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やり過ぎたものはしょうがない。どうしようか、なんて今は考えていても仕方がないからまずは動こう。
そう思い、下を見下ろすと──。
「なっ!?」
──倒れている魔王の姿が別の魔族に成り変わっていた。
「どゆこと!?」
牌谷さんも同じく困惑している。
唐突に起こった謎の現象に二人揃って怪訝な表情を浮かべていると、そこへ飛び込んでくる揚々とした声。それは聞き覚えのあるイケボ。
「おいおい、酷いことをする! 諸君、賊共の狼藉によって我が国の民に犠牲者が出てしまった!」
声のする方を見れば、やはりそこにいたのは魔王ルベル。
しかしその格好は、先程までの王様然とした豪奢な服装ではない。
軽装の甲冑を着込み、後ろ腰には幅広の大段平を佩いたその装いは如何にも臨戦態勢といったものである。
大柄な身体に違和感なく馴染むその姿は、奴が元々は武人であったことを容易に想像させてくる。
監視の情報から俺達がくることを予見して、予め用意していたということか。
と言うことは、牌谷さんが斬った魔王は、魔王に見せかけた替え玉、影武者といったところだろう。
疑問があるとすればその見た目がルベルとは似ても似つかないあたりか。
そこで一つ思い出した。
「なるほど……。牌谷さん、異世界に来たときの奴らの事を覚えてますか?」
「異世界に来た時……? あっ、あいつら人間だったよね!」
「それです」
この異世界にきた当初、奴らの見た目はたしかに人間だった。
恐らく相手に幻覚を見せるスキルや、見た目を擬装するスキルのようなものがあるのではないだろうか。それならば今の魔王の事象も含め全て納得がいく。
これをやったのが魔王だとするなら、奴は操作洗脳系スキル以外にもかなりの数のスキルを所持していると考えた方が良さそうだ。
この情報は割りと良い収穫と言えるけど、状況はあまり良いとは言えないかもしれない。
壇上に流れた血のせいだろう、集まっている魔族達の歓声は怒声へと変わっていく。
それでも流石は魔王と言ったところだろうか、彼の威光を前にして許可なく壇上へと上がる者はいないようだ。
全身から威圧感を滲ませる魔王は、仁王立ちで腕を組みながら「降りてこい」とでも言いたげにこちらを軽く睨み付けている。
このまま操血の足場にいても拉致が明かないか……。それに魔王はノータイムで殺しには来ないと思う。
何故そう思うか。なんというか強者の余裕とでも言えばいいだろうか、そんな気概を魔王から感じるからだ。
この様子なら取り敢えずは降りても平気そうだ。
「牌谷さん、一旦降りましょう」
「解った」
しかし降りようと言ってはみたものの、この場所から床までは高さ十メートルくらいある。無論この高さは普通の人間が飛び降りられるものではない。
なんて尻込みしていたら、淀みなく動いたのは牌谷さんだ。
案の定、お姫様抱っこからの操血解除。
そして落下からの柔らか操血シートにポスン──。
「よいしょっと、痛く無かった?」
「あ、はい。大丈夫です」
無事に降り立ったあと、牌谷さんが優しく俺を壇上の上に立たせてくれた。
高さは全然低いけど、闘技場のデジャヴ……。
それを見た魔王、爆笑。
あっ、ちょっと止めて……。あれは絶対「女に抱っこされないとあんな高さも降りられないのかよ」的な笑いだ。
ぐっ、なんたる屈辱……。
よくよく考えてみれば『身体強化【S+】』を発動させればあの高さでも自分で格好良く降りられたはずだ。
くぅ、思い付くのが十秒遅かった……。
「思っていたより随分と情けない奴だったな、なあ盗人。……ブッ、ガッハハハハハハ!」
「………………」
笑いを堪えきれない魔王。
なんか恥ずかしさで顔と目頭が熱い……、そんなだから返す言葉も思いつかない。
肩を震わせながら、佇んだまま俯いて押し黙っていたら横から牌谷さんの威勢のいい声が大講堂に響き渡った。
「なにが可笑しいのよ! あんたなんか自分の国民を身代わりに使ってコソコソ隠れてたんじゃない! あんたの方がよっぽど情けないわよ!」
「なにぃ……! 小娘が、粋がるなよ……!」
「はぁ!? 別に粋がってないし! だいたい犠牲者が出たのは身代わり使ったアンタのせいでしょうが、責任転嫁してんじゃないわよ!」
「くっ……!」
おっ、牌谷さんの言葉はどうやら魔王にちょっと刺さったらしく、言葉がでてこないようだ。
まあ勢いで押しきった感は否めないけど。
だって、切り刻んだのは俺達なんだから犠牲者が出たのは俺らのせいでもあるからね、牌谷さん。
でも言い返してくれてありがとう……グスン……。




