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さあ、いつまでも休んではいられない。
まずは現状把握からだ。
魔王のスキル解除を行ったせいで、まあまあな量の魔力を消耗してしまったけど、スキルポーションのお陰でまだ体感六割くらいは残っている。ノクスに勝利してこれなら温存できた方だろうか。
スキルポーションの残りは、瓶の半分。自分の魔力を全快させるくらいなら十分過ぎる残量と言えるけど、今からは魔王が相手だからなんともだな。
ただノクスとルサーリアさんが味方についた訳だからこれから先はかなり有利に事が運べる。
と、そう思っていたのだけど、どうやらそれは難しそうな雲行きだ……。
「えっと、お二人は魔王にどうやってスキルをかけられて操られてしまったのか覚えていますか?」
軽い口喧嘩を続ける二人に質問を投げ掛けてみると、どちらとも眉を顰め悩ましげに考え込んでしまう。
先に口を開いたのはノクスだ。
「そうですね。今となっては操られていたと自覚できましたが、どうやってスキルをかけられたかは……まるで覚えていませんね。恐らくはそういうスキルなのでしょう」
「私は、操られて、いた時の事も……覚えてない。心と身体を、分離して、閉じ籠って……いたから」
「なるほど……」
二人とも症状に差はあれど共通して魔王のスキルについては何も知らないらしい。そこに関して少し考えを巡らせてはみたけど、やはりこの二人は連れていかないほうが無難なようだ。
「じゃあ、お二人はすぐにここを離れて故郷のヴェネム大森林に帰ったほうが良さそうですね」
「えっ、なんで!? ルサーリアさんもノクスさんもウチらより絶対強いのに!?」
牌谷さんは吃驚して声を上げたけど、それも当然だろう。俺だって二人には共闘して欲しい。
しかし、連れていけない理由はちゃんとある。
まず一つ。これが一番大きな理由になるけど、この二人、魔王に再び操られる可能性がゼロではない。
一度発動条件を満たした相手は目の前にいればいつでもまたスキルを掛けて操ることができる、魔王の能力がそんなものだったならどうなるか。
いざ四人で対峙したは良いものの、そんな場面でこの強力な二人が再び敵に回ったらどうやっても詰みだ。
一度しか確認できてはいないけど、魔王の周囲を見た限りこの二人は将棋で言えば間違いなく魔王軍の飛車、角行と言ったところだろう。ルベルとかいうイケオジが魔王然としていられるのも、この二人の存在が大きい筈だと思う。
要するにこの二人がいないだけで勝率はかなり上がる。それだけでもルサーリアさんとノクスを正気に戻した価値はある。
それともう一つ。ルサーリアさんはともかく、ノクスの方は満身創痍も良いところだ。そんな相手へ再び戦火に身を投じろとか……俺はよう言わんな……。
そしてなにより二人はせっかく正気に戻れたのだ、また魔王の傀儡に逆戻りとなるようなリスクは負わせられない。
「と言うことでお二人には戦線離脱してもらうのが個人的には一番安心なんですが……」
「うっ、確かにそうかも……」
残念そうな顔をしてはいるけど、もともと心根の優しい牌谷さんは納得してくれたようだ。
「そうですか、しかし貴方達二人も私達と一旦逃げて体勢を整えるという手段もありますが」
「それも考えたんすけどね。でも今日、魔王は何か大きな事をやるつもりなんじゃないかと俺は睨んでます。だから逃げている時間は無いような気がして」
それに俺達の目標は地球に帰ることだしな。
三日間の極夜が続くこの贄の夜、その間はまだ向こうと何かしら繋がっているんじゃないだろうか。
だから、今しかできないことがあるんじゃないかと俺は考えている。
「ノクス……さんは魔王の近くにいて何か気がついたことはなかったっすか?」
「ふふ、先程と同様に呼び捨てで構いませんよ。それにしても良い勘をしていますね、詳細は解りかねますが今日の夜にルベルがなにかやるつもりなのは間違いなさそうですよ。それと、その鍵となるのはカナサという人間の娘、と言うことだけは確かです」
星澪奏紗か。なるほど、見た目が魔王の好みだから生かされたって訳じゃないらしいな。
「そうだ、それならノクスは星澪奏紗のスキルがなんなのか知ってるんすか?」
「これも詳細はわかりませんが、私が知る限り彼女はいくつもの属性を操る……ルサーリアとはまた違う上位の魔女のような印象を受けましたね」
「魔女っすか……」
未来視で何かしらの結界を張ろうとしていたのもその一端だろうか。仮に攻撃魔法なんてのも使えたとしたら、操られている彼女との戦闘も有り得るかもしれないな。
一人考え込んでいると、ノクスが続けて話を始めた。
「あと、もう一つ。ルベルのもとへ行くなら急ぐ事をおすすめしますよ。城は恐らく贄の夜の盛大なフィナーレを迎えているとこでしょうから。何かするならそこでしょうね」
「マジっすか! 牌谷さん、行きますか」
「うん! ってあれ、でもなんか策はあるの?」
「うっ、敵が解らないのでまだなんともですけど……」
牌谷さんの問い掛けに顰めっ面でもう一度考えを纏めてみる、けれど今はやはり策という策は思いつかない。相手の能力を知らないのだから当たり前だ……。
「ゴメン変なこと聞いた、ここにいてもどうしようもないよね! 行こう、相手を見たらクロ君ならきっと何か閃くよ!」
それは買い被りすぎです……。だけど、ここにいても時間が過ぎるだけなのは事実。
そうだな、取り敢えずでも動かないと。フィナーレで魔王の目的も解るかもしれないし。
「期待に添えるかは解りませんけど善処します。行きましょう」
さあ、いよいよ最終決戦……。やっぱり不安だ……。




