閑話 異世界の常識
司可哀そう回です。残虐描写が含まれます。
王都の大通りを歩き、しばらくすると人通りも少なくなってきた。
「もうすぐです。私の家はこの先なので」
「へぇ、結構歩くんだな」
「そうですね。王都は広いですから」
司は辺りを見回す。
先ほどまでの賑やかな大通りとは違い、少し静かな道になっている。それに、足元の石煉瓦の舗装も少し古くなっている。
「……ん?」
その時だった。
「おい」
前方から、男の声が聞こえた。
道の真ん中に、数人の男が立っている。
「……なんだ?」
司が足を止める。
「そこの白髪のエルフ」
男の視線がリュシアへ向く。
「……私ですか?」
「ああ。ちょっと付き合えよ」
「……嫌です」
リュシアが一歩下がる。
「なんだよ。いいだろ? 減るもんじゃねぇし」
「嫌だと言っています」
男が近づいてくる。
司はリュシアと男の間に入った。
「……嫌がってるだろ」
「あ?」
「聞こえなかったのか?」
司は男を睨む。
「嫌だって言ってるんだから、やめろよ」
「……人間のくせに、偉そうに」
「は?」
男が手を上げる。
「司さん!」
リュシアの声が響いた。
次の瞬間――
「――氷よ」
男の手から、冷気が噴き出した。
「……っ!」
司が目を見開く。
空気中の水分が一瞬で凍りつき、鋭い氷の刃が形成される。
「なっ……!」
司が身を引こうとした、その瞬間。
「司さん!」
リュシアが司の前に飛び出した。
司の身代わりに、リュシアが司を押し飛ばし、前に出る。
その瞬間だった。
氷の刃が、リュシアの胸を貫いた。
「…………」
刺された箇所とリュシアの口から血が噴き出す。
石煉瓦が瞬く間にリュシアの血で染まる。
飛び散った血が、司にもかかった。
「…………え?」
司の声が漏れる。
リュシアの身体から力が抜ける。
「リュシア……? ……なぁ。リュシア?」
そのまま、リュシアが地面に倒れた。
「……リュシア? ……起きてくれよ」
司は動けなかった。
「おい……」
返事がない。
「リュシア……?」
司が駆け寄り、身体を抱き起こす。
「おい、しっかりしろよ……! ……なぁ。冗談だろ? なぁ」
手が震える。
胸から流れる血が、司の手を赤く染めていく。
「……嫌だ……嫌だよ……リュシア」
司の声が震えた。
「こんなの……」
「司さん……」
セイアが後ろから声をかける。
「……離れてください」
「なんでだよ!」
「…………」
「早く助けないと……!」
司はリュシアを抱きしめる。
「誰か……医者……!」
だが、周囲の人々は騒ぐこともなく、ただその光景を見ている。
「……なんで……人……エルフが死んでるだろ」
司には、それが理解できなかった。
人が死んだ。
目の前で。
なのに、どうして誰も慌てない?
「……リュシア」
司は何度も名前を呼ぶ。
「起きろよ……」
返事はない。
「なぁ……」
その声は、もう泣きそうだった。
しばらくして――。
「…………ん」
「……え?」
腕の中で、リュシアの指が動いた。
「……リュシア?」
ゆっくりと、リュシアが目を開ける。
「……司さん? ……どうしたんですか? そんな、死んだ人が復活するのが当たり前じゃないみたいな視線」
「…………」
司は言葉を失った。
「どうしたんですか?」
「…………いや」
司はリュシアの胸を見る。
そこには、さっきまで確かに開いていた傷がない。
「……お前……」
「はい?」
「さっき……死んだよな?」
「……はい」
「…………」
「死にましたね」
「…………」
リュシアは不思議そうに首を傾げる。
「司さん、どうしたんですか? ……え、死んだだけですよ……ね?」
「いや……だって……ってか、死んだだけ……って言えないでしょ」
司の顔が引きつる。
「普通……死んだら……」
「?」
「……死んだら……」
リュシアがきょとんとする。
「復活しますよ?」
「…………」
司は固まった。
「……は?」
「え?」
「……復活?」
「はい」
リュシアは当然のように頷いた。
「死んだら、復活するものですよ?」
「…………」
司はしばらく何も言えなかった。
そして――。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
To be continued
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