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死なない皆と死んじゃう自分【異世界ファンタジー】  作者: 暇人
親水王国《エグゼルト》

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第五話 異世界の初夜

閑話の続きです。初夜ってそういう意味じゃないですよ。あと描き方統一しました(国の)

 司は、しばらくその場から動けなかった。


「……復活? ……え、復活……したよね?」


 司は思う。何故復活するのか。


「はい。それがどうしました?」


 リュシアは何でもないことを何故聞いているんだ?と思うように首を傾げる。


「死んだら復活しますよね? セイアさん」


 セイアも静かに頷いた。


「はい」


「いや……え、だって……死んだら…終わりだろ?」


 言葉が零れ出る。

 司は頭を抱えた。


 何で死んで終わりじゃないんだ。そう異世界の常識に対して思った。


「ちょっと待ってくれ。さっきまで普通に死んでたよな?」


 さっきまで普通に死んでた。


 自分の言っている意味が分からなかった。だが、聞くしかない。


「はい」


「胸に氷が刺さって、あんなに凄惨に……」


「はい」


「血もめちゃくちゃ出て……」


「はい」


「それで……なんで普通に生きてるんだよ……。だって……死んだ……よな?」


「復活したからです」


「その説明で納得できると思う!?」


 司の声が静かな通りに響く。


 周囲にいた人々は、そんな司を不思議そうに眺めているだけだった。


 まるで、そんなことで何故驚いているんだ、とでも言いたげな視線だった。


「……本当に、みんなこうなのか? ……本当にか?」


「はい。大体は」


「みんな死んだら復活するの? ……ってか、大体って何?」


「基本的にはそうですよ」


「基本的には……?」


「もちろん、例外もありますが。例えば、身体が跡形もなく消し飛んだりした場合は、復活できませんね」


「例外あるの!? ってか、身体が消し飛ぶってどんな状況!?」


「ありますよ?体が消し飛ぶことも…例外も」


 司は再び頭を抱えた。


「……もう何が何だか分からん」


 そんな司を見て、リュシアは困ったように笑う。


「司さん」


「……何?」


「大丈夫ですか? 司さん」


「大丈夫に見える? リュシア」


「……少しだけ」


「正直だな……」


 セイアが小さく笑った。


「ふふ……」


「セイアまで笑うなよ……」


「すみません」


 セイアは口元を隠す。


「でも……司さんがそこまで驚くとは思わなくて」


「そりゃ驚くだろ……」


 司はリュシアを見る。


「……本当に、もう痛くないの?」


「はい。何ともありません」


「傷も?」


「ありません。見たら分かると思いますよ?」


「……すごいな……。というか、正論パンチやめてくれ」


「……正論パンチ?」


 リュシアが首を傾げる。


「いや、なんでもない」


 司はリュシアの胸元を見る。


 先ほどまで確かにそこを貫いていたはずの傷は、跡形もなく消えている。


「……信じられない」


「そのうち慣れますよ」


「慣れたくないんだけど……本当に。死生観が変わる」


「そうですか?」


 リュシアは少し首を傾げた。


「というか、死生観……?」


「そうだよ」


 司は深く息を吐いた。


「……とりあえず、帰ろうか」


「はい」


 リュシアが歩き出す。


 セイアもその後に続く。


 司は二人の後ろを歩きながら、何度もリュシアの背中を見つめていた。


「……本当に生きてるんだよな」


「はい」


「……さっき死んだのに……なぁ」


「はい」


「…………」


「司さん?」


「いや……何でもない」


 司は諦めたように空を見上げた。


「……この国ってすげぇな」


「というか、思ったんですけど司さんって武装大国《シャルマ》から来たんですよね? なんでそんなに驚くんですか?」


「え?」


 突然の問いに、司は一瞬固まった。


「あー……いや~、なんていうか、そのー……」


 司は必死に頭を回す。


「あんまりあっちって亜人がいないからさ。死を見ることがなかったんだよ」


「なるほど」


 司はうまく誤魔化せたと思った。


 実際、セイアとリュシアはちょろいので騙された。


 そう呟きながら、三人は王都の通りを歩いていった。


 しばらく歩くと、先ほどまでの賑やかな通りとは違う、少し落ち着いた場所へとやって来た。


「もうすぐです」


 リュシアが前を指差す。


「私の家はこの先です」


「へぇ……」


 司は周囲を見回す。


「この辺は静かだな」


「はい。住宅街ですから」


「なるほど」


 やがて、リュシアが一軒の家の前で立ち止まった。


「ここです」


「ここが……」


 司は家を見上げる。


「……思ってたより普通だな」


「普通とは失礼ですね」


「いや、悪い意味じゃないって」


 リュシアが少し頬を膨らませる。


「私は普通に暮らしていますから」


「そういう意味だよ」


「……なら、いいです」


 リュシアが鍵を取り出す。


 扉を開けると、落ち着いた雰囲気の部屋が広がっていた。


「どうぞ」


「お邪魔します」


 司が中へ入る。


 木製の家具に、いくつかの生活用品。


 見たことのない道具も置かれているが、思っていたほど変わったものはない。


 ……異世界の家って、意外と日本の家と似てるんだな。


 司は少しだけ安心した。


「……なんか、落ち着くな。あっちだと家はコンクリートだから」


「そうですか?」


「ああ。もっとこう……魔法陣が浮いてたり、変なものが置いてあったりするのかと思ってた」


「魔法陣……?」


「いや、なんでもない。武装大国《シャルマ》だと魔法とかないから」


 司は誤魔化すように視線を逸らした。


「そうなんですね」


「とりあえず座っていてください。今、何か用意しますね」


 そう言って、リュシアは台所へ向かう。


「え? いいの?」


「はい。お腹も空いているでしょう?」


「……そういえば、めちゃくちゃ腹減ってる。のども乾いたなぁ」


 リュシアが水を差し出す。


「飲んでください」


「あ、ありがとう」


 司は受け取った水を一気に飲む。


 言われてみれば、今日は色々ありすぎて食事のことなど考えていなかった。


「私も手伝います」


 そう言って、セイアもリュシアの後を追って台所へ向かった。


「ありがとうございます、セイアさん」


「いえ」


 二人が料理を始める。


 司は椅子に座りながら、その様子を眺めていた。


 ……なんか普通だな。


 魔法があって、エルフがいて、死んでも復活する。


 そんなとんでもない世界なのに、こうして見ると普通の家庭のようだった。


「……なぁ、リュシア」


「はい?」


「この世か……じゃなくて、この国ってさ」


「はい」


「料理とかも、普通にこういう感じなの?」


「料理……ですか?」


「ああ。もっと魔法で全部やるのかと思ってた」


「魔法で料理する人もいますけど、普通は道具を使いますよ」


「へぇ……」


 なるほど。


 魔法があるからって、何でも魔法で済ませるわけじゃないのか。


 司は少しだけ、この国の生活が分かったような気がした。


 やがて料理が並べられる。


 その料理を見て、司は目を見開いた。


「お待たせしました」


「おお……! 美味しそう」


 司の目の前に料理が並ぶ。


 それは――オムライスだった。


「いただきます」


「……いただきます?」


 リュシアが首を傾げる。


「何ですか、それ?」


「え?」


 司は箸を持とうとして――そこで止まった。


「あー……武装大国《シャルマ》での習慣みたいなもの。食品に対して感謝する~みたいな」


「武装大国《シャルマ》の習慣ですか?」


「……そうそう」


 司は頷いた。


「食事を始める前に言うんだよ。それに食事を終えたら『ごちそうさま』っていう。作った側に感謝するんだ」


「なるほど……」


 リュシアも真似する。


「いただきます」


「いただきます」


 セイアも続いた。


 三人で食事を始める。


「……うまい」


「本当ですか?」


「ああ。普通にうまい」


 司は料理を口に運びながら、少し笑った。


「こういうの食べると、なんか安心するな。異世か……慣れない土地での暮らしでも」


「そうですか?」


「うん」


 少しして、司はふと思い出した。


「……そういえばさ」


「はい?」


「俺、この先どうすればいいんだ?」


 リュシアの手が止まる。


「……そうですね」


「金もないし、寝る場所もないし」


「そうですね」


「身分証とかもない」


「……そうですね……身分証は役所で発行できますが」


「……詰んでない? あ、でも身分証さえあれば職には就ける……か」


「身分証があっても、できる仕事は少ないですよ? 未経験でできる仕事は少ないですので」


「少しだけなの!?」


 司が思わず声を上げる。


 セイアが小さく笑った。


「ですが、何とかなると思いますよ」


「本当に?」


「はい」


 リュシアが頷く。


「明日、必要なものを一つずつ揃えましょう」


「……助かる」


 司はホッとしたように息を吐く。


「リュシアがいてくれてよかったよ」


「……はい」


 リュシアは嬉しそうに微笑んだ。


 その隣で、セイアも静かに二人を見ていた。


「そういえば」


 リュシアがふと思い出したように口を開く。


「司さんは武装大国《シャルマ》から来たんですよね?」


「……うん」


「武装大国《シャルマ》では、魔法が存在しないんですか?」


「ああ。少なくとも俺が暮らしてたところでは、見たことないな。武装大国だし。魔法よりも武力って感じだよ」


「そうなんですね」


 リュシアは納得したように頷く。


「だから司さんは魔法を見て、あんなに驚いていたんですね」


「まあ、そういうこと」


 ……危なかった。


 司は内心で胸を撫で下ろす。


 武装大国《シャルマ》には魔法がないってことにしておいてよかった……。


「それに、武装大国《シャルマ》は武人が多いですから」


 リュシアが続ける。


「一般の方が戦いを見る機会も、あまりないのでしょうね」


「そうそう! それ!」


 司は思わず食いついた。


「俺みたいな一般市民が戦いなんて見ることないからさ。だから……その、死ぬところなんて見たことなかったんだよ」


「なるほど」


 リュシアはあっさり納得した。


 セイアも特に疑っている様子はない。


 ……よし。通った。危なかった。


 司は心の中で小さくガッツポーズをした。


 もちろん、その「一般市民」という肩書きすら嘘なのだが。


 そんなことを知らない二人は、何事もなかったかのように食事を続けている。


「……なぁ」


「はい?」


「やっぱり、この国って変わってるな。魔法もあるし。それにいたるところに水路がある」


「そうでしょうか? あと、そりゃあ親水王国ですし」


「だって死んでも生き返るんだぞ?」


「普通ですよ? 武装大国《シャルマ》でも生き返ります。ですが、さっき司さんが言った通り、一般市民は死をあまり見ません」


「それが怖いんだよ……。っていうか、ちゃんと武装大国《シャルマ》でも生き返るのな」


 司はそう言って、深く息を吐いた。


 夕食を終える頃には、外はすっかり暗くなっていた。


「……もう夜か」


「はい」


 リュシアが食器を片付ける。


 司は窓の外を見る。


 寒い季節だからか、窓が結露している。


 見慣れない夜空。

 知らない星座。


 知らない国。

 知らない価値観。


 知らない世界。

 知らない種族。


 そして──自分の知らない常識。


 ……本当に、俺はここで生きていくんだな。


 司はそんなことを考えながら、ゆっくりと立ち上がった。


「さて……」


「どうしました?」


「いや……寝る場所って、どうするんだ?」


 リュシアが一瞬、固まった。


 そして──。


「……あ」


 部屋の隅にあるベッドへ視線を向けた。


 そこには、当然のように一つしかベッドがなかった。


「…………」


「…………」


「…………」


 三人の間に、妙な沈黙が流れた。


 しばらく、誰も口を開かなかった。


「……俺、床で寝るよ。だって……俺、男だし」


 最初に沈黙を破ったのは司だった。


「え? なんで男だからって……」


「いや、ベッド一つしかないんだろ? だったら俺は床でいいよ」


「ですが……」


「大丈夫だって。床で寝るくらいなら慣れてるし。イベント帰りとか床に倒れこむもんなぁ」


「……本当に? イベント……?」


「な、何でもない」


 ……あっぶねぇ。


 司は内心で冷や汗をかいた。


「……そうですか」


 司は頷く。


「リュシアの家なんだし、リュシアがベッド使ってよ。当たり前だろ?」


「でも、司さんは今日初めてこの国に来たんですよね?」


「そうだけど?」


「それなら、なおさら床で寝る必要はないと思います」


「いやいや、俺が急に来たんだからさ」


「ですが……」


 リュシアが困ったようにセイアを見る。


 セイアは少し考えると、口を開いた。


「……三人で寝るのはどうでしょう?」


「…………」


「…………」


 司とリュシアが同時にセイアを見る。


「……三人?」


「はい」


「このベッドで?」


「はい」


 セイアは何でもないことのように頷いた。


「三人なら、少し狭いかもしれませんが寝られると思います」


「いや……」


 司は困ったように頭を掻く。


「俺、男なんだけど」


「知っています」


「……そうですか」


「それが何か問題でしょうか?」


「いや、問題っていうか……」


 司は言葉に詰まる。


 日本で暮らしていた頃なら、女の子と同じベッドで寝るなんて考えられない。


 ましてや、今日知り合ったばかりなのだ。


「……俺は床でいいって」


「司さん」


「ん?」


「風邪を引いてしまいますよ?」


「いや、このくらいで風邪なんて……」


「この季節は冷えますから」


「…………」


 司は窓を見る。


 外はすっかり暗くなっている。


 窓には結露ができており、冷たい空気が伝わってくるようだった。


「……分かった」


 司は諦めたように息を吐いた。


「じゃあ、お言葉に甘えます」


「はい」


 リュシアが頷く。


「セイアさんも、それでいいですか?」


「はい。問題ありません」


「……二人とも抵抗ないんだな」


「何か問題がありますか?」


「……いや、もういい」


 司はベッドを見る。


 どう考えても三人で寝るには少し狭い。


「……これ、寝返り打ったら誰か落ちそうだな」


「大丈夫ですよ」


「本当に?」


「はい」


 リュシアがベッドに腰掛ける。


「では、司さんはこちらに」


「……俺、端でいいよ」


「そうですか?」


「ああ」


 司がベッドの端に横になる。


 その隣にリュシア。


 さらに反対側にセイアが横になった。


「…………」


「…………」


「…………」


 やはり、少し狭い。


「……近いな」


 司が小さく呟く。


「そうですね」


 リュシアも答える。


「……寝られるかな、これ」


「慣れれば大丈夫ですよ」


「そういう問題なのか……?」


 司は天井を見る。


 見慣れない天井。


 見慣れない部屋。


 そして、その隣にはリュシアとセイアがいる。


 ほんの少し前まで、日本で普通に暮らしていたはずだった。


 それが今では、見たこともない国で、エルフの少女たちと同じベッドで眠ろうとしている。


「……変な感じだな」


「何がですか?」


「いや……」


 司は少しだけ笑った。


「今日だけで、本当に色々あったなって」


「そうですね」


 リュシアが静かに答える。


「魔道具を見たり、魔法を見たり……」


「それから、人が死ぬところも見ましたね」


「…………」


 司の表情が少しだけ曇る。


「……そうだな」


「でも」


 リュシアが続ける。


「私はこうして元気ですよ」


「……うん」


「だから、そんなに気にしなくても大丈夫です」


「……分かってる」


 司は目を閉じる。


「分かってるけど……」


 あの光景が頭から離れない。


 胸を貫いた氷。


 飛び散った血。


 腕の中で力を失った身体。


 そして──何事もなかったかのように目を開けたリュシア。


「……まだ慣れそうにないな」


「そのうち慣れますよ」


「……本当に?」


「はい」


 リュシアは小さく笑った。


「この国で暮らしていれば、きっと」


「……そっか」


 司は静かに息を吐いた。


「じゃあ……明日から、頑張らないとな」


「はい」


「司さん」


 セイアが口を開く。


「何?」


「おやすみなさい」


「……ああ」


 司は少しだけ笑った。


「おやすみ、リュシア」


「おやすみなさい、セイア」


「はい。おやすみなさい、司さん」


 静かな部屋に、三人の声が響く。


 司は目を閉じた。


 今日一日だけで、あまりにも多くのことが起きた。


 知らない国。


 知らない世界。


 知らない種族。


 そして──自分の知らない常識。


 それでも。


 今は、少しだけ安心できた。


 隣に誰かがいる。


 それだけで、不思議と心が落ち着いた。


 やがて司は、ゆっくりと眠りへ落ちていった。


To be continued

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