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死なない皆と死んじゃう自分【異世界ファンタジー】  作者: 暇人
親水王国《エグゼルト》

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第三話 王都の一角で。

結構重い内容

「どうして……亜人だから……」


「…………だって…」


 リュシアはしばらく黙っていた。


「……その…この国では、亜人だからという理由だけで嫌われることがあります」


「……なんで?」


「分かりません」


 リュシアは少し俯く。


「昔から…いいえ、歴史が関係してる。……そう聞いたことがあります」


「歴史って……」


 司は助けたエルフへ目を向ける。


「じゃあ、この子も……?」


「…………はい」


「亜人だからって理由だけで?」


「……はい」


 その答えを聞いた瞬間、司の胸の奥がざわついた。


「……そんなの、理由になってないだろ」


「…………」


「亜人だからって……人を傷つけていい理由にはならないだろ」


「……はい…分かっています。でも人間は…皆さんは…」


 リュシアは小さく頷いた。


「……皆さんがそう思っているわけではありません」


「……そうなの?」


「はい。亜人を嫌っていない人もいます。私たちに普通に話しかけてくれる人も……」


 リュシアはそう言いながら、少しだけ笑った。


「でも、怖がる人の方が多いです」


「怖がる……?こんなにもかわいいのに?」


「はい…というか可愛いというのはやめてください。照れます。」


 司は首を傾げる。


「亜人が?」


「……正確には、亜人そのものというより……昔の出来事が原因なんです」


「昔の出来事?」


「はい」


 リュシアは少し考えるように目を伏せた。


「昔、この世界を滅ぼしかけた人がいたそうです」


「世界を……?」


「はい」


 司は思わず聞き返す。


 世界を滅ぼしかけた。


 そんな言葉が、まるで昔話でもするかのようにリュシアの口から出てきた。


「その人も……亜人だったんですか?」


「……そう聞いています………いや、伝わっています…」


「じゃあ、それで……」


「はい。『亜人は危険だ』、と考える人が増えたんだと思います」


「……一人が悪かったからって、全部の亜人を?」


「……そう、です…ね」


 リュシアの声が少し小さくなる。


「私にも……それが正しいとは…思えません」


 司は黙り込んだ。


 もし日本で、誰か一人が悪いことをしたとして。


 その人と同じ種族だからという理由だけで、自分まで嫌われたり、殴られたりしたら。


 そんなの、納得できるはずがない。


「……その人って、誰なの?」


「それは……」


 リュシアは困ったように首を傾げる。


「詳しいことは、私も知りません。昔のことですから」


「そっか……」


 司はもう一度、地面に横たわるエルフを見る。


「でも……」


 司の拳が、ぎゅっと握られた。


「この子は、その人じゃないんだろ?」


「……はい」


「だったら……なんでこんな目に遭うんだよ」


 誰に聞いているのか、自分でも分からなかった。


 リュシアは何も答えなかった。


 答えられないのだろう。


 司にも、この世界のことはまだ何も分からない。


 それでも――これだけは分かる。


「……俺には、理解できないよ…」


 司は静かに呟いた。


「…………」


 しばらく、誰も何も言わなかった。


 路地裏には、遠くから聞こえる街の喧騒だけが響いている。


「……それよりも」


 司は少し明るい声で横たわるエルフへ目を向ける。


「この子、大丈夫なのか?」


「……分かり…ません」


「分からないって……」


「私も、医術には詳しくないので……」


 司はエルフの顔を覗き込む。


「息はしてる?」


 そう司が聞いたら、リュシアは確認する。


「……はい。しています。あと脈も。」


「よかった……」


 司はほっと息を吐いた。


「でも、血が……」


 改めて見ると、髪や顔だけではない。


 服も泥だらけで、ところどころ破れている。


「……一体、何をされたんだよ」


「…………」


 リュシアは答えなかった。


 その沈黙が、かえって答えのように思えた。


「……とりあえず、綺麗にしよう」


「え?」


「このままじゃ傷が分からないだろ」


 司は自分のハンカチを取り出した。


「水……あるよな?」


「はい。すぐそこに水路があります」


「……さっき飛び込んだところか」


「…………はい」


「それはちょっと嫌だな……」


「ふふ……」


「何?」


「いえ。司さんでも嫌なものはあるんだなって」


「そりゃあるよ! さっき自分が沈んでたところで洗われたくないだろ?」


「そうですね……」


 リュシアは少しだけ笑った。


 その笑顔を見て、司も少しだけ肩の力が抜ける。


「……でも、水がないと困るよなぁ…」


「そうですね。ですが、この辺りなら水路の水を使えます」


「飲み水じゃないの?」


「はい。飲み水とは別です」


「それで体拭いていいの!?」


「はい。飲めはしますが、用水路なので飲まないだけです。」


 司はエルフの身体をそっと横たえる。


「リュシア、悪いけど水を持ってきてもらえる?」


「分かりました」


「あと、何か傷を拭けそうなものも」


「はい」


 リュシアが立ち上がる。


「……司さん」


「ん?」


「どうして、そこまでしてくれるんですか?」


「……え?」


 司は一瞬、答えに詰まった。


「いや……だって、目の前で苦しんでるんだし」


「でも……」


「放っておけないだろ。亜人だろうが人みたいなもんだろ。」


 司はそう言って、横たわるエルフを見る。


「それだけだよ」


 リュシアはしばらく司を見つめていた。


「……分かりました」


 そう言って、リュシアは水を取りに走っていった。


 司は一人残され、エルフの顔を見つめる。


「……早く元気になれよ」


 しばらくすると、リュシアが水と布を持って戻ってきた。


「お待たせしました。」


 リュシアは床に水の入った桶と布を置く。


「ありがとう」


 司は受け取った布を水で濡らし、エルフの顔についた泥や血をゆっくりと拭っていく。


「……痛かったらごめんな」


 返事はない。


 まだ意識が戻っていないようだ。


「司さん、そこは私が……」


「いや、大丈夫。リュシアは水を絞ってくれる?」


「はい」


 二人で手分けをしながら、身体についた泥を少しずつ落としていく。


 髪についた泥を落とすと、淡い水色が少しずつ見えてきた。


「……綺麗な髪だなぁ…」


「そう…ですね」


「目も……」


 血を拭うと、水色の瞳が見えた。


「……本当に綺麗だ」


「司さん」


「ん?」


「また可愛いとか綺麗とか言ってますよ」


「いや、だって本当にそうなんだから仕方ないだろ」


「……もう」


 リュシアは少し頬を赤くした。


 そんなやり取りをしながら手当てを続けていると、突然、エルフの指が僅かに動いた。


「……ん」


「……!」


 司は顔を近づける。


「大丈夫か?」


「…………」


 ゆっくりと、水色の瞳が開いた。


「……ここ……は……?」


「よかった……!」


 司は思わず声を上げた。


「ここは路地裏。君、水路に沈んでたんだ」


「……水路……?」


 エルフはぼんやりと司を見る。


「俺が助けたんだ。怪我は……まだ痛む?」


「…………多分…痛みはしない…です。」


 エルフは少しだけ身体を動かそうとする。


「無理するな。まだ横になってて」


「……はい」


 小さく頷く。


「そういえば……名前、聞いてなかったな」


 司はエルフを見る。


「君、名前は?」


「…………名前」


 エルフは少し考えるように目を伏せる。


「……セイア…です。」


「セイア?」


「はい……私の名前です」


「そっか。セイア、か」


 司はその名前を静かに繰り返した。


「よろしくな、セイア」


「……よろしく……?」


 セイアは不思議そうに司を見る。


「ああ。俺は七瀬司。こっちはリュシア」


「……リュシア……さん。司・・・さん。」


「はい」


「うん」


 リュシアと司が微笑む。


「……司さん。セイアさんをどうするんですか?」


「どうするって……」


 司はセイアを見る。


「このまま放っておくわけにもいかないだろ」


「でも……」


 リュシアは言葉を濁した。


「セイアさんを連れて歩いていたら、また何かされるかもしれません」


「……そうなの?」


 司は脳内で思考を巡らせる。まぁ確かにそうだな。さっき水路に落としたのを救ったやつがまた現れるなんて。そう考えてる間にリュシアが言葉を放つ。


「はい。特に今は……」


 リュシアは周囲を見渡す。


「人目につかない場所にいた方がいいと思います」


「……なるほど」


 司は少し考える。


「じゃあ、まずは安全なところに行こう」


「……え?」


「セイアをこのままここに置いていくなんてできないだろ」


「司さん……」


 リュシアは少し驚いたような顔をした。


「でも、俺、この国のこと何も知らないんだよな」


「……そうでしたね」


「だからさ」


 司は立ち上がる。


「リュシア。悪いけど、案内してくれないか?」


「……はい」


 リュシアは頷いた。


 司はセイアへ手を差し出す。


「立てる?」


「……はい」


 セイアは司の手を取ろうとする。


「……っ」


 しかし、身体に力が入らない。


「無理するな」


 司はセイアの身体を支える。


「……すみません」


 セイアは少し恥ずかしがるような。でも申し訳ないような表情を浮かべる。


「謝らなくていいって」


 司はセイアを支えながら、路地裏の出口を見る。


「行こう。安全な場所に。」


 こうして司は、リュシアとセイアと共に路地裏を出ることになった。


 この時の司は、まだ知らなかった。


 この世界で自分が何を知り、何に巻き込まれていくのかを。


 ただ一つだけ。


 目の前で苦しんでいる人を、見捨てることだけはできなかった。


To be continued

読んでくれてありがとう。

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