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どうやらノクスには魔女の毒は効かないらしい、あの濃い紫の毒の瘴気の中でも平然としているからだ。
奴の全身を覆う黒い魔力は、漂う毒素を中和し消滅させてしまうようだ。
「ノクスの苦手は、知ってる。こんな狭いところじゃ、私には……勝てない、絶対に。メナスフィア……出てきて」
「あまり舐めた口を──ぐぁっ!」
二人の周囲をより一層濃い紫の瘴気が包み込みその姿を隠した瞬間、ノクスが低く呻いた。
瘴気の中を、姿の見えない何かが飛び回りノクスへと攻撃を仕掛けているらしい。
「エル、今何が起きてるんだ?」
「あれはメナスフィア、透明で見えにくいけどサリーが育った呪毒湿原にいる丸っこくて獰猛な魔法生物なんダヨ。サリーが最も得意とする魔法は召喚サ、と言ってもクロの闇の魔獣とは規模が違うからナ。その気にナレばサリーは呪毒湿原をコノ場にソノままそっくり顕現できるんダヨ」
おいおい、俺を矮小な比較対象に持ち出して得意気に語るんじゃねぇ傷つくだろうが……。それはまあいいとして、召喚の概念が俺とは違い過ぎてよくわからんな……。
「そう言えばあの二人、どういう知り合いなんだ?」
尋ねると、エルは悩ましげに返事をする。
「うーん、僕にはちょっと説明が難しいんダヨ。関係性は共有しとくカラ確認してみタラいいサ。個人情報だカラ最低限だけどナ」
──ふむふむ。
二人は魔王の配下になる以前、何処かの土地で敵対していたらしい。
場所はこの城から遥か西に広がる樹海、ヴェネム大森林。二人はそこの出身だそうだ。
余談だけどこの情報によると、ノクスは正確には魔族ではなく魔獣なんだそうだ。
ダンジョン魔物とは一線を画す魔獣というその存在は、ダンジョン由来で特異な進化を遂げた元は普通の獣達。
ノクスはヴェネム大森林の一画を統べる一匹であり、『神獣』と讃えられる存在らしい。まあ森の主的なアレだな。ちなみに何匹かいるそうだ。
それと、人型は人化の術とやらで変身するとのこと。
話を戻そう……二人がもめた理由は単純であり、一言で言うなら縄張り争いだ。樹海の中の土地を巡って争っていたらしい。
簡単な情報共有しかしてもらってないからここまでしか解らないな。しかしエル、牌谷さんの時といい、個人情報とか変なとこで気を回してくるな……。
「なんとなく関係は解ったんだけど、てことはエルもノクスの事は知ってるんだよな?」
「勿論ダヨ」
「じゃあもっと早い段階でノクスの感知スキルの正体を共有してくれてたらよかったじゃないか」
「それは僕も知らナイんダヨ、知ってたら教えてたサ。昔サリーにも聞いたケド『友達の秘密は、友達にも……言えない』だってサ」
そう口にするエルはなんとなく複雑そうだ。
そりゃあ多分エルの方が先にルサーリアさんに出会っているんだろうから当然か。
まあ、嫉妬ってとこだろうな……w
「そうか、なら仕方ないか。ん? て言うかあの二人は仲良いのか?」
「そこが僕にはヨク解らないんダヨ。喧嘩ばかりシテたのに友達だって言うサリーの言葉は理解出来なかったからナ」
なるほど、エルの気持ちも解る。
喧嘩するほど仲が良いとは言うけど、あれは喧嘩というより殺し合いだからなぁ……。
濃霧のような瘴気に霞んでハッキリとは見えないけど、どうやらルサーリアさんの方が優勢だ。
聞こえてくるのは強烈な打撃音とそれに合わせて身体を揺らすノクスの影。どう見てもボッコボコにされてる。
二人の足元を見れば、いつの間にか沼地のようにドロドロとした紫の何かに浸食されている。あれは俺が闘技場で触れたのとは違う、本物のヘドロのような物体だ。
ノクスの動きが急に鈍くなったのはあのヘドロが原因のようだ。足を取られて本来の機敏な動きは殺されてしまっているのだろう。
「ねえノクス、前より……弱くなった?」
「これだけ自分に有利な場を作っておいてよくほざきますね……。ぐぁっ!」
「こんなとこで、戦ってる……君が悪い」
「ぐっ、黙れっ!!」
吼えたノクスは纏う黒い魔力を全開にして広範囲に展開、周囲の瘴気を吹き飛ばすと同時に中和し消し去る。
次の瞬間には、姿の見えないまま周囲を飛び回る数匹の魔女の使い魔を引き裂き、噛み砕き、叩き潰した。
「それ、最初から……やればいいのに」
「私も全快ではないものでしてね」
「尻尾が、折れてる。あの子に……やられたの?」
「お喋りは終わりです」
「恥ずかしい……ってこと?」
「……う、五月蝿い! 何を解ったような────ぐっ! 違う、殺せ殺せ、殺す!」
一瞬、仲良さそうにも見えたんだけど……。
ルサーリアさんの言うとおりノクスは時折言ってる事がおかしくなるな。
と言うより彼女が現れてからだ、ノクスの様子がおかしくなったのは……。
やはりノクスも魔王に何かされている……。
いや、未来視で見た二人のやり取りはごく自然だった。操られているならルサーリアさんみたいに不自然なところがあって然るべき……。
いや、そうか。一つあったな、『自然に見える不自然』。
星澪奏紗だ。
彼女は魔王に対して、まるで側近か妾のように自然な接し方をしていた。それを見て違和感を感じたのは覚えている。
日本人であるからこそあれが不自然に思えたけど、ノクスもまた彼を知る者から見ればあの魔王への態度は不自然極まりないものなのかもしれない。
つまり魔王には他人を操る方法が複数あるってことか……?
しかし、そうなるとノクスは味方にできる可能性がある。……かも?




