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件の殺傷事件を起こしたのは、ここ半年程で一気に名を上げた冒険者パーティーであった。
リーダーの名はレイ・グラント、所持スキルは緑スキル。
彼らは五人パーティーであり、他の者も同様のレア、若しくはそれ以下のスキルしか持たず、青スキル以上の者は一人もいない所謂弱小パーティーと呼ばれる者達だ。
だからだろう、彼らはもう長いことダンジョン浅層のみを探索して回るだけ。
周囲からは一向にうだつが上がらない冒険者一行として認識されていた。
それ自体は普通のことだ、彼らは特に馬鹿にされたり蔑まされることもない。
上位者からはほんの少しの憐れみや嘲りを含む視線を向けられることはあったかもしれないけど、一流がいればその下には二流、三流がゴロゴロいるなんてのはどの界隈でも当たり前の話だ。
彼らもそんな有象無象の一つであったから特別に周囲より劣っているわけではない。
だけどそうした理由からダンジョン浅層は低ランク冒険者達で過密状態、広大な奈落迷宮とは言え人が多すぎれば当然収穫物も減る。
故にレイ達の稼ぎは、楽はできないけどその日を暮らすだけならなんとかなるようなボチボチ程度、それが彼らの冒険者ランクだ。
しかしそれで満足するような輩はそもそも冒険者にはならないだろう。
他に手堅い仕事も数ある中で、こんな職業を生業に選ぶような人間は大なり小なり自分には特別な何かがあると信じて止まない人種であり、もちろんレイもその口だった。
いつかは自分も世に名を馳せる一流の冒険者になってみせる、そんな常套句のような台詞をことあるごとに口にしていたそうだ。
これが凄惨な事件を引き起こした男の世間的な人物像と評価である。
事件があった日から半年程前に遡ろう。
その日リーダーのレイは強い決意でダンジョンへと挑もうとしていた、「今回こそは必ず深層に辿り着く」と。
深層に行けば希少鉱物は勿論、高い値のつく魔物肉も手に入る。人も少ないから取り合いになることもない。
そして策もあった、この日の為にはスキル強化剤を買い貯めておいたのだ。
レイが考えたのは普段から常用していたスキル強化剤の大量摂取による重複強化。
今で言うオーバードーズというやつだ。
危険性があるとのことでそれをやろうと思う人間は今までいなかったし、比較的手頃な価格とは言え一度に使い過ぎれば赤字となる。
お金を稼ぐためのダンジョン探索であり、スキル強化剤を買うために潜る羽目になればそれは本末転倒。
節約こそすれ大量使用する者などそもそもいなかったのだ。
だが承認欲求高めのレイにとっては金は大事だけども名声も同じくらい大事だったのだ。
彼はこの日のためにダンジョンの外で一度、スキル強化剤の重複使用を試したことがある。
結論から言えば二本目を飲むことで明らかにスキルの出力は増した。一本目ほどの強化量は得られなかったものの、それはレイにとって上々の結果と言えた。
ちなみに彼のスキルは身体強化だ。
『スキル:身体強化【C】』
『ランク:レア』
『フォーム:能動、強化』
『発動すると徐々に魔力を消費。魔力が持続する限り身体能力、肉体強度を強化する』
まあマンガや小説で必ず目にする、至ってシンプルなあれだ。
そしてこのスキルは強化剤との相性が最も良いと言われているそうだ。
レイはオーバードーズで大幅に底上げした身体強化を頼りにダンジョンへと挑む。
それは見事に功を奏し、レイのパーティーは見事に深層への到達と探索を成功させたのだった。
成功の大きな要因はやはりレイの鬼神の如き戦いぶりだ。
まずはオーバードーズによる絶大なスキル出力で強力な魔物を仕留める。次いでその肉を皆で食べパーティー全体を強化しながら着実に進んでいく。これは一流冒険者パーティーにのみ可能な常套手段である。
そしてその恩恵が最も大きかったのもレイであり、オーバードーズと魔物食による重複強化は凄まじいものであった。
二週間以上に及ぶ探索から帰還した彼らが手にした報酬は、スキル強化剤に突っ込んだ金額とは比べものにならなかった。
これに味を占めたレイ達はこのやり方を繰り返す。
そこから半年、レイのパーティーはラノベの主人公のようなサクセスストーリーを一気に駆け上がるのだった。
しかし周囲からは羨望の眼差しとともに疑念も伴う、「彼らはなぜ急激に活躍しだしたのか」と。
まあその疑念もスキル強化剤のオーバードーズという裏技がすぐに露見したことで払拭された。
それが払拭と言っていいのかは解らないけども……。
レイ達の大活躍が世間を賑やかしている頃、その裏では彼らを真似しようとした低ランクスキル冒険者達のオーバードーズが最早あとに引けない程に蔓延しきっていた。
当然そうなると強化剤の価格は高騰し、オーバードーズの使用が難しくなる。
すると深層に潜るのが厳しくなり、当然収入は激減する。
しかし一度登った贅沢の階段というのはなかなか降りられるものではない。
今の生活を続けたい、栄誉を守りたい、分不相応な報酬を得ていた者達は皆そう考えた。
ならばより深層に行けば良い、それなら元が取れる。そんな浅はかな考えで無茶をする者も現れ強化剤はまた売れる。
解りやすい悪循環であったけど冒険者達は今の生活を守るため、スキル強化剤の使用を続けるしかなかった。
彼らは強化剤の材料がなんなのかも知らずに飲み続けたのだ。




