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「一つ、言い忘れていました。フィナーレの会場は城の最上階にある大講堂です」
「大講堂……ふむふむ。うん、行き方はたぶん解るっす」
ノクスの告げたその場所はエルの共有で知っている。抽出部屋より広くて、高い天井にステンドグラスがある教会のようなところだ。
そこに主要な魔族達が集まるわけか……。
「そうだ、エル、お前はどうする?」
「何がなんダヨ?」
「ルサーリアさんに着いていきたいんじゃないのか?」
正直、今エルに居なくなられると困る。
でもここまで生き残れたのはエルのお陰な部分も大きいからな、受けた恩にはきっちり報いたい。
コイツがそれを望むんなら今すぐに契約解除することだって吝かじゃあない。
「それは……着いて行きたいんダヨ、でも今はクロが心配ダ。それに今の契約者はクロだカラ、もう少し手助けしてやるんダヨ」
「いいのか?」
「しつこいんダヨ。サリーのとこに戻るのはクロが元の世界に戻ってカラでも遅くないんダヨ」
「すまん、助かる」
いや本当に助かる……。格好つけてはみたものの、そう言ってくれて内心ホッとして
おります……。
ルサーリアさんは少し寂しそうだけど、それでも微笑みながら口を開いた。
「うん、その方が良い……と思う。エルとは、きっとまた……会える。だから、今はここを……離れるね。でも、絶対、この恩は……忘れないから」
「すみません、寂しいかもしれませんけどエルにはもうちょっと付き合ってもらいます。」
「大丈夫、サリーとならログで会話するダケならいつでもできるんダヨ」
「えっ、あれそんなに距離があってもできるの?」
「もちろん、冒険者時代には斥候や見張りナンかにも使ってたんダヨ」
なるほど、通信機器のない時代なら尚更に便利な能力だったろうな。
まあそれは置いておいて……。
「ではここを出ましょうか」
呼び掛けに頷いた三人とエル。
扉を開き、抽出部屋を後にし階段を上がったところで一つ思い出した。
「あっそう言えば……衛兵が二人、扉の前にいるんだった……」
「大丈夫……まかせて」
ルサーリアさんはそう言うと、また魔方陣を展開する。今度は床だ。
「ソムヌスムスクス、出てきて。…………これで……大丈夫」
何をしたんだろうか……。
よく解らないけど、ルサーリアさんが言うなら大丈夫だろう。
出口を目指して暫く歩くと、外へ繋がる扉が見えてくる。
「なんだ……」
入って来たときとは明らかに様子が違う。扉やその周辺が苔のような植物に覆われているのだ。
「これは……」
「この子達はね、強い眠気を、誘う植物……なんだよ。眠れない夜に、時々……使うの」
睡眠薬のような胞子でもとばすのだろか、扉を開けてみれば見張りの魔族は既に外壁にもたれ掛かって眠りこけていた。
「それじゃ、二人とも、ここで……さよならだね」
「クロ殿、キヅナ殿、このお礼は必ずいたします。これでも森の主、借りを作ったままでは面目が立ちませんからね」
ここまでの流れで一つ思いついた事がある。
「そうっすね、じゃあ近いうちに返してもらうかもしれないっす」
「? ふふ、何か思うところがありそうですね」
「いや、まだどうなるか解らないっすけどね」
ノクスは何か察してくれたのかそのまま静かに微笑むだけだ。
それじゃもう一人、予定変更しなきゃいけない奴がいる。
「エル、やっぱりお前はルサーリアさんと一緒にヴェネム大森林に帰ってくれ」
それを聞いてルサーリアさんへと顔を向けたエルへ、彼女は一つ頷いた。
「解ったんダヨ、死ぬなよクロ」
「ああ、もちろん」
エルの小さい手を指で握り、握手の真似事をしてみる。
それを見届けたルサーリアさんが牌谷さんへと声を掛けた。
「そうだ、置き土産、って程の物じゃ……ないんだけど」
そう言って手を差し出した彼女は、開いた掌に小さな魔方陣を展開し何かを召喚し始める。
「アンティフロラ……出てきて」
現れたのは毒々しい紋様の葉を携えた、美しい薄紫の花の植物だ。
「キヅナさん、これ……食べて」
「えっ……」
あからさまに嫌そうな顔の牌谷さん。きっと箱庭の楽園の光景がトラウマになっているんだろう。
だってあの花、多分あそこに生えてたやつだよな……。
「きっと、役に……立つから。あ、花のとこだけね、葉は……毒があるから」
「え、あ、う~ん…………はい……それなら……」
死んだ魚のような目で花の部分をモシャモシャ頬張る牌谷さん。
特に美味くも不味くもないといった表情だけど、気持ち悪そうに顔を青くしている……。ルサーリアさんが役に立つと言うなら取り敢えず食べとくしかないって感じだろうな。
長いこと咀嚼していたけど、覚悟を決めたのか喉を鳴らして花を飲み込んだ。
それを見たルサーリアさんが満足げに微笑むと、応えるように笑顔を見せた牌谷さんはエルにも別れの挨拶を告げた。
「エルちゃん、寂しくなるね」
「キヅナちゃん、きっとマタ会えるんダヨ」
そしてエルの小さな手とタッチすると顔付きを変えて一言放つ。
「行こうか、クロ君」
「ですね」
よし、出発だ。
袂を分かち、森の中へと消えて行く二人とエルへと手を振り見送った。




