第二話 異世界の日常
きつい内容。
しばらくの間、司とリュシアの間に沈黙が流れていた。
先ほどまで追われていた緊張が、少しずつ抜けていく。
そして、早鐘のように鼓動していた心臓も、次第に落ち着いてきた。
「いや、そんなに何度も頭下げなくていいって。あんぐらい簡単に倒せるんだから」
「いえ! でも……助けていただいたのだから」
そう言って微笑むリュシアを見て、司は少しだけ目を逸らした。
改めて見ると、やっぱり綺麗な人だ。
白い髪に、長く尖った耳。
長く尖った……耳?
エルフ……か。
そうだな。異世界だもんな。
「そういえば、司さんはどこから来たんですか?」
「え?」
突然の質問に、司は少し戸惑った。
あー……異世界から来たって言った方がいいのか……?
いや、でも旅人って言った方がいいかも。
うーん、無難に遠いところから来たっていうか。
「遠いところから来たよ」
「んー、遠いところっていうと南の方の武装大国とかですかね?」
リュシアが問う。
もちろん、この世界の事なんて何も知らない。
シャルマなんて国も聞いたことがない。
……まあ、適当に合わせるしかないか。
「うん。その辺」
「そうなんですね」
リュシアは特に疑う様子もなく頷いた。
……よかった。なんとか誤魔化せた。
司はほっと胸を撫で下ろす。
「そういえば、さっきのことなんだけど」
「はい?」
「なんであんなことされてたの?」
「…………」
リュシアの表情が、ほんの少し曇った。
「私は……亜人ですから」
「亜人……?」
そう思いながら、司はリュシアの髪についた土や砂を払っていく。
「そうですね。《シャルマ》では亜人はほとんどいませんからね」
「じゃぁ、此処では亜人が珍しくないの?」
「はい。《エグゼルト》では亜人は珍しくありません」
司が水路を見る。
さすが親水王国と名がついているほどだ。街のいたるところに水路がある。
「え──?」
その底にエルフが沈んでいた。
もがいている。
助けなきゃ。
そう思う。
だが、周りの人が笑っている。
此処で助けたら……?
嫌……でも助けなければ。
そう思う前、司の体は考えるよりも早く動いていた。
司は水路に飛び込んだ。
水の中では思うように身体が動かない。息もできない。
「あ……い、おー……う……あ!」
司自身にも何を言っているのか分からない。
それでも必死に手を伸ばし、エルフの身体を掴んだ。
そのまま水路から引き上げる。
「司さん!」
後ろからリュシアの声が聞こえる。
司はリュシアの手を取った。
「走るぞ!」
「えっ、あ、はい!」
二人はその場から逃げるように、路地裏の奥へと走っていった。
しばらく走ったところで、司は人通りの少ない路地裏の奥へ入り込んだ。
「はぁ……はぁ……」
息が切れる。それと同時になぜ少女はこんな状況に。ぬぐい切れない焦燥感と酷い吐気に襲われる。
司は壁に手をつきながら、後ろを振り返った。
「……来てない、よな」
「はい……大丈夫だと思います」
リュシアも息を切らしながら答える。
「……よかった」
司は安堵し、そこでようやく腕の中にいるエルフへ目を向けた。
「…………」
ひどく汚れていた。
淡い水色の髪も泥に汚れ、水色の瞳は血で汚れていた。
「うっ……」
その姿を見た瞬間、司はその場で吐いた。
「司さん!?」
リュシアが慌てて司の背中をさする。
「大丈夫……?」
「……大丈夫……自分よりも、この子の心配をしてほしかったな……」
司は口元を拭う。
そんなことよりもこのエルフだ。
なぜ、こんなにも痛ましい状態になっているのだろう。
「……この子」
司はエルフを見つめる。
「なんで……こんな……」
「…………っ……そ、それは」
リュシアは答えない。
「リュシア?」
「……そ……その……」
しばらくして、リュシアが小さく口を開いた。
「……亜人だから、です」
「…………亜人だからなんだよ。なぁ」
司はそれ以外の言葉が出てこない。
まただ。
また「亜人」という言葉が出てきた。
ただそれだけの理由で、この子はこんな目に遭ったのか。
「……おかしいだろ」
思わず、司の口から言葉が漏れた。
「どうして……」
司は目の前のエルフを見つめる。
「どうして……亜人だから、そんな……」
言葉が続かない。
亜人だから。
ただ、それだけで。
「亜人だから……」
司はその言葉を繰り返す。
それが、この世界では当たり前なのだろうか。
「…………」
答えを求めるように、司はリュシアを見る。
「どうして……亜人だから……」
To be continued
結構残酷でごめんなさい。




