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死なない皆と死んじゃう自分【異世界ファンタジー】  作者: 暇人
親水王国《エグゼルト》

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第七話 仕事探し

 役所を出た三人は、王都の通りを歩いていた。


「……さて」


 司は腕を組む。


「身分証はできた」


「はい」


「じゃあ、次は仕事だな」


「そうですね」


 リュシアが頷く。


「司さんも、これで働けるようになりますね」


「……本当に?」


「はい」


「じゃあ、何の仕事ができるんだ?」


「それは……」


 リュシアが少し考える。


「前にも言いましたが、身分証だけでは、できる仕事はあまり多くないと思います」


「……そうだよねぇ?」


「はい」


 司は肩を落とす。


「まあ、そりゃそうか……」


 身分証ができた。


 だからといって、いきなり何でもできるわけではない。


 資格が必要な仕事もある。


 専門的な知識が必要な仕事もある。


 そして何より――。


「俺、この国のこと何も知らないもんな」


「そうですね……」


 セイアが静かに頷く。


「知識が必要な仕事ほど、この国の常識を知らないと難しいと思います」


「だよなぁ……」


 司は頭を掻いた。


「じゃあ、資格を取るとか?」


 司が言う。


「資格、ですか?」


「うん」


「資格……とは?」


 リュシアが首を傾げる。


「どういうものですか?」


「え?」


 司は少し考える。


「……仕事をするために、必要な知識や技術を持ってるって証明するもの?」


「なるほど」


 セイアが興味深そうに頷く。


「そういう制度なら、この国にもありますよ」


「あるんだ」


「はい。技術等正式証明発行委員会がやっています」


「名前なげぇな!」


 司は少し驚きながらも、続ける。


「まあ、でもそれなら……」


 司は少し考えた。


「勉強して資格を取るっていうのもありか」


「そうですね」


 セイアが頷く。


「すぐに仕事を探すより、まず何かを身につけるのも一つの方法だと思います」


「……でも」


 司は少し考える。


「俺、勉強そんなに得意じゃないんだよな」


「そうなんですか?」


「学校の勉強とか、そんなに真面目にやってなかったし」


 司は苦笑する。


「でも──」


 そこで司は少し考え込んだ。


「……俺、得意なことって何かあったっけ」


 三人は歩きながら話を続ける。


「料理は?」


 リュシアが言った。


「料理?」


「はい」


「……あ」


 司は思い出したように顔を上げる。


「そういえば、俺、料理は結構できるな。俺の住んでた地域でも結構うまいって言われてたな」


「そうなんですか?」


 セイアが尋ねる。


「うん」


「司さんは料理がお得意なのですね」


「まあ、日ほ……武装大国《シャルマ》にいた頃から自分で作ることも多かったからな」


 司は一瞬だけ言葉を止める。


「……だから」


 少しだけ誤魔化すように笑った。


「これからリュシアの家の料理、俺がやろうかな」


「え?」


 リュシアが目を丸くする。


「いいんですか?」


「うん」


「でも、司さんも大変では……」


「いや、料理くらいなら全然」


 司は笑う。


「むしろ食わせてもらってばっかりってのも悪いし」


「……ありがとうございます」


 リュシアが嬉しそうに微笑む。


「では、お言葉に甘えてしまいましょうか」


「任せて」


 司は胸を張る。


「料理なら結構自信あるから」


 セイアも小さく頷く。


「楽しみですね」


「おう」


 しかし――。


「……料理ができても、仕事にはできないか」


 司は再び考え込む。


「店で働くなら、この国の料理を覚えないといけないだろうし」


「そうですね」


「材料の名前も知らないし」


「そこは覚えればいいと思います」


「まあ、それはそうなんだけど……」


 司は周囲を見回す。


 店。


 人。


 魔道具。


 水路。


 見慣れない街並み。


「やっぱり、まずはこの国のことを覚えないとな」


「はい」


 セイアが頷く。


「焦らなくてもいいと思いますよ」


 そのとき。


 司の視線が、ある店の前で止まった。


「……ん?」


「どうしました?」


「いや」


 店先に置かれている商品を、司はじっと見る。


「……あれ、数が合ってない」


「?」


 リュシアが首を傾げる。


「何がですか?」


「いや、あそこ」


 司が商品を指差す。


「同じ商品が十個並んでるように見えるけど、値札の数と合ってない」


「…………」


 セイアも店を見る。


「……本当ですね」


「だろ?」


 司は少し考える。


「あと、あの箱」


「箱?」


「右側のやつ」


 司は目を細める。


「たぶん在庫の数を数え間違えてる」


「……よく分かりますね」


 セイアが少し驚いたように言う。


「え?」


「私は言われるまで気づきませんでした」


「いや、なんとなく」


 司は苦笑する。


「昔からこういうの、気になるんだよ」


「こういうの?」


「数とか、物の配置とか」


 司は少し考える。


「……観察するの、結構得意なのかもしれない」


 司は自分の手を見る。


「あと、手先も器用だったな」


「手先?」


「細かい作業とか」


 司は少しずつ思い出していく。


「料理もそうだし、細かい作業は割と得意だった」


「それなら、仕事にも活かせるかもしれませんね」


 リュシアが言う。


「そうだな……」


 司は考える。


「料理」


「はい」


「観察力」


「はい」


「手先が器用」


「はい」


「……あと」


 司はもう一つ思い出す。


「簿記……?」


「ぼき?」


 リュシアが首を傾げる。


「何ですか、それ?」


「……あー」


 司は少し困った顔をする。


「簿記……?」


「はい」


「……俺、武装大国《シャルマ》にいた頃にやったことあるんだけど」


「そうなんですか?」


「うん」


 司は自信なさそうに続ける。


「たぶん……お金の出入りを記録したり、計算したりするやつ」


「なるほど」


 セイアが頷く。


「それなら事務仕事などに使えそうですね」


「そうなのかな?」


「はい」


「……でも、この世界の簿記が俺の知ってる簿記と同じとは限らないよな」


「確かにそうですね」


「まずそこから確認しないとダメか」


 司は頭を掻く。


「……なんか、意外と使えそうなもの持ってるじゃん。俺」


「そうですね」


 リュシアが微笑む。


「司さんにも、ちゃんと得意なことがありますよ」


「……なんか安心した」


 しかし、すぐに仕事が見つかるわけではなかった。


 資格。


 経験。


 この世界の知識。


 そして――。


「……やっぱり、すぐ仕事ってわけにはいかないか」


「はい」


 リュシアが頷く。


「まずは、どんな仕事があるのか調べてみるのがいいと思います」


「そうだな」


 司は頷く。


「それで、必要なら資格を取る」


「はい」


「料理は家でやる」


「ありがとうございます」


「観察力とか手先の器用さも、何かに使えるかもしれない」


「そうですね」


 三人で歩きながら、司は少しずつこれからのことを考え始めていた。


 昨日までとは違う。


 ただ「生きていかなければ」と考えていたのが――。


 少しずつ、


 「どうやって生きていくか」


 を考えられるようになってきた。


 そして、しばらく歩いたところで。


「……あ」


 司が足を止めた。


「どうしました?」


 リュシアが振り返る。


 司は、通りの向こうにある魔道具店を見る。


 昨日も見た。


 魔法。


 魔道具。


 この世界では当たり前のもの。


「……そういえば」


 司は呟く。


「魔法ってさ」


「はい?」


「俺も使えるのかな?」


 リュシアとセイアが顔を見合わせる。


「…………」


「…………」


 そして――。


「それは、試してみないと分かりませんね」


 セイアが静かに答えた。


 司は少しだけ目を輝かせる。


「……試してみようぜ」


 こうして――。


 司の魔法習得が始まることになった。


To be continued

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