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簡潔に言えば、この異世界にも人間はいるようだ。
ただし地球のように生存競争の勝利者として地上を我が物顔で支配している訳ではない。
こちらでは圧倒的に魔族が優勢であり戦いに負け続けている人間はその生活圏を奪われ、今もその数を減らしているとのことだ。
そう言えば魔族の奴ら、晩餐会で人間を喰ってたしな……。
魔族らにとっては人間も食い物の一つなのか。それにしても同じような知能を持った人間の天敵がいるとか、この世界怖すぎるだろ。
『わかったカ? この城だってもともとは人間の造った物ダシ、当然城下町も人間が暮らしてた場所なんダヨ。それが魔族に奪わレて今に至るってトコさ』
『俺が勝手にそう呼んでたけど、ほんとに魔族って呼び名なんだな』
『おまえの知識に合わせてるだけなんダヨ。デミヒューマン、亜人、真人、適応者、使徒、呼び名はたくさんあるヨ』
『なるほど、亜人とかデミヒューマンとか、人を基準にした呼び名が多いってことは人間より後に生まれた種族ってことだよな?』
『そうだナ、おまえはこの世界の事をモウ少し知ってオイてもイイかもしれないナ。ホラ──』
エルからまた新たな知識が共有される。
────そうか、魔族とは……。
この話題に関しては先にこの異世界の奈落迷宮、通称ダンジョンと呼ばれているものについて説明したほうがいいかもしれない。
この世界に召喚された時、最初に魔王が演技で話をしていたダンジョン。
星幽炉の部屋からダンジョンに繋がる階段があったから存在自体が本当であることは知っていたけど、どういうものかは全く知らなかったあれだ。
この世界に初めて奈落迷宮の入口が現れたのは今からおよそ二千年前らしい。
それはとある小さな村の近くに大口のような姿を現すと、たちどころにその村を……、栄耀栄華の極まる豊かな街へと変貌させてしまった。
街はやがて都市に、そして国へと変わり発展の一途を辿ることとなる。
理由は単純であり、ダンジョンの中には金銀を始めとして、アダマンタイト、ミスリル、オリハルコン、あらゆる希少鉱物が埋蔵されていたからだ。
ダンジョンには魔物と呼ばれる化物が闊歩していたが、浅い階層に生息している魔物は危険も少なく弱いものばかり。
故に、ただただ欲望を満たしてくれる奈落迷宮を人は神の贈り物として崇め奉りながら発掘を繰り返したのだった。
そして最初のダンジョンが口を開いたのを皮切りに、世界中のあらゆる場所にダンジョンは同時多発的に現れ、各々の地で人々の欲望を満たし続けてきた。
当たり前だが領内にダンジョンを有する国は必然的に強国となり、それらは隣国を飲み込んで更に強大になっていく。
ここからは大きな人間同士の戦争時代が始まるけど、そこは割愛しとこう。
暫く続いたその争いが産んだものがスキルだ。
きっかけは大国に侵攻されつつあったとある小国、その領内に突如として出現した奈落迷宮だ。
小国の王はダンジョンへと自ら赴き、願った。
国を救える力が欲しいと。
希少鉱物や財宝を発掘する場所とされてきたダンジョンで、王が何故そのような事を願ったのかは解らない。
だが後に王は語っている。
ダンジョンがその口を開く前の晩、夢の中で何者かの宣託を賜ったと。
それは神なのか悪魔なのか、それとも奈落迷宮そのものの声だったのか真相は定かではなかったが、王の願いは即座に聞き届けられる。
ダンジョンの中に現れた女神像が彼に力を与えたのだ。
王がどのようなスキルを付与されたのかは定かではないけど、彼こそが世界で最初のスキル保持者だと言われているそうだ。
スキルの力に感銘を受けた王は国民に広く募り、とにかく多くの民にスキルを覚えさせることに専念した。
凡庸なスキルを得る者、人の枠を越えるほどのスキルを身に宿す者、スキルの数は千差万別であったが国民のほとんどにそれが宿れば軍の戦力増強は凄まじい。
結果、この小国は精強なスキル部隊を編成するに至る。
その効果は絶大で、小国は一時戦況を覆す。
だけど当然、侵略を行った大国もそれに倣う。
急激に増した相手の戦力の秘密を探り、その要因を突き止めた侵略国は自国でそれと同じことをやったのだ。
そしてスキルを有した軍隊を急ぎ編成し前線へ投入、条件が同じなら数の劣る小国に優位性はない、結局はすぐに滅ぼされてしまう事となる。
ここからは異能兵による戦争が一般化する時代が訪れる。
特に猛威を奮ったのは攻撃的なエクストラスキルを有している者や、最高位の魔法使い、魔女達だ。
兵士の数も然ることながら、一騎当千とも言えるエクストラ級の戦力が何人いるかは勝敗を分ける重要な要因とされていたからだ。
だが国内にエクストラ級の能力を付与されるほどの才能を持った者が現れるかどうかは運である。
どれだけ厳しい訓練で兵士を精錬しようと、後天的にエクストラの域に達する者は稀であるからだ。
そこである大国は考える、安定した戦力の増強を図る為にも人為的にエクストラランクの兵士を造り出せないかと。
ここからがこの異世界人類の悪夢の始まりだ。




