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触れた手から俺の魔力がノクスの身体に流れ込んでいくのがわかる。
それは奴の体内を巡り、その意識を支配する魔王のスキルと思われるものを探り始める。
「なっ、これは!?」
「はい、ちょっと大人しくしててくださいね」
ノクスは身をよじって俺から逃れようとするけど疲れきった身体のせいか、それともスキル発動中だからなのか、その力はあまりに弱々しい。
暫く抵抗のような素振りをみせはしていたものの、諦めたのかゆっくりとその場にへたりこんでしまった。
フルボッコなんて冗談混じりに言ったけど、多分これくらいノクスを消耗させなければ『アンチスキルコート』は失敗していただろう。
全快のコイツに発動したところで身体を覆う黒い魔力がスキルを遮ってしまい、きっと体内まで効果は届かない。と言うかそもそも数秒の間ノクスに手を触れ続けること自体がまず無理だったろうしな。
それにしても、硬質化が解けたノクスの毛並み。しっかりとしていながらも艶のある柔らかい手触り。大型野生動物はもっとゴワゴワしてるのかと思ってたけど……これは……うーむ……なかなか……。
モフモフに触れる喜びは異世界でも地球でも変わらないらしい。
もっとワシャワシャしたいところだけど今は我慢だな……。
そしてとうとうアンチスキルコートに変換された俺の魔力がノクスの中の異物を感知。消去を始める。
よし。この魔力消費量なら、いける。
「ルサーリアさん! 箱庭の楽園を解除してもらえますか!?」
「解った。エデン、ありがとう……戻って」
ルサーリアさんの一声で、周囲の禍々しい光景が元の石造りの部屋へとみるみるうちに戻っていく。
これで、ノクスが魔力毒素にやられて死ぬ心配はない。
環境が整ったと同時にスキルの消去も終わったようだ。
『対象スキルの消滅に成功』
ノクスの中で何かが砕け散った感覚と共にアンチスキルコートの稼働が止まった。
「くっ、頭が……」
ノクスは臥せったまま何とか首をもたげるが、頭痛が酷いらしく結構辛そうだ。
ルサーリアさんの場合は、一度死んで生き返ったことで魔王の呪縛とやらが解除されていた。
更に復元されたことで健康状態は極めて良好、おまけにエルという存在のお陰で現状把握もスムーズに行えた訳だけど……。
ノクスのように生きている状態での強制解除はその精神や人格にどのような影響を及ぼすのかは、未知数過ぎてちょっとだけ恐ろしい。
変なことにならないよう祈るばかりだ。
そんな懸念を抱く俺を尻目に、ルサーリアさんが掛けた第一声は以外にも挑発的なものであった。
「ノクス、私に負けて……這いつくばったままだね。躾は、これで完了……したのかな?」
「な、なにを……。ルサーリア……なぜここに……。いや違う……、なんだ……長い夢でも見ていたような……」
未来視で涙を流していた女性とは思えないほど、冷ややかな視線と声。
しかし彼女の謗りにも近い台詞を聞いて少しは頭が回り始めたのか、ノクスは力を振り絞って上体を起こすと慌てるように人型の姿へと成り変わった。
「どうも記憶が、はっきりとしませんね……。それに身体が死ぬほど重い……。……それに、ルサーリア……今なんと言いました、私が負けた?」
ノクスは訳が解らないといった風に周囲を見回し状況を確認、屈んだままルサーリアさんを睨み付け言葉を続けた。
「こんなやりにくい場所で貴女に挑むほど愚かでも自信過剰でもありませんよ……」
「本当に、戻ったみたい……だね。どう? 動ける?」
そう言って差し伸べられた手を掴むこと無く、ノクスは自らの力で立ち上がり黒装束の埃を払いながら平然として見せる。
まあ、大分フラついてるけどな……。
「なんですか、その手は。貴女の手を借りる謂れはありません」
「元気だから、安心しろ……ってこと?」
「な、何を知った風な……そんなわけないでしょう……! だいたい貴女に触れたら毒が浸食してくることをお忘れですか? 汚らわしい」
「ノクスなら、大丈夫……だよね?」
「今の私にそんな体力があるとでも……」
二人はしばし言い合いとも痴話喧嘩ともつかないやり取りを続けた。
ふむふむ、もとはこんな感じか。この二人は。
ちなみに俺はノクスが急に人間の姿になった理由をなんとなく察している。多分そうなんだろうな、という憶測程度ではあるのだけど。
アイツ……呪縛が解けた後ルサーリアさんの声を聞いた瞬間、怪我をしている尻尾がパサパサ動いていた。
イヌ科が喜んでいるときのアレに違いない。それに気づいてハッとした途端、人間の姿に変化したのだ。
ノクスの奴、縄張り争いという名目でルサーリアさんにちょっかい掛けていたのはそういうことだろうか……。
見た目は「女をATMにして飯ウマ人生送ってます」みたいな顔してるくせに、中身は小学生男子レベルなのだろうか……。
何はともあれ、事が上手く運んだことに安心したよ。まだ先のことは考えなきゃだけどひとまずは喜んでいいんじゃないだろうか。




