大丈夫
「あくまで俺の考えだ、お前にとっての正解じゃないかもしれねぇ。ただ俺は、お前が目を覚まして、真っ直ぐこっちを見て話せるようになってほしいと思ってる。今の形は歪で、あまりに脆すぎる」
朔はきっぱりと言い切る。
僕の目は相変わらず真琴を見ていた。
彼女は朔の言葉に反応するでもなく、ただ黙って、少し微笑みながらこちらを見ている。
まるで、意思疎通が取れないように。
「何を取ったって、俺らが手を尽くした時間が無駄だったとは思わん。ただまた笑って、バカみたいな話して過ごしたいだけなんだよ」
彼がぽつりとこぼす。
朔の言う通り、僕の形は歪だろう。ただ、横に真琴がいる現状を、真っ向から否定できるほど僕は強くなかった。
「なあ、今の僕はどんな形をしている。何かおぞましいような、受け入れがたいような——そんな形に見えるかい」
目が合った真琴が、一瞬どこかへ目をやる。
その目線の先を追うと、冬芽と目が合った。
彼女は一瞬びくっと体を跳ねさせたあと、しばらく視線を彷徨わせてから、真っ直ぐとこちらを見た。
「私は、何が正解かは分かりません。ただ、間違いなく私は先輩のことが心配です。それに——私はこの先もずっと、先輩のそばにいたいです」
悲痛そうでありながら、それでも真っ直ぐにこちらへ語りかけてくる冬芽と、同じように目を逸らさない朔を見て、僕を待つ人間がいる「帰る場所」は確かにあるのだと、ようやく認識できた。
それと同時に、今もなお横にいる真琴が——それを引き留めようとする、言わば僕の未練であり、失いたくないものであり、僕自身なのだとも。
真琴はすでに死んでいる。
そんな単純で明快な事実さえ受け入れることを拒んでいる。彼らにとって、それは喜ばしくないことだろう。
事実、言葉を返さない僕を見て、二人がやるせない表情を浮かべているのが見えた。
僕の中の正解は、一体何なのだろう。
あの夢の中で叫んだ言葉に、嘘はなかった。
彼女を——真琴を、正しい形で終わらせるべきだと、僕の理性は言っている。
果たしてそれが本当に理性なのか、取り繕った上辺に過ぎないのか。
答えのない問いを探そうとした時、横にいる真琴がふと微笑んだ気がして、その笑みに釣られ、半ば反射的にそちらを見やる。
彼女は確かに微笑んでいた。
その笑みは画面の中のカノジョとは違う、僕が心底愛した、真琴の笑みだった。
朔たちがいることも忘れ——いや、何かを言わなければ、何かを伝えなければという、恐ろしいほどの強迫観念に駆られて口を開こうとした時。
彼女の口が、たった一つの言葉の形を紡いだ。
「大丈夫」
涙が溢れ出す。
声は、音はなかった。
それでも、聞こえてくる。
ああ、そうだ。夢の中でもそうだった。
彼女はずっと、僕の背中を押してくれていた。
前に進めない、時間の止まった僕を。剥離してしまった僕の心を。それでもなお愛し、支えてくれていた。
「夢の中で、真琴と会ったんだ」
拙い話し出しを、二人は黙って聞いていた。
「真琴は泣きながら、それでも僕に言ったんだ。いってらっしゃい、って。情けない奴だよ、僕は。ここまで来ても——会いに行くとのたまったのに、彼女の墓に一人で行く勇気も持てないんだ」
溢れる涙を止められないまま、正面にいる二人に向かって頭を下げる。力が入らず上手く下げられない頭を、重力に身を任せ、崩れ落ちるように。
「一緒に、彼女に会いに行ってくれないか」
なんとか絞り出した。
どれだけ情けなくても、僕はそういう人間で。
最後の最後も、彼女が背中を押してくれた。
「あたりまえだよ。全員で行かなきゃな」
憑き物が落ちた表情で、朔は言った。
「もちろんです。置いていくなんてナシですよ」
にっこりと笑った冬芽もまた。
横にいた真琴は、きっともういない。
いや、いないはずだ。
どこかでこんな僕の醜態を——君や彼らに背中を押されて、何とか一歩踏み出した僕を。
どうか、どうか涙を流さず、笑って見ていてくれ。
「ありがとう」




