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四、五ヵ月

恐らく、あと四、五ヶ月。 それは、僕たちの住んでいた場所――東京に、彼女が一旦は辿り着くであろうという、誠に不確かなカウントダウンの数字だった。


 近畿を制覇し、今は石川県。順調にいけば、そのくらいの月日で彼女は「ここ」へ来る。


 友人とのあの日以来、自分でも情けないほどに不安が募っていた。生存確認のようなメッセージの頻度が増えたのも、この不確かな数字に己の精神を委ねていたからだ。




いや、「帰ってくる」という言葉は正しくない。強いて言うなら「辿り着く」が適切だろう。 果たしてこの街は、今の彼女にとって帰るべき場所足り得るのか。もう既に、彼女の帰る場所は、彼女自身が辿ってきた道の中にしかないのではないか。




そんな思考を巡らせていると、




「ピロン」




と一件のメッセージが届いた。


 スマホを手に取り傾けると、ホーム画面にある通知が目に入る。真琴からだ。


 急いで開いてメッセージを確認した時、僕は足元が崩れる様な感覚に陥った。


 僕の今は何処にいるのか、という問いに対しての答えが返って来ていたのだが、問題はその返答にあった。




「今はね!大分県!☺️」




確かに先程の思考は全て仮定の話であったがしかし、ここまで来て何故戻るのか。


 積み上げた予想を嘲笑うような、無邪気で、決定的な逆走。


 「何で戻ってるんだよ…」と思わずため息と共に言葉を吐き出しながら、そして少し安堵した自分から目を逸らし、無意識のうちに手に取っていたタバコに火をつける。




もう慣れ親しんだ煙を身体に入れながらも、寒さのせいか、所謂ヤニクラが原因なのか、震える指で




「かなり戻ったな。楽しんで。」




などと心にも無いスカした返事をしてしまう。




理由を問う勇気なんてない。


 もし


 「東京になんて行く気がなくなった」


 なんて返されたら、僕はもう立っていられない。




先ほど考えた言葉が現実になるのではと恐れながら、この東京が、それより僕の居る場所が「帰って来る場所」では無いのではないか、といった不安を押し込めながら2本目のタバコに火をつけた。




この気持ちは好意というよりも「執着」と言う方が適切であろう。


 理由は判らないが、日本を巡りたいという彼女の気持ちに向き合わずに逃げた自己保身の塊の如き僕が、こんなにも彼女の事を考え振り回され、さも彼女を支えているかの様なスタンスを取り続ける。


 離れている事を言い訳にして気持ちすら満足に伝えられない。


 そんな自分に情け無さを感じつつも、それでもよそ見をする事を許さない、最後に空港で見た髪を一括りにし気合いを入れた、ここでは無い真っ直ぐと自分の向かう先を見ていた彼女の瞳を思い出す。




彼女と会った時にこの気持ちの整理はつくのだろうか。


 僕は今の彼女を直視出来るのだろうか。


 彼女と逢える時、僕は彼女にこの気持ちを伝えられるだろうか。




二本目のタバコの火が消える。


 眩暈と頭痛がひどい。


 フラフラと辿り着いたベッドの上、瞼を閉じればあの日、清水の舞台で「大丈夫」と微笑んだ彼女が浮かぶ。


 ――ねえ、真琴。


 隣に居る彼女に問いかけてみても、彼女はあの頃の様に微笑みながら




「大丈夫」




と一言言うだけだった。




鏡を見るまでもなく分かっている。今の僕は、きっとひどく醜い顔をしている。

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