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壇上の下には大勢の魔族達、目の前には戦闘準備万端の魔王。
どうみても多勢に無勢、なんなら個の力量すら向こうが方が上の可能性も高い。そんな圧倒的不利な状況下にも関わらず、牌谷さんは怯むどころか悪態が止まらない。
「だいたいアンタ、闘技場でもウチの事を騙しくさったくせに何のうのうと偉そうな雰囲気出しまくってんのよ! つい先日の事を忘れたとは言わせないわよ! 約束一つ守れない奴が国の代表語ってんじゃないわよ!」
「己、小娘がぁ……。黙って聞いてたらいい気になりやがって、言いたい事はそれだけか……!?」
そう言えば牌谷さん、闘技場でもぶちギレてたってけなぁ。これは魔王に余程鬱憤が溜まっていたと見える。
まあ個人的には、口約束云々なんてものを魔王が守る方がなんとなく違和感あるけどな。
それよりせっかく余裕のあった魔王の顔がだんだんと怒りの色に染まりつつある方が不味い。
前にも話したけど魔王は人間型ノクスとは違って普通に異形だ。
方相氏のお面に似た四つの目、濃い灰色の肌に二本の角。
怒りに歪んだ顔はまさに鬼の形相、比喩表現ではなく鬼そのものに見える……。めっちゃ怖い……。
いかん、そろそろ牌谷さんを諌めないと。
「はぁ!? なに!? まだ言っていいの!? じゃあ言わせてもらうけど──」
「牌谷さん、そろそろ……」
「あん!? ………………ぐっ……うん、ごめんムカつき過ぎてたかも……」
彼女の目を見つめながら壇上を囲む魔族の群れへと目配せし、今の状況を冷静に認識するよう促した。
察しが早い牌谷さんならそれだけで解ってくれるだろうと思ったからだ。案の定、今は怒りに任せるべきじゃない事を彼女はすぐに理解して口を噤んでくれた。
さあ、俺としては言いたいことより聞きたいことその方が多い。ちょっと危なかったけど今ならまだ話す余地は残っている……よな。
「魔王……様、幾つか聞きたい事があるっすけど」
我ながら情けないけど、こういう時は下からいかなきゃだ。
「あぁ!? …………なんだ、小僧か……お前は多少口の聞き方を思い出したらしいな。なんだ言ってみろ」
よしよし、少し声のトーンが落ち着いてきた。元々は魔王もこちらと何かコンタクトを取りたそうだったし、普通に話し掛ければちゃんと返してくれるようだ。
取り急ぎ聞きたいことは三つだ。
一つ、日本側に帰る事はできるのか。
二つ、ゲートをコントロールしたとして、その後は星澪奏紗をどうするつもりなのか。
三つ、見張られているノクス達は今どうなっているか、以上だ。
この問い掛けに、内容はともかく返答としては真面に返してくれる魔王。その様子は先程までの落ち着きと余裕を取り戻している。
「ふむ、一つ目の答えは『知らん』だ。俺は呼び出す事しか考えていないからな、行き方返し方などはどうでもいい。二つ目はカナサだったか、彼女は機をみて俺の正式な第一妃となる予定だ。三つ目は、そうだな……」
魔王は何か始めたのか黙ってしまった。これは恐らく、見張りとの交信だろうか。俺がエルとログで会話する時によく似ている。やはり遠距離会話のスキルだろうか。
「おう、どうやらもうヴェネムに向かう帰路に着いたそうだ。あの二人に協力して貰おうとは思わなかったのか?」
「ここに連れてきたらあの二人はまた魔王様に操られちゃうっすからね」
それは確定している訳では無いけど、敢えて解ってる風を装って鎌を掛けてみた。
「ほう、お前、どこまで知ってる?」
「さあて、どこまでっすかね」
と言うことはやっぱり、近くに来ればもう一度操る事は可能ってことか……?
反応が微妙過ぎてまだどうなのか解んないな。
それでも思わせ振りにしといた方が何かと有利に事を運べる……ような気がする。
「聞きたいことはそれだけか? じゃあこちらの質問だ。お前、どうやってソウルソーマを飲んだ?」
「──!?」
「ふん、その反応はどうやら本当にあれが飲めるらしいな」
しまった、「何で知ってるの?」がつい顔に出てしまった。逆に鎌を掛けらてたら世話はないぞ、俺。
しくじり顔の俺を見ながら魔王はしたり顔で続ける。
「こんなところまでノコノコやってこれるくらいだ、何本飲んだかは知らんが一本だけってことはないだろう。お前エクストラスキルを幾つか所持しているな。」
「あんたと一緒っすよ」
「ほう、お前とは初対面のはずだけどな。見た目と違ってなかなか面白い奴だ」
見た目と違っては余計だろが……!
まあこっちは初対面ではないんだけどな、でもやはり魔王もスキルを何種類か持ってることは間違いなさそうだな。
そろそろ仕掛けるか……。そう考えたのはどうやら魔王も同じだったようだ。




