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自業自得とは言え、格好悪い姿を晒してしまった……。
まずは立ち上がろう、そう思って目に入った牌谷さんの露出多めの脚や腕は俺より余程傷だらけだった。
先祖返り故の特性とスキル強化状態の恩恵、その両方の相乗効果によって血は完全に止まり、既に瘡蓋が出来て治りかかっているけど深い傷を負った箇所は絶対に痕が残るやつだ。
よく見れば顔にも傷は沢山ある。
十代の女の子がこれだけの傷を付けられてなお平然と他人を心配している立ち振舞いに、なんとなく自分の精神が鍛えられた理由を察した。
脚や腕を切り落とされた訳じゃない、利き手ではない左手の指の一、二本くらいなら全然戦える。そんなことでおたおたしてたら馬鹿みたいだ。無意識にそう感じていたんだと思う。
まあ、メチャクチャ痛くはあったけど……。
しかし、歴戦の女戦士みたいな彼女の精神力は先祖返り由来なんだろうか。数日前まで普通の日本人をやってたとは思えないな。
「どした?」
「い、いえ! なんでも……ないです!」
ハッと気づいて慌てて顔を伏せた。
こんな地味男が十八歳の女の子の脚や顔を舐めるようにジロジロと見てたら、それだけで犯罪臭が凄いことに気づいたからだ。
自重しろ、俺……。
「さあ、気を取り直していきましょうか」
そう言って前を向いたら、何故か牌谷さんはクスクスと笑い出す。
「アハハハ、やっぱ気を取り直さないといけない結果だったんじゃん」
「うっ、いや、まあちょっとは……」
痛いところを突かれてしまった。この人、意外とこういうとこ鋭いな……。
目を泳がせていると、牌谷さんの左手が俺の右手を取った。
「ゴメンゴメン、からかっちゃった。じゃあ、行こっか」
人を元気づける屈託のない笑顔。
戦闘面に於いては勿論、精神的な部分でも、牌谷さんがいなかったらきっとここまでは辿り着けなかっただろう。そう思った。
うん、いい気分転換になったような気がする。さあ、行こう。
「はい、行きましょう」
『闇の手スキル、“潜影”、効果二を発動』
今度は普通に歩いて行こう……。
※
大講堂があるのは城の最上階。
召喚された魔方陣の部屋にあった階段を上り、更にその上へと登っていくと辿り着ける。
道中、魔族を見掛けることは無かったので晩餐会の部屋でできる限り飲み食いをしておいた。
テーブルの大皿に横たわる食い荒らされた人間の丸焼きには、流石の牌谷さんも一瞬たじろいでいた。
それでも今はそれどころかじゃないと死体に目礼し、すぐに気持ちを切り替えて食べ物を口に運ぶ彼女はやはり只者ではない。
俺なんかビビりまくっていたというのに、流石は女戦士だ。
※
特に不測の事態もなくあっさりと登頂できた大講堂。
ちょっとした野球くらいはできそうな広さと天井の高さには圧倒される。そしてそこに犇めく魔族達。
奥の壇上には魔王が立ち、どうやら今から演説を始めるらしい。
そしてその後ろでは星澪奏紗がこちらに背を向け、何かを執り行おうとしている。
魔王の話はこうだ。
毎年この時期に訪れる三日間の極夜、その間は地球とこの異世界を繋ぐゲートが開くそうだ。
それは世界各地で起こる現象であり、言い伝えられてきた神隠しの原因らしい。
魔王は偶然知ったこのゲートの存在と、人間の造ったスキル抽出技術、ルサーリアさんのような召喚スキルからヒントを得て異世界から人間を召喚することを考えつき、見事に成功させたらしい。
エルの話にもあったように、この世界は人間が少なくなっている。
魔王もこの城の建つ国を滅ぼした辺りで気が付いた、周辺地域には人間がいなくなってしまったと。
そこで愉悦に餓えた同族達の欲望を満たす為に、召喚技術を応用して行われ始めたのが、この贄の夜だ。
だが魔王は満足してはいない、毎年百人ぽっちではとても心行くまで楽しむことなど出来はしない。
もっと贄の人間を増やすにはどうしたらいいか。考えた挙げ句、一番効率が良い方法を思い付いた。
ゲートを閉じないようにしてしまえばいい。
そしてどうやらそれが出来る目処が立ったらしい。
「諸君、あちらの世界は人間がうじゃうじゃといるらしい! 毎日召喚しようと尽きることはない、殺したい放題、食いたい放題だ! それを叶える存在を紹介しよう、我が寵姫のカナサだ!」
相変わらずのイケボ演説だ。
魔族達の歓声が上がったのを聞いた星澪奏紗はこちらを振り向き魔王の隣へと歩み出ると、静かに片足を後ろへ引き膝を折り、ミドル丈のスカートを軽く引き上げ可愛らしいカーテシーを見せた。




