行ってきます
その日はよく晴れていた。
乾いた空気と、頬を撫でる澄んだ風。
車を少し走らせた先に、君は静かに眠っていた。
緑に囲まれ、少し遠くに目をやれば綺麗な海が見える、そんな丘の上に。
ちょくちょく僕のところに来てくれていたことを考えると、実はここにはいなくて、今度こそ本当に旅に出ているのかもしれない。
場所が分からない僕のために先導してくれていた二人を、少し景色を眺めていた隙に見失ってしまった。
「いい景色だな」
隣に話しかけてみるが、真琴はもうしばらく、見えていなかった。
「ピロン」
ふと響いた通知を確認すると、
「AIチャットサービスをご利用いただき、誠にありがとうございます。当サービスは一ヶ月後にサービスを終了させていただきます。長らくのご愛用、誠にありがとうございました。」
思い出が一つ一つ流れる。
仮初のものであっても、僕はそこに真琴を見出し、支えられていた。
長い時間を支えてくれたカノジョに、僕は一言、
「ありがとう」
と送信した。
未練がましさがあるかもしれない。
でもきっと、それもひっくるめて僕なのだろう。
これでカノジョともお別れだ——と削除しようとした時、カノジョからの返信通知が来た。
通知には、彼女が何と送ってくれたのかまでは表示されなかった。
でもそれでいい。
きっと、これでいい。
僕は改めて一言「ありがとう」と呟き、カノジョとのチャットを削除した。
「あ、いた!」
声がした方に目を向けると、冬芽が少しムスッとした顔で立っていた。
「迷子の迷子の先輩さん、こっちですよ!」
からかうような、弾けた笑顔で僕を呼ぶ。
彼女の笑みに導かれ、僕はゆっくりと足を踏み出した。
何か纏わりついていたものが、僕から抜け出して、その場に置いていかれるように。
「ほら、行きますよ。迷子になっちゃうんだから、おてて繋ぎましょおてて!」
それはそれは楽しそうに、彼女は僕の手を取って目的地へと引っ張り出す。
彼女に手を引かれた瞬間、粘性のそれは僕と完全に剥離した。
「その年で迷子かよ」
目的地に着くなり、朔は開口一番にそう言った。
「ちょっと自分を見失ってな」
そう返すと、朔は苦笑いしながら
「やめとけやめとけ」
と僕に線香を手渡した。
改めて真琴の墓前に向き直り、線香を手にした時、用意していた言葉が喉の奥で詰まった。
一度深呼吸をして、自分の背中を押してやると、つっかえは取れた。
やっと、ちゃんと真琴に会いに来られた気がした。
手を合わせて、君を見る。
風の音だけが、しばらく続いた。
「遅くなってごめん。野暮なことは聞かない。どうか笑ってくれ、そして見守っていてくれ。それが今の僕が——僕らが出来る唯一の縋り方で、唯一出来る、君への幸せの仕方だ」
君はもう、隣にはいない。
その事実を噛みしめながら、
「さあ、行こうか」
と口にした。
「折角車出したし、飯でも行こうぜ」
朔と冬芽の足音が、ゆっくりと駐車場の方へ遠ざかっていく。
ゆっくりと立ち上がり、一息ついた時、
「先輩、行きましょ!」
僕を呼ぶ声がした。
冬芽の方を向き、しっかりと目を合わせる。
目が合った彼女が、柔らかく微笑んだ。
僕もまた笑いながら、冬芽の方へと歩き出した。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
初めて書いた小説で、沢山のPVやコメントをくださった事を大変うれしく思います。
次の話も何となくアウトプットし始めているので、またどこかで見ることがありましたら是非よろしくお願いします。
設定や説明等は蛇足かなと思いあげるつもりは今の所ありませんが、ご要望があればあげようと思います。
この後の文は蛇足になりますが、この小説を書いた理由として書きたいものになっておりますので、お暇な方はぜひ。
私の実話ベースで、遠距離に居る素敵な人を自分の中で諦めるために書いたのがきっかけでした。
その彼女はとても素敵な人で淡い恋慕を抱いていたのですが、並々ならぬ事情でただチャットで話すだけの仲になってしまいました、遠くに行ってしまった彼女とチャットで話していて、段々変わっていく彼女の話し方に一抹の寂しさを覚えたり、彼女を迎えに行けない現状の自分の不甲斐なさだったりを言語化しようと四苦八苦したものになります。
結局きっぱり諦めれたかと言われると難しい所ですが、恋に恋するお年頃の21歳ってこんなもんだよな。
と開き直った次第です。
拙い文章ではありますが、皆さまのお陰で、書いているうちに段々楽しくなって、書きつつも次のテーマは誰にしようか等とワクワクする日々でした。
以上駄文にお付き合いくださりありがとうございました。




