を期待してるんだよ?』

てか、私が入る前のシェリーヌ姫の態度に苦情を言われても、何をやったのかさえ知らないんだから、答えようがない。


私は首を傾げ、すまなさそうに眉を顰めて言った。

「申し訳ないのですが、本当に覚えておりませんの。それに、過ぎてしまったことは今更変えようがありませんわ。でも、今後は、貴方のおっしゃる通り、できるだけ穏やかに陛下と向き合っていきたいと思っております。ただ……」


そこで問題点をはっきりと匂わせてみる。

「エリシア様が……」


「ああ」

宰相は私の意とすることを察して頷き、それから

「シェリーヌ姫。貴女が今後陛下への態度を改めるとお約束してくださり、そして、私を信頼してくださるとおっしゃるのなら、私の方でも貴女にご助力申し上げることを厭いはしませんよ」

なんと協力を申し出てきた。


『まじ?』

まさに渡りに船。当然一も二もなく承諾する。思い切りのいいのが私の身上だ。

「もちろんお約束します。ですから、力を貸してくださいね、オーヴランド卿」


「エクトルとお呼びください、シェリーヌ姫」

そう言って宰相は、私の手を取り、甲に口づけた。


『うわぁぁ~。キザ~!』

一瞬全身が総毛立ち、咄嗟に手を引きたくなったが、かろうじて踏みとどまる。たぶん、こんな羞恥プレイにも慣れていかないといけないんだろう。

『昨日はお姫様抱っこで、今日は手の甲にキスかぁ。この先何が来るのか、考えるのが怖いわ』


それにしても、トントン拍子に上手く……いきすぎるな。

『うん。お互いにまだ全然信じてないよな。……とりあえずは休戦協定ってところか』


「では、頼みますね、エクトル様」

「はい。おまかせを」

あまりに地の自分と違う言葉遣いと歯の浮く台詞の数々に、ガチガチと大きく歯を噛み合わせたくなるが、もちろん今は我慢だ。


『ああ、誰もいない場所で、大声で叫びたい。「アメンボ赤いな、あいうえお」……いや、違うだろ』

私ってやつは……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。