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第2章:論理は死んだ

4月20日の朝。7時ちょうど、けたたましい目覚まし時計の音が部屋の静寂を切り裂いた。

ハルトは目をぎゅっと閉じ、現実が重く肩にのしかかるのを感じた。 彼はしぶしぶ手を伸ばし、スマホを手探りで見つけてアラームを止めた。

数秒間、彼はただ天井を見つめて横たわっていた。 昨晩の出来事と、ハナのノートが頭に浮かんだ。

「今日は4月20日だ」と彼は思った。 彼は立ち上がり、シャワーを浴びに向かった。

冷たい水は不安な夢の余韻を洗い流してくれたが、予感そのものは消えなかった。 制服に着替え、ハルトはキッチンへ降りていった。

「おはよう、母さん。おはよう、父さん。」

父親はテーブルに座り、片手でコーヒーカップを持ち、もう片方の手でタブレットの絵コンテを素早くめくっていた。

彼の目は寝不足で充血していた。 スタジオの新しいプロジェクトが明らかに彼から全ての体力を奪っていた——最近、ハルトは父親が笑顔を見せるよりも、スケッチの上に背中を丸めている姿を見ることの方が多かった。

「おはよう、ハルト。よく眠れた?」母親が朝食の皿を並べながら尋ねた。

「うん、大丈夫だよ」と彼は嘘をつき、席に着いた。

父親はふとタブレットから顔を上げ、息子に何か言いたげな視線を向けたが、すぐに壁掛け時計を見て跳ね起きた。

「ありがとう、愛する妻よ!」彼は足早に妻の頬にキスをし、カバンを掴んだ。

「もう行かないと、朝礼に遅れる。フレームの遅れで監督が今日キレてるんだ。」

「お仕事頑張ってね、あなた!」と母親が答えた。

父親はドアのところでハルトを振り返った。「しっかり勉強しろよ、息子。また後でな。」

ドアがバタンと閉まった。 キッチンが静かになった。 母親はハルトの向かいに座り、彼の顔をじっと観察した。 「ハルト、本当に大丈夫?」

「昨日はすごく疲れているみたいだったけど。」

「うん、母さん、本当だよ。昨日はただ大変な一日だっただけ。でも今日はもう気分がいいよ。」

「朝ごはんありがとう、着替えてくるよ。8時には学校に着かないと。」

彼は母親と目を合わせないようにしながら、急いで食べ終えた。 彼の一歩一歩は機械的だった。

彼は上着を着て、リュックを肩に背負い、家を出た。 外はいつもより晴れ渡っていた。

太陽が東京の街並みを照らし、この明るい光の中では、昨日の恐怖が馬鹿げた空想のように思えた。 「ガラスの破片?雨?」

「こんな晴れた日に?」ハルトは心の中で鼻で笑った。 「たぶん、ハナはただのドラマ好きなんだ。」

「そして僕は、馬鹿みたいにあの絵を信じ込んだんだ。」 しかし、校門に近づいた時、彼はソウタの姿を見つけた。

ソウタは入り口に立って、スマホで誰かと熱心にメッセージのやり取りをしていたが、ハルトに気づくと満面の笑みを浮かべた。 「おい、ハルト!」

ソウタは彼のもとへ駆け寄った。 「俺が言ったこと覚えてるよな?今日は3時に図書室だぜ、絶対だからな。」

「このプロジェクトをどうしても終わらせなきゃいけないんだ。お前はうちの歴史のトップなんだから。」 ハルトは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

太陽はまだ輝いていたが、親友の言葉は銃の撃鉄を起こす音のように響いた。 「ソウタ...教室でやらないか?」

「それか僕の家で?」ハルトは最後の試みをしてみた。 「いやー、図書室の方が静かだし、本も全部揃ってるからな。」

「ビビるなよ、1時間で終わらせるから!」 ソウタは彼を学校の中へと引っ張っていった。 廊下を歩いていると、ハルトは偶然ハナと目が合った。

彼女は友達に囲まれて立っていた。 スズキが完璧な髪をいじりながら何かを熱心に話していたが、ハナは聞いていなかった。

彼女はハルトを真っ直ぐに見つめていた。 彼女の手にアルバムはなかったが、カバンの紐を強く握りしめている様子がすべてを物語っていた。

彼女は知っていた。 彼女もこの時間を待っていたのだ。 授業は無限に続くように感じられた。

教師たちが何かを単調に説明し、チョークが黒板を引っ掻く音がしたが、ハルトにとって全ての音はホワイトノイズに溶け込んでいた。

彼は何度も腕時計に目をやり、秒針が「15:15」の目盛りに容赦なく近づいていくのを見つめていた。

まとわりつくような不安感から少しでも気を紛らわせるため、彼は思わずハナの方を見た。

彼女は2列離れた席に座り、小さなノートに何かを素早く描いていた。 彼女の肩は緊張していた。

ハルトの頭の中に、彼らの初めての出会いの日のことが蘇った。 それは新学期が始まった9月のことだった。

当時、彼は高校に入学したばかりで、完全に目立たない存在でいたいと願っていた。 それは学校の廊下で起こった。

本に夢中になっていたハルトは、友達と笑い合いながら何か言い争って角から飛び出してきたハナに気づかなかった。

衝突は避けられなかった。 ハルトは壁に吹き飛ばされ、眼鏡が鼻の先にずり落ちた。 「ああっ、ごめんなさい!」

「全然気づかなかった!」ハナはすぐに満面の笑みを浮かべて手を差し伸べた。

注目を浴びるのが大嫌いだったハルトは(すでに高飛車なタカハシを含め、廊下の半分の生徒が彼らを見ていた)、彼女の手を無視した。

彼は素早く立ち上がり、眼鏡を直し、少女を一度も見ることなく冷たく言い放った。「次は前を見て走れ。」

「廊下は陸上トラックじゃない。」 その時のハナの笑顔は一瞬で消え去った。 彼女はまるで殴られたかのような顔をした。

「おい、ちょっと落ち着きなよ、ガリ勉くん!」タカハシがハナの肩を抱き寄せながら介入した。 「彼女は謝ったでしょ。」

「もう少し礼儀正しくできないわけ?」 ハルトはただ背を向け、彼女たちを置いて立ち去った。

彼はタカハシが背後で「大人しいオタク」について何か文句を言っているのを聞いたが、ハナはただ静かにため息をついた。

それは最悪のスタートだった。彼は学校で最も人気のあるグループの前で自分を無礼な奴として印象付けてしまったが、本当は予期せぬ接触にただパニックになっていただけだった。

休み時間を告げるけたたましい鐘の音が、彼を回想から引き戻した。 「田中くん?」すぐそばで静かな声がした。 彼はビクッとした。

ハナが彼の机のそばに立っていた。 友達は近くにいなかった。 彼女はまるで一睡もしていないかのような顔をしていた。

「ねえ...あの絵のことなんだけど」彼女は声を潜めて囁いた。 「あなたがこれを馬鹿げてると思ってるのは分かってる。」

「でも、お願い...今日の放課後は...何があってもすぐに家に帰って。」

彼女の目には、初めて出会った時の恨みは微塵もなかった。 ただ純粋で、ほとんど絶望的なほどの心配だけがあった。

「どうしてそんなこと言うんだ?」ハルトは彼女をじっと見つめた。 「そもそも、あのアルバムはどこから持ってきたんだ?」

ハナは何か答えようとして唇を震わせたが、その時ソウタが手を大きく叩きながら近づいてきた。「おっ、伊藤さん、ちわーす!」

「ハルト、準備できたか?『図書室』作戦は10分後に開始だぜ!」

ハナは青ざめ、それ以上一言も発することなく、自分の席へと急いで戻っていった。

ハルトは彼女の後ろ姿を見送りながら、自分の頭の中の論理が崩壊し始めているのを感じた。 時計の針は14:50を指していた。

ハルトはソウタの勢いに押し切られた。 論理についての思考やハナの警告は、親友の鉄の握力によって打ち砕かれた。

教室を出る時、ハルトはハナの視線を肌で感じた——それは重く、無言の絶望に満ちていた。

彼女は教室の窓際に立ち、まるでそれがノートではなく装填された武器であるかのように、アルバムを胸に抱きしめていた。

図書室へと続く廊下を歩いている間、ソウタはモバイルシューティングゲームの新しい戦術について熱心に語っていたが、ハルトはほとんど聞いていなかった。

耳鳴りがしていた。 手の震えを抑えるため、彼は思わずすべてが始まった小学校3年生のあの日のことを思い出した。

当時、彼は一番後ろの席に座り、窓の外の風景と文字通り同化しようとしていた。

教室は騒がしく、子供たちが追いかけっこをしていたが、ハルトはただ誰にも気づかれないことを望んでいた。

しかし突然、影が光を遮った。 「やっほー!俺ソウタ、お前の名前は?」

目の前には、年の割に背が高く、がっちりとした体格の男の子が、武装解除させるような満面の笑みで立っていた。 「ぼ、僕...?」

ハルトは驚いて、危うく本を落としそうになった。 「お前に決まってんだろ、他に誰がいんだよ!」ソウタは笑いながら、遠慮なく椅子を引き寄せた。

「僕はハルト...」

「ハルト?よろしくな!何してんの?」

「えっと...本を読むのが好きなんだ」彼はソウタがこれで興味を失うことを期待して、小さな声で答えた。

「読書?そんなのつまんねーじゃん!」ソウタは頭の後ろで腕を組んだ。 「ゲームとかやんないの?」

「ゲーム機とか、スマホとかでさ」

「ううん...やらない。」

「おー、じゃあ俺がやってるゲーム見せてやるよ!」ソウタは携帯ゲーム機を取り出した。

「見ろよ、これすっげー面白いんだぜ!」

こうして彼らの友情は始まった。 ソウタはハルトの盾となり、同級生のからかいから彼を守り、ハルトは彼らのコンビの「頭脳」となって、友人の勉強を助けた。

魔法のように惹かれ合った、正反対の二人。

彼らは図書室のドアの前に着いた。 ハルトは目をぎゅっと閉じたが...静寂。

ソウタがドアノブを引いた。 鍵がかかっている。 彼はもう一度、強く引いた。 「マジかよ!『蔵書点検のため閉館』?」

ソウタは小さなプレートを指差しながら、悔しそうにドア枠を蹴った。 「くっそー、ハルト、無駄足だったな!家で終わらせるしかないわ。」 ハルトは息を吐き出した。

昨晩から胸を押し潰していた巨大な岩が、ようやく落ちた。 「彼女は間違っていた。アルバムは間違っていた。あれはただの紙切れだ!」

彼は心の中で歓喜した。 論理と常識への信仰が、二倍の強さで戻ってきた。

「家に帰ろう、ソウタ」ハルトは安堵で輝かんばかりだった。 「ビデオ通話でプロジェクトを手伝うよ。」

彼らは校庭に出た。 太陽はまだ眩しく輝いていたが、突然の突風が乾いた落ち葉を宙に舞い上げた。

ハルトは校舎に背を向けて歩きながら、ソウタと夜の予定について話し合っていた。 「ハルト、危ない!!!」

その悲鳴は、超音波のように鋭く響き渡り、ハルトの内側にあるすべてを凍りつかせた。 ハルトは振り返り、凍りついた。 世界がスローモーションになった。

彼の頭上、2階の窓から直接、巨大なパノラマガラスがヒューッという音を立てて落下してきていた。

それは巨大なギロチンの刃のように太陽の光を反射しながら、平らな状態で落ちてきた。 間に合わない。 足がアスファルトに根を張ったかのようだった。

次の瞬間、小さくて信じられないほど力強い何かが、横から彼に激突した。 「ああっ!」

ハルトは芝生の上に倒れ込み、自分にのしかかる別の体の重みを感じた。 ガシャーン! ガラスの割れる音は耳を劈くようだった。

何百もの鋭い破片が、彼の足から数センチの地面に突き刺さり、細かいガラスの粉を彼らに浴びせた。 ハルトは目を開けた。

彼の上には、荒い息をしながらハナが覆いかぶさっていた。 彼女の髪は乱れ、その目には、彼が今まで見たこともないような原始的な恐怖が張り付いていた。

校庭全体が凍りついた。 何十人もの生徒、スズキ、タカハシ、そしてソウタでさえも口をぽかんと開けて、粉々に割れた窓ガラスと芝生の上にいる二人の高校生を見つめていた。

「ハルト...生きてる?」ハナはかすれた声で言った。 彼女は返事を待たなかった。

学校中の視線が自分たちに向けられているのを見ると、彼女は飛び起き、死に物狂いでハルトの腕を掴み、彼を引っ張った。

「走って!早く!」 彼女は彼を校庭から、呆然とするソウタの横を通り過ぎ、門を抜け、この場所から遠くへと引きずっていった。

ハルトは足の感覚もないまま、つまずきながら彼女の後を追って走った。 この瞬間、彼が理解できた唯一のこと、それは「論理は死んだ」ということだった。

アルバムはただ未来を描いているのではない。 未来を支配しているのだ。

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