第一話 異世界
暇人です。この作品を開いていただきありがとうございます。1話です。お楽しみください。
ライブ、楽しかったな。
七瀬司は、夜道を歩きながらぼんやりとそう思っていた。
まだ耳の奥には、さっきまで聞いていた音楽の余韻が残っている。
今日は良かった。
明日からまた学校かと思うと少し憂鬱だったが、それでも今日のライブに来られたことには満足していた。
そんなことを考えながら歩いていると─
「……あれ?」
街灯が、消えた。
いや。
違う。
街灯だけじゃない。
道路も、建物も、人の気配も。
さっきまで確かにあったものが、すべて消えていた。
「……どこだ、ここ?」
司は立ち尽くした。
目の前に広がっていたのは、見たこともない街並みだった。
石造りの建物。
石煉瓦で舗装された道。
その上を、見たこともない竜が車を引いて行き交っている。
道を歩く人々の服装も、司の知っているものとはまるで違う。
「……夢?」
頬をつねる。
「痛っ……」
夢じゃない。
混乱したまま、司は歩き始めた。
誰かに聞こう。
そう思って、近くを歩いていた男性に声をかける。
「あの、ここってどこですか?」
「迷ったのかい? ここは親水王国の王都だよ」
「……親水王国……《エグゼルト》?」
聞いたことのない国名だった。
何が起きているのか分からない。
そのときだった。
「だ、誰か! 助けてください!」
路地裏から、悲鳴が響いた。
司が振り向く。
「あぁ。日常茶飯事だよ。気にしないで─っ!?」
男性の言葉を最後まで聞くことなく、司は走り出していた。
悲鳴の聞こえた路地へ向かって。
そこに何が待っているのかも知らずに。
路地へ駆け込んだ司が目にしたのは、地面に突っ伏した一人の少女だった。
白く透明感のある髪が、土や砂に汚され、地面へ広がっている。
少女を囲むように、三人の男が立っていた。
「だから言ってるだろ! 人間様の通りを歩くなって!」
「す、すみません……」
少女は地面に突っ伏したまま、頭を地面にこすりつけてすすり泣いていた。
「あ? てめぇの泣き声で人間様の耳を汚すんじゃねぇ!」
そう吐き捨てると、男は少女の頭へ足を振り上げた。
その刹那─
「───っ! てめぇ! 何しやがる!」
司は男の足を掴んでいた。
「……何って、亜人に制裁をくらわせてるだけだろ?」
「亜人──…? とにかく、その子に暴力をふるうのをやめろ!」
「あぁ?」
男が司を睨みつける。
怖い。
今まで感じたことのない類の恐怖だった。
柔道で先輩に投げ飛ばされ、骨折しかけたときよりも怖い。
心臓が早鐘のように激しく鼓動している。
これはヤバい。
そう感じる。
それでも、司は立ち向かった。
「だから……その子に暴力をふるうな!」
司の身体が動く。
俊敏に地面に突っ伏している少女を避け、そのまま男の背後へ回る。
そして─
男の身体を背負い、そのまま地面へ叩きつける。
「ぐっ……!」
男はそのまま気を失った。
司は息を整える。
だが─
もう一人、仲間がいることを忘れていた。
背後の気配に気づき、司が振り返る。
「とりゃぁ!」
司がもう一人の仲間を掌底で突き飛ばす。
「ぐはっ!」
男が吹き飛び、そのまま地面へ倒れ込んだ。
司は少女へ駆け寄った。
地面に突っ伏している亜人……? とやらの女性を抱える。
「ごめん! ちょっと我慢して!」
そのまま司は、その場から逃げ去った。
暫く走ったところで、司は人通りの少ない路地へ入り込んだ。
「はぁ……はぁ……」
息が切れている。
腕の中には、さっき助けた少女がいる。
「大丈夫……ですか? あ、さっきは助けていただいてありがとうございます!」
少女は口から血を垂らしながら、鈴の鳴るような高い声でお礼を言った。
「いやいやいや、大丈夫? はこっちが聞くセリフだからね!?」
「血、出てるけど!?」
「出てました?」
「ばりばり出てるよ!?」
司は慌ててポケットからハンカチを取り出す。
そして、少女の口元をそっと拭った。
「あ、ありがとうございます」
「いや、礼言ってる場合じゃないでしょ……」
司は改めて少女の顔を見る。
白く透明感のある髪。
長く尖った耳。
そして、どこか儚げな表情。
「……そういえば、名前聞いてなかったね」
司は少し照れながら口を開く。
「自分は七瀬司」
「私はリュシア……です」
「リュシア……」
その名前を聞いた瞬間、司の胸が妙に高鳴った。
───なんだろう。
この子のことが、もっと知りたい。
そんな気持ちが、司の中に芽生え始めていた。
To be continued
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【作者よりお願い】
毎週日曜日、朝6時に最新話を更新しています!
「続きが気になる!」「面白そう!」と思ってくださったら、
画面下にある【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆(星)】をタップして応援していただけると、執筆の大きな励みになります!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
お読みいただきありがとうございました。今後も不定期ですが更新していきますので気長にお待ちください。




